農薬ネオニコチノイドに警鐘  「予防原則」で命守れ

★『予防原則』が重要
科学的証拠がそろってから行動したのでは手遅れとなる場合に重要なのが『予防原則』の考え方。取り返しのつかない結果を招く行為や重大な危害を引き起こす恐れがある行為に対して、たとえ科学的根拠が不完全でも、事前に危険を回避するために対策を講ずるという考え方が、今ほど必要な時代はないだろう。

★原発を強引に推進しようとしている経団連。その会長である米倉弘昌氏は住友化学会長でもあるが、ネオニコチノイド系農薬の大問題が指摘されても「目先の経済」を重視して「いのち」を軽視している。その姿勢は、原発とまったく変わらない。

農薬ネオニコチノイドに警鐘 
「予防原則」で命守れ 著者・水野さんに聞く

(2012年09月26日 西日本新聞)

 国や専門家のお墨付きをもらいながら、覆された事例は原子力の「安全神話」同様、少なくない。農薬の場合もまた、数多くの犠牲者を出しているのに確証がとれなかったために対応が遅れ、被害を拡大させた歴史を持つ。諸外国ではその危険性から一部で規制が始まったにもかかわらず、日本では使用量が増え続ける新農薬について警鐘を鳴らす「新農薬ネオニコチノイドが日本を脅かす もうひとつの安全神話」(七つ森書館、1890円)を著したNPO法人「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」の水野玲子理事に聞いた。 

 ―ネオニコチノイド系農薬とは。

 「広く使われている有機リン系に代わる新農薬として登場した。タバコの有害成分であるニコチンに構造式が似ており、この名がついた。日本では1990年代初頭に農薬登録され、『弱毒性』『害虫は殺すが人間には安全』『少量で効果持続』という触れ込みで浸透した。野菜や森林の松枯れ駆除以外にも家庭のコバエやゴキブリ殺虫剤、ペット、住宅建材などに使われはじめ、国内出荷量はこの10年で約3倍に増えた」

 ―ヒトの神経にも影響があるのか。

 「米国ハーバード大の研究者らは2010年、極めて低レベルであっても、有機リン系の代謝物が尿から平均より多く検出された子どもは、注意欠陥多動性障害(ADHD)になりやすいという論文を発表。昆虫の神経系を破壊しようとして開発した有機リン系農薬によって、人間の子どもも神経に異常をきたすことが、科学的に証明された」

 「神経伝達物質はヒトの自律神経だけでなく、脳や記憶、学習、情動のほか、免疫系や脳の発達に重要な働きをする。その神経系の構造は、昆虫もヒトも基本的には同じなのだ」。

 ―最近、神経系の病気が増えていると聞いた。

 「運動機能が衰え、手足の震えや筋肉の硬化が起きるパーキンソン病は、神経伝達物質をつくる神経細胞の劣化・消滅などが原因。日本では1980年からの30年間で、患者数は関連疾患も入れて13・6倍に増え、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病患者も急増している。有機リン系と違う形で神経伝達を阻害するネオニコチノイド系農薬もまた、各地で報告される空中散布によるとみられる健康被害やミツバチの大量死と照らし合わせると、有機リン系農薬と同様、人体への影響が懸念される」

 ―ただ、この手の話は、因果関係を明らかにするのが実に難しい。

 「だが、科学的証拠がそろってから行動したのでは手遅れだ。そこで参考になるのが『予防原則』の考え方。取り返しのつかない結果を招く行為や、重大な危害を引き起こす恐れがある行為に対して、たとえ科学的根拠が不完全でも、事前に危険を回避するために対策を講ずるという科学を超えた判断の指針だ。欧州などで政策を組み立てる際に採用され、ネオニコチノイド系農薬の使用もさまざまな局面で制限されている」

 「いたずらに危険性をあおるつもりは毛頭ない。しかし今回の原発問題では、専門家たちによってこれまで意図的に隠された真実が見えてきた。気づかないうちに私たちの暮らしに深く浸透しているネオニコチノイド問題もまた同じで、子どもたちの未来を守るには私たち一般市民が少しでも多くの知識を持ち、情報を共有することが大切だ」

 ●解説冊子好評 1万部

 NPO法人「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」が、ネオニコチノイド系農薬に疑われる危険性を解説した小冊子「ミツバチ・生態系・人間」(A4判、カラー、17ページ)が好評だ。これまで国内外で発生したミツバチの被害や規制の状況、農薬がヒトに影響すると考えられる論拠などについて、イラストを使って分かりやすく表現。増刷を重ね、発行部数は1万部に到達した。

 希望者は、300円分の切手を同封し〒160―0004、東京都新宿区四谷1の21 戸田ビル4階、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議に申し込む。問い合わせは事務局=03(5368)2735。

=2012/09/26付 西日本新聞朝刊=

住友化学を悩ます「農薬問題」 問われる人体への「深刻な影響」
(2012年11月30日 Yahoo!ニュース)

農薬のトップメーカー・住友化学が最重要商品に位置づけている新世代殺虫剤への風当たりが強くなっている。

 この殺虫剤は、1990年代以降に開発され、世界で急速に普及している「ネオニコチノイド系(以下ネオニコ系)」農薬の一つである「クロチアニジン」。国内ではダントツ(農業用)やフルスウィング(芝用)などの商品名で販売し、欧米ではバイエルクロップサイエンス社と共同で事業を展開している(商品名はポンチョなど)。

 ネオニコ系農薬はニコチンと類似の化学構造をもつ神経毒性物質で、クロチアニジンのほかバイエル社のイミダクロプリド(商品名はアドマイヤーほか)や日本曹達のアセタミプリド(同モスピランほか)など合計七種類が120以上の国で販売されている。2008年の総売上高は約15億ユーロ(約1500億円)だが、農業以外の使用分も含めればその2倍になるという。

<発達障害の原因の可能性あり>

 ネオニコ系農薬は幅広い害虫に効果がある一方、哺乳類や鳥類、水生生物には毒性が低いとメーカーは説明し、家庭園芸用からシロアリ駆除剤、ペットのノミ取り、コバエなどの害虫駆除剤まで身の回りでも広く使われている。

 その最大の特徴は、殺虫成分が根などから作物に浸透し、作物全体に移行する「浸透性」にある。昆虫は葉や実を食べても、樹液や蜜を吸っても毒が回り、神経をやられて死んでしまう。
 また効果が長続きする「残効性」にも優れており、致死量未満の量でも継続的に使用すると昆虫には致命的になる。

 このように使う側にはまことに都合がよい半面、標的以外の昆虫にはきわめて有害で、多くの国でミツバチ大量死の原因になっている。このためイミダクロプリドやクロチアニジンはフランス、ドイツ、イタリアなどで厳しい使用制限が課されている。

 日本でも各地でミツバチが大量死しており、それが一因になって09年には、イチゴやメロンに授粉するミツバチが全国で不足し、園芸農家が困り果てる騒ぎになったが、農林水産省は抜本的な対策をとっていない。

 最近、懸念が強くなっているのが人の健康への影響だ。

 青山美子医師(前橋市の開業医)と平久美子医師(東京女子医科大学)によれば、ネオニコ系農薬は人に摂取されると中枢神経系、自律神経系、骨格系に関連する多様な症状を引き起こす。脈の異常、指の震え、発熱、腹痛、頭痛、胸痛、短期の記憶障害も起きる。

 04年と05年に群馬県内で松くい虫防除にネオニコ系農薬を送風散布装置でまいた直後、多数の患者が受診したが、症状の出方が動物実験の結果とよく似ていた。

 また、国産の茶飲料と果物を大量に連続摂取した患者が、同様の症状で受診している。日本では、茶葉や果物、野菜へのネオニコ系農薬の残留基準が欧米にくらべて桁違いに緩やかに設定されていることが背景にある。

 これらの結果から平医師らは、ネオニコ系農薬は(欧米では多くが使用禁止になっている)有機リン系農薬より安全とはいえず、使用者だけでなく、一般市民にも健康影響を及ぼすと結論づけている。

 脳神経科学者の黒田洋一郎・元東京都神経科学総合研究所参事研究員によれば、米国や日本で90年代以降、自閉症や注意欠陥・多動性障害(ADHD)など子どもたちの脳の発達障害が激増した。原因として神経毒性をもつ殺虫剤が疑われており、米国で疫学調査の結果が出始めている。

 まず一昨年、より多くの有機リン系農薬に曝露された(摂取した)子どもにADHDになる率が高いことが示された。続いて昨年は、有機リン系農薬の曝露で子どもの記憶や知能指数(IQ)に悪影響が出ることを示した研究が3つも発表されている。

 ネオニコ系農薬は有機リン系農薬と同じように、人の重要な神経伝達物質の一つアセチルコリンの働きを攪乱する毒性をもっており、発達障害の原因になる可能性が大きい。

 ニコチンについては、妊婦が喫煙すると早産、低体重出産、ADHDなどの悪影響が出ることが分かっているが、ニコチンと似た構造のネオニコ系農薬に同じ毒性があっても不思議はない。

 しかし、現在の農薬の安全性評価では以上のような危険性は全く考慮されていない。このため研究者や市民団体からは「疑わしきは使用せず」という予防原則に基づき、有機リン系農薬やネオニコ系農薬の使用を禁止すべきという主張が出ている。

 ネオニコ系農薬への逆風をさらに強めようとしているのが、世界最大の自然保護機関・国際自然保護連合(IUCN、本部・スイス)だ。研究者らが09年にフランスに集まり、昆虫や鳥類が90年代以降、壊滅的な減少を示していること、その主要な原因の一つがネオニコ系農薬であることで一致した。これを受けてIUCNに「浸透性農薬タスクフォース」が設置され、昨年から活動している。

 IUCNは今年9月に韓国で開いた第五回世界自然保護会議で、浸透性農薬の地球規模の脅威に取り組む決議を採択した。それに先立って東京でフォーラムを開き、内外の研究者がネオニコ系農薬の生態系と人の健康への影響をめぐって報告と討論を行った。

 タスクフォースは今後、科学的証拠の検証や人体への影響の調査を進め、確証が得られ次第、世界で広報活動を展開し、政界と経済界にこの農薬の禁止や規制を働きかけていく。

 かつて、強力な殺虫効果をもつDDTは「奇跡の農薬」といわれ、大量に使われた。しかし分解されにくく、環境中に放出されると食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積し、鳥たちを死に追いやる。その事実を米国の作家レイチェル・カーソンが『沈黙の春』で告発。それがきっかけになって使用が禁止されるようになった。

「沈黙の春を繰り返すな!」を合言葉にしたIUCNの活動が、ネオニコ系農薬を「第二のDDT」とする日が来るかもしれない。

<経団連会長会社の倫理観>

『沈黙の春』の時代から農薬の規制は常に不十分で、多くの野生生物を殺し、人にも被害を及ぼしてきた。しかし、生態系の保全や人の命を最優先しようという21世紀になって、同じ過ちを繰り返してはならない。

 国内では厚生労働省や環境省が規制強化を検討すべきだ。同時に経団連会長会社である住友化学の倫理観や経営姿勢も問われる。生態系を乱し、人体に悪影響を及ぼすような農薬を、儲かるからといって販売し続けることは許されまい。

経団連会長 安倍総裁


ネオニコチノイド系の農薬
(2009-11-26 雁屋哲の今日もまた)

 今日は、次回の「美味しんぼ」「環境編」その2の取材に前橋まで行ってきた。 当地で内科小児科を開業されている「あ」先生をお訪ねして、ネオニコチノイドの話を色々伺った。

 有機燐系の農薬が人体に非常な害があると言うことで、その代わりに登場したのがネオニコチノイド系の農薬だ。

 最近、世界各地でミツバチが姿を消していることが話題になっている。
 その原因はネオニコチノイド系の農薬であるとされて、フランス、イタリアなどでは使用が禁止された。

 ミツバチは農作物の受粉に大きな役目を果たしている。
 ミツバチは、花の蜜と花粉を得たいが為に花に潜り込んで蜜を吸い、花粉を集めるのだが、その行為が花粉をめしべに付けるという極めて重大な役目を果たしているのである。

 ミツバチがいないと、花は幾ら咲いても受粉が出来ず、果物も実らない。
 ところが最近、有機燐系の農薬に変わってネオニコチノイド系の農薬が使われるようになって、状況が一変した。

 ネオニコチノイド系の農薬は、蜂の神経系を破壊し、そのために多くの蜂が死に、さらに、一旦巣を出た蜂が自分の巣に戻ることが出来ずにのたれ死にすることが続き、ヨーロッパでもアメリカでも、日本でも、ミツバチが大量に死滅する現象が起きている。

 私は、このネオニコチノイド系の農薬は最初、そのミツバチの問題だけとして考えていた。
 しかし、今日「あ」先生のお話を伺って、これは蜂どころの問題ではない、我々人間もこのネオニコチノイド系の農薬によってひどい害を受けており、このままでは、日本人全体が滅びかねないという事実を認識した。
 ネオニコチノイド系の農薬の人体に対する悪影響をきちんと科学的に検証し始めたのは「あ」先生を始め、数人の医学者だけで、厚生労働省の役人たちは「あ」先生の資料を見もせず、鼻であしらってこの問題を考えようともしないそうだ。

 この、ネオニコチノイド系の農薬の話は、来年から始まる「美味しんぼ」の「環境問題篇」で取り上げるが、自分たちの命と健康に関心のある方は、直ちに、このネオニコチノイド系の農薬について、色々と調べ始めて欲しい。

「あ」先生が強調されたのは、自然の山の水、御不動様の水、何々山のわき水、などと言う物を一切飲むのはやめにしていただきたいということだ。

 ネオニコチノイド系の農薬は地下水に入り込み、見た目には麗しい清水はネオニコチノイド系の農薬で汚染されているというのだ。

 特に、その周囲数十キロメートルの範囲にゴルフ場があるようなところの湧き水は飲まない方が良い。ゴルフ場は、あの芝生を保つために大量の農薬をまき続けているのである。ゴルフ場は農場ではないので、農薬の規制など無い。あの麗しいグリーンを保つために大量の農薬をまき続けている。

 その農薬が地下水にしみこみ、その数十キロ範囲内の湧き水に溶け出す。湧き水だから、自然で健康によいと思ったら大間違い。

 湧き水や、どこぞの山からくみ出した自然水などとうたっているペットボトル入りのいわゆるミネラルウォーターはネオニコチノイド系の農薬に汚染されているというのが「あ」先生のご意見である。

 また、ネオニコチノイド系の農薬の一つアセタミプリドMRLのリンゴに対する使用基準は、EUが0.1pp、アメリカが1.2ppm。それに対して日本は5ppm.

 イチゴについては、EUは0.01ppm,アメリカは0.6ppm。それに対して日本は、5ppm、となっている。

 茶の葉に至っては、EUの使用基準が0.1ppmに対して、日本は50ppmである。500倍もの差がある。これは一体どう言うことだ。

 だから「あ」先生は、ペットボトル入りの緑茶飲料、ウーロン茶など飲んではいけないと仰言る。確かにそんなに大量にネオニコチノイド系の農薬を使ったお茶の葉で作ったお茶は冗談じゃないと言うことになる。

 私達はミツバチの二の舞はごめんだ。

 健康のために毎日リンゴを食べ、イチゴを食べ、茶を飲むことで返ってネオニコチノイド系の農薬という毒物を体に取り組んでいることになる、と「あ」先生は仰言る。EUと日本のこの使用基準の違いは何だというのだろう。われわれもヨーロッパジンも同じ人間だろう。彼らに毒である物が我々に毒ではないはずがない。

 私は、ミツバチの問題を取材に行って、実はネオニコチノイド系の農薬はミツバチどころか我々人間の健康を損なっていると言うことを知って、大きな衝撃を受けた。

 この件は、更に詳しく調べて、「美味しんぼ」の「環境問題篇」その2で、きちんと書く。

 とりあえず、読者諸姉諸兄に、ネオニコチノイド系の農薬という恐ろしい物が我々の生活を既に破壊し続けていると言うことを認識していただきたい。

雁屋 哲

(写真は2012年09月26日 西日本新聞=「しまちゃんの愛し糸島ブログ」から拝借)

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