<国連報告書>子どもの甲状腺検査以外に内部被ばく検査をしていない点を問題視。白血病なども想定して尿検査や血液検査の実施を求め、住民の被ばく基準についても、法令が定める年間1ミリシーベルトの限度を守り、それ以上被ばくする地域では住民の健康調査をするよう政府に勧告している。
◆福島第1原発事故:国連報告書「福島県健康調査は不十分」
(毎日新聞 2013年5月24日)
東京電力福島第1原発事故による被ばく問題を調査していた国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告書が24日明らかになった。福島県が実施する県民健康管理調査は不十分として、内部被ばく検査を拡大するよう勧告。被ばく線量が年間1ミリシーベルトを上回る地域は福島以外でも政府が主体になって健康調査をするよう求めるなど、政府や福島県に厳しい内容になっている。近く人権理事会に報告される。
報告書は、県民健康管理調査で子供の甲状腺検査以外に内部被ばく検査をしていない点を問題視。白血病などの発症も想定して尿検査や血液検査を実施するよう求めた。甲状腺検査についても、画像データやリポートを保護者に渡さず、煩雑な情報開示請求を要求している現状を改めるよう求めている。
また、一般住民の被ばく基準について、現在の法令が定める年間1ミリシーベルトの限度を守り、それ以上の被ばくをする可能性がある地域では住民の健康調査をするよう政府に要求。国が年間20ミリシーベルトを避難基準としている点に触れ、「人権に基づき1ミリシーベルト以下に抑えるべきだ」と指摘した。
このほか、事故で避難した子供たちの健康や生活を支援する「子ども・被災者生活支援法」が昨年6月に成立したにもかかわらず、いまだに支援の中身や対象地域などが決まっていない現状を懸念。「年間1ミリシーベルトを超える地域について、避難に伴う住居や教育、医療などを支援すべきだ」と求めている。【日野行介】
◇グローバー氏の勧告の骨子
<健康調査について>
・年間1ミリシーベルトを超える全地域を対象に
・尿や血液など内部被ばく検査の拡大
・検査データの当事者への開示
・原発労働者の調査と医療提供
<被ばく規制について>
・年間1ミリシーベルトの限度を順守
・特に子供の危険性に関する情報提供
<その他>
・「子ども・被災者生活支援法」の施策策定
・健康管理などの政策決定に関する住民参加
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◆グローバー報告、暫定仮訳
(2013年5月25日 ヒューマンライツ・ナウ)
国連「健康に対する権利」特別報告者による福島に関する調査報告書が公表されました。公衆の被ばくからの保護に関し、1mSvを明示するなど、画期的な内容となっており、今後の日本の原発被災者政策の再考に重要な文書です。
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◆福島県 子どもの放射能 尿検査せず 秘密裏に「困難」結論?
(2012年10月25日 東京新聞 こちら特報部)から抜粋
福島原発事故を受けた県民健康管理調査で、子どもの内部被ばくを把握できる尿検査が行われていない。専門家でつくる公開の検討委員会でも検査の是非がほとんど議論されてこなかった。ところが今月に入り事前の「秘密会」の開催が公となり、尿検査をめぐる議論の不透明さも判明。検査を求めてきた保護者らは不信を募らせている。 (中山洋子、林啓太)
「また、だまされたんだ」。伊達市の菅野美成子さん(40)が諦めきった様子でつぶやいた。今月初めに新聞報道で検討委の委員と県側が、開催前に議論をすり合わせる「秘密会」を開いていたことが発覚。事前に会議の「進行表」が配られ、検討委に”出来レース”の疑いが浮上した。
県側は秘密会について調査し、8日にまとめた報告書で、議論を深めるための「準備会」だったと強調。内密の開催が不信感を招き不適切としながらも、「発言の抑制や議論の誘導などはなく、個人情報保護などが目的だった」と結論づけた。
だが、その説明に納得する県民は少ない。事故後、内部被ばく検査を求める声に、国や県の対応は後手に回り、今回明るみに出た進行表は、公開の検討委をないがしろにして、十分な議論や説明もないままに、検査を切り捨てた姿を浮き彫りにしたからだ。
■健康調査の検討委「議論ない」 親ら不信
昨年7月の第3回検討委の事前の進行表では、浪江町、飯舘村、川俣町、山木屋地区で計120人に行った内部被ばく調査の結果について、検討前から「相当に低い」とする発言予定が記載。
さらに「WBCの今後の普及とGe半導体の逼迫(ひっぱく)状況(牛肉等)を考えると、尿検査でWBCを代替えするのは困難ではないか」とあった。
WBCはホールボディーカウンターの略で、体内にある放射性セシウムから発せられるガンマ線を測る装置。じっとできない幼児は受けられず、体が小さい子どもの検査には不向きとされる。
尿検査の方が子供の被ばくを正確に測ることができるが、検査できる精度の高いGe(ゲルマニウム)半導体検出器が、牛肉などの食品検査を優先して不足しており、尿を検査するのは無理という意味だ。
当初公開されていた議事録では、第3回の検討委で山下俊一座長が「今後、尿検査をする意味はあるのか」と発言。これに答えて、放射線医学総合研究所(放医研)理事の明石真言委員が「今回の尿検査では極めて微量しか検出されなかった。検証にもう少し時間をいただきたい」と話したとされている。
第3回から検討委は公開されているが、県の調査でメモをまとめた議事録も「不適切」とされ、現在、作り直している。
明石委員の発言も修正される可能性はあるが、明石委員は取材に「1回分の尿から体内のセシウム濃度を推定すると、濃淡の差があり科学的な数値とは言えない。(尿検査は)どう転んでもあいまい。それならばWBCでいい」と説明する。
だが内部被ばくに詳しい矢ケ崎克馬琉球大名誉教授は「WBCはガンマ線のみなど内部被ばくを正しくつかむことはできない。尿検査を導入するべきだ」と異を唱える。
■被ばくの切り捨て 尿検査なら検出人数は大幅増
矢ケ崎氏によると、1リットルあたりの尿からセシウムが検出された場合、体内には約150倍のセシウムがあると推定され、「尿に混じって排出されるほかに、セシウムは臓器や筋肉に蓄積される」と言う。
不透明な経緯そのものが不信感を広げている。
尿検査の導入を訴えてきた「福島老朽原発を考える会(フクロウの会)」の青木一政事務局長は「この第3回検討委の後、尿検査が議論された形跡はない。ろくな議論もないままに秘密裏に『尿検査は困難』という合意が形成されたとしたら問題。現に進行表が疑問視した尿検査は実施されていない」と批判する。
同会は昨年5月、福島市内の子ども10人から採取した尿をフランスの民間検査機関「アクロ」に送り分析。全員からセシウムが検出され、保護者らの危機感が高まった。
その後も県内外の子ども102人を検査。これまでに岩手、宮城、千葉県など幅広い範囲でセシウムが検出されている。
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◆国連専門家が国・県批判 ヨウ素剤無配布、健康調査不開示
(2012年11月29日 東京新聞)