放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク (ほうきネット)設立について
福島原発事故のあと、年ごとに病気が増えてきています。特に、子どもたちの健康状態が心配です。このままの被ばく状況が続けば、計り知れない健康被害を招くことになると思います。その根拠について、少し書いてみたいと思います。
チェルノブイリ原発事故による被害者の医療支援に関わってきた私は、1992年からベラルーシの放射能汚染地や病院を何度も訪問し、薬や医療機器を届けてきました。 病院では、たくさんの病気の子どもたちに会い、多くの医師や医学者などから健康被害の凄まじい実態を聞きました。
ある子ども病院では、原発事故前年と事故から9年後を比べると、急性白血病が2.4倍、ぜんそく2.7倍、糖尿病2.9倍、血液の病気3.0倍、先天性障害5.7倍、ガンが11.7倍、そして、消化器系の病気が20.9倍にも増えていました。そして、複数の慢性病を抱えている子どもが多く、免疫力が低下しているため、風邪がなかなか治らない話や老化が早いという話、そして、「この村には、健康な子どもはほとんどいません」という話も聞きました。
病気に苦しむ子どもたちに会うたびに、「どうして、こんなに多くの子どもたちが病気になったのか」、「どうして、原発を進めてきた大人ではなく、なんの責任もない子どもたちが、犠牲にならなければいけないのか」、「どうして、この国の政府は、原発事故の真実を住民に知らせず、被ばくさせ続けたのか。なんてひどい政府なのか」という思いを抱きました。
そんな経験をしてきた者として、福島原発事故のあと、「最も放射能の被害を受ける子どもたち」を政府が守ろうとしていないことに強い憤りを感じてきました。そして今、はっきりと分かったのは、チェルノブイリ原発事故のときよりも、「日本政府の方がもっとひどい」ということです。
チェルノブイリ原発事故で汚染されたウクライナ、ベラルーシ、ロシアの各共和国では、原発事故から5年後に被ばく線量を減らすための法律 「チェルノブイリ法」を制定しました。年間1ミリシーベルト以上に汚染された地域には「移住の権利」が与えられ、5ミリシーベルト以上は「移住の義務」があり、住むことができません。
年間1ミリシーベルトを超える地域は補償の対象となり、無料で検診が受けられ、薬代の無料化、公共料金の免除、非汚染食料の配給、学校給食の無料化、症状に合わせた「保養所」の旅行券が支給されるなど様々な補償があり、移住をする人には、移住先での雇用を探し、住居も提供、引越し費用や移住によって失う財産補償なども行われています。
ところが、福島原発事故から4年になる日本では、1ミリシーベルト以上の汚染地に「移住の権利」がないだけでなく、「20ミリシーベルトまで安全」だとして、避難していた住民を汚染地に戻す政策をとっています。(具体的には、避難者への慰謝料が打ち切られるため、家計の負担が大きくなって避難の継続が難しくなります)
政府は、原発事故の後に増えている病気の増加を「原発事故の影響ではない」と決めつけ、予防原則を蔑ろにして、「子どもを守ること」よりも「目先の経済」を優先しています。 水俣病の被害を拡大したときと同じことを繰り返しています。
◆福島県で、甲状腺がんや心臓病などが明らかに増加している
通常、子どもの甲状腺がんは、100万人に1人。未成年の甲状腺がん年間発生率も100万人に2~3人とされていました。2006年の統計で、甲状腺がんと診断された20歳未満の人は、【全国で46人】でした。これは【未成年2250万人に46人】であり 【100万人に2.0人】ということになりますが、2014年の福島県では【37万人に58人】も甲状腺がんと診断されています。
日本の人口の1.5%ほどの福島県で、通常の全国の発生数よりも多い58人が甲状腺がんになっているという異常な増加です。原発事故当時 0歳から18歳までの子どもたちは、この3年間で84人が甲状腺がんとなり、「がんの疑い」の28人を加えると112人になっています。
3年間の子どもの甲状腺検査結果を見て心配なのは、福島原発事故の後、甲状腺がんが増えただけではなく、がんになる可能性がある結節やのう胞が年ごとに急増していることです。
5ミリ以上の結節(しこり)がある人が、0.5% → 0.7% → 0.9% と1.8倍に急増し、のう胞がある人も、36.2% → 44.7% → 55.9%に増加。精密検査が必要な子どもも1.8倍になっています。
子どもの甲状腺がんで特に心配なことは、転移が早いということです。
福島県の県民健康調査「甲状腺検査評価部会」(平成26年11月11日)の資料によると、福島県立医大で手術した甲状腺がん54例のうちリンパ節転移は74%(40例)甲状腺外浸潤が37%(20例)低分化がん4%(2例)と報告されています。また、鈴木真一教授が日本癌治療学会で、「8割超の45人は腫瘍の大きさが10ミリ超かリンパ節や他の臓器への転移などがあり、2人が肺にがんが転移していた」と報告しています。
《 浸潤(しんじゅん)とは、がん細胞が、発生した場所で増え続けていくとともに、周りの器官に直接広がっていくこと。 転移でも、リンパ管や血管にたどり着くまでの最初のステップには、この浸潤がある 》
チェルノブイリ原発事故で大きな被害を受けたベラルーシの国立甲状腺がんセンターの統計では、15歳未満は3人に2人がリンパ節に転移し、6人に1人が肺に転移しています。
医療支援でベラルーシを何度も訪問する中で私は、原発事故の被害者などが孤立せずに働くための「福祉工房」をつくったナターシャさんという女性に出会いました。彼女は、2人の子どもをガンで亡くしていますが、息子さんは9歳で被ばくし、甲状腺がんが肺に転移して21歳で亡くなっています。娘さんも胃ガンが全身に転移して亡くなっています。
こうした事実を踏まえるなら、放射能汚染地の未成年の甲状腺検査は2年に1回ではなく、ベラルーシのように年に2回以上か、少なくとも毎年健診を行う必要があります。また、原発事故当時19歳以上の人たちと福島県外の汚染地での健診も早急に開始する必要があります。(チェルノブイリ法では、年1ミリシーベルトを超える地域は補償の対象となり、年齢に関係なく誰もが無料で検診を受けられます)
こうした健診の拡充について、国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告書が重要な指摘をしています。
(以下、2013年5月24日 毎日新聞から抜粋)
報告書は、県民健康管理調査で子供の甲状腺検査以外に内部被ばく検査をしていない点を問題視。白血病などの発症も想定して尿検査や血液検査を実施するよう求めた。甲状腺検査についても、画像データやリポートを保護者に渡さず、煩雑な情報開示請求を要求している現状を改めるよう求めている。また、一般住民の被ばく基準について、現在の法令が定める年間1ミリシーベルトの限度を守り、それ以上の被ばくをする可能性がある地域では住民の健康調査をするよう政府に要求。国が年間20ミリシーベルトを避難基準としている点に触れ、「人権に基づき1ミリシーベルト以下に抑えるべきだ」と指摘した。
しかし、これらの重要な指摘に日本政府は、ほとんど応えていません。
そして、この人命を左右する重大なことが一部のメディアでしか報道されず、国民の大半は知らないままです。
逆に、祖父江友孝・大阪大学教授などは、「甲状腺がんのように進行がゆっくりだと、完治できないほど進行するまでに何年もかかる。放っておいても、がんが原因で命を落とすまでに至らないことが少なくない。そのようながんを見つけるのを過剰診断という」などと言って健診を批判し、「公費による大規模な検査では、数がかなり少ないが進行の速い甲状腺がんを早く見つける利益と、過剰診断などの不利益のバランスを考慮するべきだ」「疫学の専門家として、今後は希望者だけを検査してもいいと考える」と発言し、検査を縮小させようとしています。
彼らは何故、チェルノブイリの経験から学ばないのでしょうか。
彼らは何故、福島の現状を直視しないのでしょうか。
福島で増えている病気は、甲状腺がんだけではありません。
チェルノブイリで増えた病気が、福島県でも増えてきています。
◆セシウムは、さまざまな臓器に蓄積する
ベラルーシのデータ でセシウムがたくさん蓄積している甲状腺、心臓、脳、腎臓の病気は、福島でも増えてきています。(甲状腺に影響を与えるのは放射性ヨウ素だけでありません。セシウムは、さまざまな臓器に蓄積して放射線を浴びせ続けます)
◆福島県と全国平均との比較
【福島の死亡率が全国平均より1.4倍以上高い病気】
2013年の人口動態統計で、全国平均より福島の死亡率が1.4倍以上高い病気は、内分泌・栄養及び代謝疾患(1.40倍) 皮膚がん(1.42倍 ) 脳血管疾患(1.44倍) 糖尿病(1.46倍) 脳梗塞(1.60倍)、そして、チェルノブイリと同様に最も急増しているのが、セシウムが蓄積しやすい心臓の病気で、急性心筋梗塞の死亡率が全国平均の2.40倍、慢性リウマチ性心疾患の死亡率が全国平均の2.53倍、どちらも全国1位になっています。(これらの数字は、病気の発生率ではなく死亡率です)データソース
下の表は、原発事故の後に死者が急増した病気が分かりやすくまとめられています。
(データは宝島から拝借 クリックすると画像が拡大できます)
死亡数でもこのように増加していますが、病院での治療数や手術数が急増しています。
◆「福島県立医大で治療数・手術数が増えている病気」
様々な病気が増えていますが、2倍以上に増えている 病気を一部紹介します。(グラフ) これらの病気のほとんどは、福島県全体で増えており、周辺の県でも増えています。
※倍率は、2010年(H22年)と2012年(H24年)の比較
<福島県立医大での治療数と増加倍率>
*非外傷性頭蓋内血腫 (13→33→39)3倍
*白内障、水晶体の疾患 (150→344→340)2.3倍
*膀胱腫瘍(66→79→138)2.1倍
*前立腺の悪性腫瘍(77→156→231)3倍
*弁膜症(35→54→103)2.9倍 ※心臓弁膜症
*静脈・リンパ管疾患(11→43→55)5倍
*閉塞性動脈疾患(16→47)2.9倍
*小腸の悪性腫瘍、腹膜の悪性腫瘍(13→36→52)4倍
*直腸肛門(直腸・S状結腸から肛門)の悪性腫瘍(31→60→92)3倍
*胆のう、肝外胆管の悪性腫瘍 (32→94→115)3.6倍
*骨軟部の悪性腫瘍(脊髄を除く)(13→41→77)5.9倍
*扁桃周囲膿瘍、急性扁桃炎、急性咽頭喉頭炎(11→11→52)4.7倍
↑
◆甲状腺に近い「扁桃周囲膿瘍、急性扁桃炎、急性咽頭喉頭炎」という病気は福島県全体で急増しています。(周辺県でも増えています)
この病気の治療数・手術数の合計で、福島県の病院が全国ランキングの15位までに3つも入っています。(DPC対象病院)
福島・太田総合病院付属西ノ内病院(59→81→189)3.2倍 全国3位
福島・白河厚生総合病院 (28→48→155)5.5倍 全国8位
福島・大原綜合病院 (29→43→138)4.8倍 全国14位
栃木県でも激増しています。(倍率は、2010年と2012年の比較)
栃木県・獨協医大(10→22→75)7.5倍
栃木県・済生会宇都宮病院(10→12→81)8.1倍
栃木県・栃木医療センター(14→84→132)9.4倍
* * *
日本もできるだけ早く 「日本版のチェルノブイリ法」をつくって、被ばく量を軽減させる必要があります。 ところが、原発の輸出や再稼働に熱心な安倍首相は、健康影響を無視するだけでなく、東京オリンピック 招致に当たり、福島原発事故による健康への影響は、「今までも、現在も、将来も、問題ないと約束する」と信じられない発言をしました。
そして、安倍首相に同調するかのように原子力規制委員会も「年20ミリシーベルト以下は健康影響なし」と発表。被ばく対策が進むどころか、逆に、避難した住民を20ミリシーベルト以下の放射能汚染地に戻す政策を進めています。なんという倫理観のない人命軽視の国なのでしょうか。
◆福島原発事故の前から存在している法律
*法律で定められた一般市民の被ばく限度は「年1ミリシーベルト」
(放射線障害防止法)
*病院のレントゲン室などの放射線管理区域は「年5.2ミリシーベルト」
(放射線障害防止法)放射線管理区域では、18歳未満の就労が禁止され、飲食も禁止されている。
*原発等の労働者がガンや白血病で亡くなった場合の労災認定基準は年5ミリシーベルト以上
(累計5.2ミリシーベルトで労災が認定されている)
日本赤十字社は、原子力災害時の医療救護の活動指針として、「累積被ばく線量が1ミリシーベルトを超える恐れがあれば、退避する」としています。
ロシア科学アカデミー会員で、報告書『チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響』(日本語訳書『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店 2013年発行)をまとめたアレクセイ・ヤブロコフ博士はこう言っています。「偽りのないデータというのは、1キュリー/平方キロメートル(年約1ミリシーベルト)以上に住むすべての人々に何らかの健康被害が出ていることです。5キュリー(5ミリシーベルト)に住む人は、さらに被害が増大します。健康被害は汚染レベルが高くなるにつれ明確に増大します」
また、1985年にノーベル平和賞を受賞した米国の「社会的責任のための医師団(Physicians for Social Responsibility)」も次のように警告しています。
「日本で危機が続く中、人に発がんの危険が生じるのは最低100ミリシーベルト(mSv)被曝したときだという報道が様々なメディアでますます多くなされるようになっている。これまでの研究で確立された知見に照らしてみると、この主張は誤りであることがわかる。100 mSv の線量を受けたときの発がんリスクは100人に1人、10 mSv では1000人に1人、そして1 mSV でも1万人に1人である」
そして、2011年4月に内閣官房参与の小佐古敏荘・東大教授(放射線安全学)は、年間20ミリシーベルトを基準に決めたことに、「容認すれば私の学者生命は終わり。自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」と抗議の辞任をした会見で、「年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい」 と発言しています。
★日本政府は、「年20ミリシーベルト以下は健康影響なし」と言い続けていますが、20ミリシーベルトの4分の1(5ミリシーベルト)以下の汚染地に住み続けた人々の健康被害を取材したNHKの番組をもう一度シェアしたいと思います。
◆チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告 第2回 ウクライナは訴える(2012年9月23日 NHK ETV特集)から抜粋と補足
チェルノブイリ原発事故の25年後に公表された「ウクライナ政府報告書」は、年間0.5~5ミリシーベルトの汚染地帯に住む人々に深刻な健康被害が生じていることを明らかにしました。(低線量汚染地の住民には)心臓疾患やリウマチ性疾患など、さまざまな病気が多発し、特に心筋梗塞や狭心症など心臓や血管の病気が増加しています。
ウクライナ政府報告書は、汚染地帯の住民など被曝した人から生まれた32万人を調べ、健康状態を報告しています。1992年子どもの22%が健康でした。ところが2008年、それが6%に減少しました。逆に慢性疾患を持つ子どもは20%から78%に増加しました。
『低線量汚染地域からの報告書―チェルノブイリ26年後の健康被害』 という本が、番組 制作に関わった馬場朝子氏と山内太郎氏によって詳しく まとめられて、NHK出版から発行されています。 東北、関東に広がる「低線量汚染地域」のこれからを考える上で非常に重要な本です。その一部を抜粋・要約します。
<チェルノブイリ原発から140キロの距離にあるジトーミル州のコロステン市は移住勧告地域と放射線管理地域が混在する低線量汚染地域で、年間0.5~5ミリシーベルトの被曝線量が見込まれる地域である。コロステン中央病院の副院長アレクセイ・ザイエツ医師 「残念なことに、日本でも1年前に原発事故が起きました。多くの点が、私たちの悲劇的な事故と共通していると思います。今の日本の状況は、私たちの事故と同じであり、私たちに起きたことが福島でも起きているのです。 」
内分泌科医のガリーナ・イワーノブナさん「大きく増えたのがびまん性甲状腺腫、結節性甲状腺腫、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などです。甲状腺がんも増えました。事故前まで私は、大人・子どもにかかわらず甲状腺がんの診断をしたことがありませんでした。私たちが最初に甲状腺がんを確認したのは、事故1年後の1987年で、子どもの症例が1例確認されました。91年には9症例、この市のレベルでは大変多い数です。」
「事故当時18歳以下の子どもたちを3か月ごとに検査をしています。彼らの多くは甲状腺疾患を患っており、自己免疫性甲状腺炎や、びまん性甲状腺腫の人もいます。事故当時、少年だった彼らは、いまや大人となり、自分たちの子どもをもうけています。その生まれた子どもたちにも、多くの甲状腺疾患が見られるのです。」
リウマチ疾患が専門ガリーナ・ミハイロブナ医師 「チェルノブイリ事故前はリウマチ患者は6人だったのに、2004年には22人、2010年には42人、2011年は45人でした。こういった症状は、チェルノブイリ事故当日、若年層だった人たちに見られます」
ウラジーミル・レオニードビッチ医師 「事故前 の(がんの)平均発病率は10万人あたり200人でした。現在は10万人あたり310人です。 リンパ腫と白血病という血液の病気も増えています。事故前の6年で、血液の病気は26症例(年平均4.3例)が記録されていますが、事故後は25年間で255症例(年平均10.2例)となっています。」
ガリーナ・ミハイロブナ医師 「被ばくした両親から、障害を持って生まれる子どもがいます。例えば、2009年は 先天性障害が身体障害全体の47パーセントを占めています。今年(2012年)第一四半期においては身体障害者の100パーセントが先天性障害です。先天性障害は、主に心臓循環器系疾患、腸、目などに確認されています。2005年から心臓の先天性障害が第1位で、現在もそれは変わりません」
ザイエツ副院長 「私が最も心配しているのは、先天性障害のある子どもたちの問題です。事故前までは年に数件しかなかったのですが、今は年に30~40人、そういう子どもたちが生まれています。」
<おおざっぱに言って、セシウムによる被曝に限れば、コロステンにいた人の被曝量は25年間の積算で15から26の間、だいたい20ミリシーベルト前後と見積もっていいだろう。このデータからも、年間被曝線量が1ミリシーベルト前後だという数字が導き出される>
◆ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士の言葉に、謙虚に耳を傾けたいと思います。
「チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは、市民の声で実現されました。核事故の歴史は、関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束して事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも早急な防護基準の見直しが必要です」
◆みんなで子どもたちを守ろう
地震大国に原発を54基もつくり、原発事故を起こした責任がある大人の一人として 「これ以上、子どもたちを被ばくさせてはならない」 「このままでは、子どもたちの健康や生命が守れない」という危機感が日に日に強まる中で、友人たちと話し合ってきました。 非力な私たちに何ができるのか? 子どもたちを守るために、本当に役に立つことは何か? 小さな会社を経営していくだけでも厳しい時代に、そんな大仕事を担えるのか? それでも、誰かが今の流れを変える「何か」を始めなければ、子どもたちを守れない――いろいろと考える中で、「もう、考えているだけではダメだ」 「私たちにできることは小さなキッカケづくりくらいにしかならないかもしれないが、とにかくやり始めよう」。そして、チェルノブイリ医療支援でやってきた経験も生かして、できることをやっていこう。できるだけ大勢の人に声をかけ、世界にも呼びかけて、皆で子どもたちを守ろう」――という結論になりました。
本来なら、このような事業は、体制を整えてから始めるべきなのかもしれませんが、時間がないので、動きながら具体的なことを決めていきたいと思います。やろうとしていることは、おおよそ次のようなことです。
◆医療支援と被ばく軽減の支援
1、健診の拡充
*福島県外の1ミリシーベルト以上の汚染地でも、事故当時19歳以上の人も、甲状腺検査を行う。
*移動健診のためのポータブルエコー(超音波診断装置)の購入
健診を受けやすいように医師がエコーを持って動く。(すでに、福島の医師から要望が届いています)
*血液検査、尿検査なども行う。
2、被ばくを減らす活動
*保養の拡充(夏休みや春休みに全国で取り組まれているが、多くの団体が資金不足に苦しんでいる)
*子ども留学・疎開(家族みんなで避難はできないが、子どもだけでも避難させたい方を対象に)
*移住のサポート(移住を希望される方のサポート)
◆企業と市民のネットワークで基金をつくる
福島原発事故から4年、これまで多くの市民が「放射能から子どもを守るために」努力してきました。私個人も、福島や関東からの避難者を会社で雇ったり、福島の子どもを保養に受け入れる活動もしてきましたが、できたことは、ほんのわずかなことでした。放射能の影響を受ける地域は広く、長期間続くため、市民の力だけでは、子どもを守ることが難しい状況です。
「医療支援、被ばく軽減の支援」を拡大するためには、多額の基金が必要です。数千万では足りません。億単位の基金が必要です。そのためには、「最優先で、放射能から子どもを守ろう!」という心ある企業と 市民の連携が必要だと思います。
本来なら政府が率先して、放射能から子どもを守るために動くべきですが、残念ながら今の政府は、「目先の経済」を優先し、「子どもを守る」という意志がありません。私たちは政府に対して、税金を使って最優先で子どもを守るように求め続けますが、政府が動くまで待っていては子どもを守ることができません。
チェルノブイリ医療支援活動におけるほんの小さな経験ですが、私は支援活動が始まった当時、寄付するお金がなかったので、自社の商品(有機コーヒーや紅茶)の売り上げの一部を「薬や医療機器を支援するために寄付する」と決めて呼びかけたところ、多くの方が共感して下さり、25年たった今も、その取り組みが続いています。私の小さな会社だけでは、集まる基金は知れていますが、数百、数千という会社や自営業者が集まれば、大きな力になると思います。
ミュージシャンや作家や漫画家の皆さんが、CDや本の売り上げの1%でも寄付してくだされば、いい流れができると思います。出版社や映画の配給会社にも声をかけます。商品の販売ではなく、サービスを仕事にされている方にも声をかけていきます。とにかく、「放射能から子どもを守ろう」という心ある皆さんに参加していただき、この取り組みをできるだけ多くの市民に応援していただく、というのが基本的な考え方です。
組織としては、任意団体でスタートし、事務局は私の会社内に置き、3年間は、私が代表を務める予定です。
最後に、小出裕章さんからのメッセージをお伝えして、この呼びかけを終えたいと思います。
◆若い人たちに一言お詫びを申し上げたいと思います。
/小出裕章氏 「未来を担う子どもたちへ」 から抜粋
「この日本という国が、もし法治国家だと言うのであれば、放射線の管理区域に指定して、一般の人たちの立ち入りを禁じなければいけないところが、おそらく1万4千平方キロメートルほど広がってしまっています。
東北地方と関東地方の広大なところを、もし法律を守るというなら、無人にしなければいけないほどの汚染なのですが、いま現在、数百万人もの人々、子どもも赤ん坊も含めて、そういう場所に捨てられてしまっています。
私のような放射能を相手にして給料を貰っている放射線業務従事者や大人であれば、まだ、そういう所で生きるという選択はあると思いますけれども、今回の事故を引き起こしたことに何の責任もない子どもたち、そして、被曝に対して大変敏感な子どもたちが、いま現在も汚染地帯の中で被曝をしながら生活しています。それを思うと、なんとも無念ですし、3年間一体何ができたのだろうかと、自分の無力さが情けなく思います。しかし、これからもまだまだこの状況が続いていくわけで、今、私たちに何ができるかということは考えなければいけないと思います。
私が何よりもやりたいことは、子どもたちの被曝を少しでも少なくする、ということです。そのために一番いい方策は、子どもたち、あるいは大人も含めてですけれども、汚染地帯から避難 させるということです。
子どもたちをある一定の期間でもいいので、疎開させる、夏の一月でもいい、春の一週間でもいい、放射能の汚染の少しでも少ない場所に移して、そこで泥んこまみれになって遊べるようにする、草の上に寝そべってもいいというような環境を子どもたちに準備をするということが必要だと思います。
次に重要なことは食べものです。いま現在、東北地方を中心にした食べものが汚染されています。日本の国は、1キログラムあたり100ベクレル以下なら安全であるかのように言って、何の規制も無いまま、食べものを流通機構に乗せてしまっています。1キログラムあたり100ベクレルというのは、事故前の1000倍もの汚染を安全だと言って、市場に出回らさせてしまっているわけです。そんなことは到底私は許せないと思いますし、特にそんな汚染のものを子どもたちに食べさせることは、許せないと思います。子どもたちが食べる学校給食は、徹底的に汚染の少ないものを調べて、子どもたちに回す、ということを私はやりたいと思います。
最後に若い人たちに一言お詫びを申し上げたいと思います。
私は大きな事故が起きる前に、原子力発電所を止めたいと思って生きてきましたけれども、残念ながら私の願いは届きませんでした。大きな事故が起きてしまって、日本中、あるいは世界中に放射能汚染が広がってしまいました。私はあと10年、20年で死んでしまうと思いますけれども、若い人たち、これから人生を刻んでいく人たちに対しては誠に申し訳ないことだと思います。
皆さんが大きくなって 大人になったときに、福島の事故を防げなかった 責任というものをたぶん私たちの世代に問うだろうと思います。問われて仕方がないことを私たちの世代はやったわけですし、まずは お詫びをしたいと思いますし、残りの人生で何ができるかということを考えながら、私は生きたいと思いますし、将来の皆さんから どうやってお前は生きてきたかと問われたときに、私なりにできることはやったというように答えたいと思います」
(動画と全文)
【 略称 「ほうきネット」の「ほうき」の意味について 】
環境=文化NGO「ナマケモノ倶楽部」の仲間が中心となって、原発事故の翌年2012年に出版された 『ホーキせよ!』 という本をヒントにして、以下のような意味を持たせています。
蜂起・・・「放射能から子どもを守る」ために、ハチが巣から一斉に飛びたつように蜂起して行動を起こす
放棄・・・「子どもの命よりも経済を優先する生き方」を放棄し、いのちを大切にする生き方を実践し広める
箒・・・子どもを守ろうとしないような「心が汚れた」日本を箒で大掃除する
それでは皆さん、どうぞよろしくお願いします。
2015年1月23日
放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク
(ほうきネット)設立発起人
中村隆市