AACRI(インタグ有機コーヒー生産者協会)の招きで、アプエラの郊外に農場を持つ生産者、アンヘル・ゴメスさんの農場を訪ねる。農場までの道も、やはり舗装はされておらず、水量の多い川沿いを進んで行った。途中、大きく斜面の崩れた谷底を通る。その場所は、政府が道路建設を進めた場所らしく、山の上から何ら配慮することなく土砂を捨て始めたとのこと。結局、住民の抗議で道路建設は中止となったが、山肌が土砂に覆われてしまっていた。川沿いの道をさらに車で進むと、「ここからは歩いて行く」と言う。水量の多い川には1本の縄橋が架かっており、「2人以上は同時に渡らないように」と念押しされて、向こう岸にたどり着く。アンヘルさんの農場へは、そこから山の斜面を登りきった所にあった。
アンヘルさんの自宅とその周囲に広がる農地は、山の中腹の斜面をそのまま利用している。自宅横の湧き水を利用して、アンヘルさんは自ら苗床でコーヒーの苗木を育てる。上下水道の設備の整わないエクアドルの農村では、この湧き水が生命線ともなっている。山肌に張り付くように生活をするアンヘルさん一家は、この泉で畑を潤すと同時に、炊事、洗濯、飲料水としても利用する。
アンヘルさんは、山にほとんど手を加えることなくコーヒーを栽培している。もちろん化学肥料を用いることもなければ、灌漑設備があるわけでもない。ミミズコンポストを活用して落ち葉から肥料をつくり、山へと戻す。何気なく森に入ったため、アグロフォレストリーを実践する森にいることに、後になって気付く。山の斜面を農園にする場合、土壌の流出が問題となり、さまざまな工夫が試みられている。例えば、一般的な農園では、通路の確保や農作業の効率を考えて、一直線上にコーヒーの樹が植えられる。しかし同様の手法を山の斜面で行うと、通路となる箇所が雨水の通り道となり、大切な土も流し去ってしまう。この問題を緩和させるために、この農園ではコーヒーの樹を、一直線ではなく互い違いに植えている。 したがって、コーヒー農園内をまっすぐ歩くことはできず、農作業の効率も落ちるのではと懸念される。しかし、こうした工夫で、土壌流出を抑える作用が生まれる。
コーヒーの木々の間には、バナナやパパイヤをはじめとする果樹が多く植えられている。換金作物にはならなくとも、あらゆる種類の植物が植えられ一家の食卓にのぼっている。山肌のコーヒー畑は土壌を守り、あらゆる食料を供給する森林農業の空間を守っている。その他にも、日本で言うなら生垣ともいえるような手法を用い、コーヒーの木々よりもずっと低い木を植えて、斜面の土壌を維持している。生物多様性の豊かな森では、山々が入り組み、平地が少ない地域で農業を行う際の、知恵と工夫を随所に垣間見ることができる。
(レポート/ 井上智晴=ウインドファームスタッフ)
投稿者 akira : 2006年07月27日 10:39