◆福島で小児甲状腺がん 「事故無関係」危うい即断
(2012年9月27日 東京新聞)
医師の菅谷松本市長が警鐘
チェルノブイリ 翌年から増加
福島原発事故に伴う福島県の調査で、一人に小児甲状腺がんが見つかった問題。同県立医科大は事故の影響を否定したが、1986年のチェルノブイリ原発事故後、現地で甲状腺がんの治療に当たった医師の菅谷昭・長野県松本市長は「即断は禁物」とし、丁寧な対応を訴える。(中山洋子)
「このデータをまさか日本で必要とするとは思わなかった」そう語りつつ、菅谷市長はベラルーシ国立甲状腺がんセンターから入手した小児がん患者数(15歳未満)の推移のデータを示した。
チェルノブイリ(ウクライナ)は国境近くにあり、ベラルーシは深刻な汚染にさらされた。同センターは急増した小児甲状腺がんの治療などのため、90年に創立された。菅谷市長は甲状腺がん専門医として96年から5年半、同センターの活動に携わった。
菅谷市長が注目するのは、ベラルーシの場合、86年には2例だった小児甲状腺がんが、翌年には新たに4例、88年には5例、89年には7例と増加している点だ。
今回の福島県での結果(検査対象は18歳以下)について、検査を担当する県立医大の鈴木眞一教授は「チェルノブイリ事故でも、甲状腺がんが見つかったのは最短4年」と説明したが、同市長は「事故後、早い時期に甲状腺がんが発症する可能性は否定できない。現段階では『わからない』としか言えないはずだ」と即断をいさめる。
菅谷市長が入手した同センターの資料によると、86年?97年の小児甲状腺がんの患者570人のうち、半数以上の385人にリンパ節転移が見られ、16.5%に当たる94人が肺に転移していた。
甲状腺がんは進行も遅く早期に治療すれば完治するとされている。ただ、菅谷市長は「ベラルーシでは、転移していたケースが非常に多い。
将来にわたって、注意深く経過を追わなければならない」と指摘する。
診察よりも調査を優先している検査体制にも疑問を投げかける。「しこりがあると言われたら、親は心配するに決まっている。でも、同じしこりでも水のたまったのう胞はがんにはならない。心配なのは肉のかたまりである結節。一人一人への丁寧な説明を怠ってはならない」
県側は一定の大きさのしこりが見つかり、二次検査した子どもたちについては「個別の経過観察をする」とし、他の子どもたちは2年に一回検査するとしている。
だが、菅谷市長は「心配な保護者には、むしろ他の機関でも調べることを勧めるべきだ。データをまとめるには県立医大に送るよう指導すればよい。保護者の不安解消が大切だ」と語る。
ちなみにベラルーシの子供らの甲状腺がん検査は半年に一回。
同市長は「子どもが甲状腺がんになった場合、何年も治療や検査を続けねばならない家族の苦しみは深い。現地の往診で、そんな姿を見てきた。チェルノブイリの先例に真摯に学ぶべきだ」と話した。