◆フクシマの子どもたちの避難を求める訴訟
(2013年4月13日 AP通信)
【資料】2011年3月24日付け資料写真。福島県、津波で損壊した福島第1原発から漏出した放射線の検査を受ける幼い避難民。2年以上も前、巨大地震と津波が襲来したさいに放射能を漏出した破損原発から60キロ(40マイル)西方の福島地方裁判所郡山支部において、福島の子どもたちのために、両親らと反核アクティビストらが提起した異例の訴訟に対して、日本の抗告審裁判所がまもなく裁定をくだすと予測されている。幼い抗告人らは放射線に被曝せずに生きる権利の実現を申し立てている。この訴訟は、お上に異を唱えることが歓迎されない社会において、低線量放射線による健康への影響に関する専門家見解の困惑するような違いの幅広さによって引き起こされた民意の分断を際立たせている。 (AP Photo/Wally Santana, File)
【東京―AP通信】
申し立て:放射線に被曝せずに生きる権利。法廷闘争をはじめた抗告人ら:14名の子どもたち。
2年以上も前、巨大地震と津波が襲来したさいに放射能を漏出した破損原発から60キロ(40マイル)西方の福島地方裁判所郡山支部において、福島の子どもたちのために、両親らと反核アクティビストらが提起した異例の訴訟に対して、日本の抗告審裁判所がまもなく裁定をくだすと予測されている。
訴訟の申し立て内容は、人口33万都市である郡山市は市内の子どもたちを、放射線レベルが自然背景レベルを超えない、すなわち年間被曝量が1ミリシーベルト以下の郡山市外に避難させなければならないというもの。
この訴訟は、お上に異を唱えることが歓迎されない社会において、低線量放射線による健康への影響に関する専門家見解の困惑するような違いの幅広さによって引き起こされた民意の分断を際立たせている。一部の専門家らは子どもたちを避難させる必要がないというが、両親らは、成人よりも放射線に弱い子どもたちへの長期的影響を心配する。これに汚染食品と水によるリスクが加わる。
日本政府は、チェルノブイリ事故以後で世界最悪のフクシマ事故が起こったあと、人びとが住みつづけてもよいか否かを決める目安として年間被曝限度20ミリシーベルトを設定した。郡山市内の平均放射線レベルはこの分け目よりずっと低いが、市内各地の「ホットスポット」では、そのレベルを超える。「これは、健康に主だった影響がなく、住むことができるレベルです」と、内閣府職員、カワモリ・ケイタはいう。「学界の専門家らがこれを安全なレベルと決めました」
福島で健康上の安全の任にあたる著名な医師は、障害が無視できなくなるのは、年間被曝量が100ミリシーベルト以上の場合だけであると指摘して、繰り返し平静を保つように訴えた。
地裁は、放射線量が100ミリシーベルの目安に達していないとして、訴訟の申し立てを却下した。健康と放射線に関する学術機関、国際放射線防護委員会は、リスクは被曝量が下がるにつれて低減するというが、それ以下ではリスクがなくなるしきい値があるとは信じていない。
抗告は、1年以上もたった現在でも、近隣の宮城県の仙台高等裁判所で係争中である。
福島第1原発よりも大量の放射能を放出した1986年のチェルノブイリ事故のあと、福島第1原発の周辺、半径20キロメートル(12マイル)の立ち入り禁止区域よりも大きな、原発から半径30キロメートル(20マイル)以内にいる女性と子どもたちを避難させることを優先させた。
家族が自主的に県外に出たり、子どもたちの年齢が上がったりして、原訴訟の当事者である子どもたちの数は、抗告審で10人に減り、今では1人になっている。日本の高等学校は義務教育ではないので、法的に、地方自治体は中学校までの子どもの責任を負っている。
しかし、訴訟は他の福島の子供達の先例として役だっている。
弁護団の一人、柳原敏夫氏は、政府は子どもたちを救うことよりも人口流出を気にしているようだと批判する。「日本のような経済大国が、子どもたちを避難させようとしないのは理解できません。第2次世界大戦中のファッシスト政府でさえもしたことです」と柳原氏は、1940年代に空襲を避けるために子どもたちを集団疎開させた例を引いていう。「これは児童虐待です」
チェルノブイリ事故後、数千人もの子どもたちが甲状腺癌になった。その後の白血病、心不全、その他の病気が放射線に関連しているという医療専門家らもいる。福島では、原発事故との関連を示す証拠はないが、子どもたちにうち、少なくとも3人が甲状腺癌と診断された。日本の他の地域には、甲状腺癌に関して比較するためのデータがない。
訴訟にかかわる子どもたちとその家族は、排斥やいじめなどの反発から身を守るために匿名であり、彼らについての詳細は明かされていない。「どうして日本は、この福島はチェルノブイリの二の舞になろうとしているのだろうか?」と、子どもたちの一人の母親が裁判所に提出した陳述書にいう。「子どもたちを守ってやれるのは大人しかいないのではないか?」
裁判は、日本のメディアの注目を浴びる点では貧弱だが、反核抗議活動家たちの支持を集め、定期的に大規模な集会が開かれてきた。著名な支持者として、ミュージシャンの坂本龍一さん、漫画家のちばてつやさん、そしてアメリカの言語学者で政治活動家、ノーム・チョムスキー氏らが名を連なる。
「社会が道徳的に健全であるかどうかをはかる基準として、社会の最も弱い立場の人たちのことを社会がどう取り扱うかという基準に勝るものはなく、許し難い行為の犠牲者となっている子どもたち以上に傷つきやすい存在、大切な存在はありません」と、チョムスキー氏はメッセージに記した。
訴訟を申し立てながら、その後に土地を離れたひとり、12歳の女児は自分の不安を語ってくれた。
「わたしが注意深くしていても、癌にかかるかもしれないし、わたしが産む赤ちゃんに有害かもしれません」と、その子は手書き陳述書に認めた。
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日本の裁判所、子どもたちの避難申し立てを却下
Japan court rejects demand to evacuate children
【資料】2011年4月16日付け資料写真。日本の北東部、福島の避難所の外で母親のナオコさんのそばに立ち、放射線被曝量検査を受けているネモト・ワカナちゃん(3歳)。日本の裁判所は、同国の2011年核惨事による放射性降下物によって汚染された(郡山)市に市内の子どもたちの避難求める申し立てを却下した。この異例の訴訟は、2011年6月、福島の子どもたちのために、両親らと反核アクティビストらが提起したもの。2013年4月24日、仙台高等裁判所はその決定を下した。(AP Photo/Hiro Komae, File)
影山優里 AP通信ビジネス記者/2013年4月25日
【東京―AP通信】日本の裁判所は、同国の2011年核惨事による放射性降下物によって汚染された(郡山)市に市内の子どもたちの避難求める申し立てを却下した。この異例の訴訟は、2011年6月、福島の子どもたちのために、両親らと反核アクティビストらが提起したもの。水曜日(2013年4月24日)、仙台高等裁判所はその決定を下した。
この訴訟は、継続的な低線量放射線被曝が健康におよぼす影響、とりわけ成人よりもずっと傷つきやすい子どもたちの場合の影響に触れるものなので、国際的な注目を惹きつけた。訴訟は、郡山市は小中学校に通う子どもたちを避難させる義務があり、これは日本の法令に定める義務教育の一環であると主張した。
裁判所は、市内の放射線量が災害以前に安全とされていたレベルを超えていると認定した。だが、政府は申し立てにある学校疎開の責任を負うものでないという――つまり、心配するなら、自己責任で去ればよいと人に諭したのである。
弁護団のひとり、柳原敏夫氏は、子どもたちが「核事故にまったく責任を負わない犠牲者」であるので、この裁決は不当であるという。下級審は原申立を2011年12月に却下していたが、この裁定に対して抗告がなされた。最新の裁決に対する抗告も可能である。
郡山は人口33万の都市であり、2年前の巨大津波によって冷却システムが破壊され、複数の炉心メルトダウンにいたった福島第1原子力発電所から約60キロメートル(40マイル)西に位置する。この事故は、チェルノブイリ以来で最悪の核惨事の引き金になった。
チェルノブイリ災害のあと、何千もの子どもたちが癌になったが、数年ものあいだ、その症例は明るみに出なかった。癌にはさまざまな原因があり、放射線の影響は人によりさまざまに異なるので、福島の子どもたちが同じように影響をこうむるか否か、はっきりしない。放射能汚染は複合的であり、空気だけでなく、食品、土壌、水を汚す。
一部の專門家らは、福島第1原発周辺の制限区域の外では放射線レベルが低く、癌になる確率は日本のどことも変わらないという。だが、多くの福島県住民が不安に思い、転出した。
政府のフクシマ災害対応策が、広範な一般人の不信を招いている。何千もの人びとが街頭に繰り出し、脱原発を要求している。政府は安全審査後に原子炉を再稼働したいと表明している。
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