◆「世界最高」は欺瞞 原子力コンサルタント 佐藤暁氏
(2013年7月9日 西日本新聞)
原子力規制委員会がまとめた原発の新規制基準が施行された。規制委自らと電力会社を怠惰にさせ、国民を不用心にさせる「世界最高」という欺瞞(ぎまん)の言葉が怖い。まず、そのこと自体が真実ではないからだ。
真の世界最高は、おそらく米国が2007年に発行した将来型(第4世代)の原子炉に適用する安全基準の骨子案である。ただし、今の第2世代の原子炉とは原理が異なるため、比較するのは、やめておこう。
その前の第3世代と呼ばれる新型の原子炉が、世界各地で建設されている。航空機の衝突に備え、格納容器の外側に頑丈なシールド建屋を持つ。安全系統は四重化され、非常時に原子炉に注水するための冷却水は、屋外タンクではなく格納容器内に設置する。建屋内で出火した場合には、耐火壁で隔離された内側の機器が全焼することを想定し、復旧を期待しない。
仮にこれらも新規制基準に含めていたならば、日本の原子炉は1基も適合できない。
第3世代なら、実は日本にも世界に先駆けて建設された改良型沸騰水型原子炉(ABWR)という炉型がある。米国進出をうかがう日本のメーカーは、米国での審査を突破するため、本家である日本の設計をアップグレードさせている。
東京電力福島第1原発事故の前年に提出されたその申請書には、全電源喪失に対し、ガスタービン発電機が自動起動して2分以内に給電可能とある。だが、日本では、今でも長時間を要する人力作業が認められている。
格納容器のベント弁は、事故直後、閉まっていたことで開くため悲壮な苦労をした。米国への申請では、これを初めから「開」にすると図表に示している。日本では、今でも「閉」のまま変えていないが、理由なく放置されていいとは思わない。
世界で現在運転中の原子炉の半数以上は、1万~10万年に1回の大規模地震を想定して設計することになっているが、日本ではいまだに具体的に規定されていない。せめて千年に1回の規模のものでもいいから、大規模地震や大津波に関する基準となる数値を示し、われわれに問うてほしかった。
さて、規制基準の発表の次に何が続くのだろうか。原発の再稼動がささやかれてはいるが、そのためには、まず各電力会社が、新たな規制基準の要件に適合していることを示す文書をまとめて提出し、委員会の審査を受けなければならない。一連の審査を終えた後、評価書が発行される。
一方、審査とは別に「検査」が各発電所で実施され、審査内容との食い違いがないことが確認され、検査報告書が作成され公開される。
既に、関西電力大飯原発3、4号機に対し、このような手続きが猛スピードで進められている。
委員会は今月3日、規制基準の施行より先に、評価書の案を示し、その中で、検査マニュアルも検査官の研修制度もないのに、検査を一応首尾よく終えた旨が付言されている。
今後もこのような安易な手続きで進められていくのだろうか。運転認可証の更新だけで6年もかかっている米国の事業者が知ったら、うらやましく思うに違いない。
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さとう・さとし
57年山形県生まれ。山形大理学部卒。02年まで米ゼネラル・エレクトリック(GE)社原子力事業部。現在は原子力コンサルタント。
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◆米加州の原発、廃炉へ 三菱重工の装置に不具合
(2013/06/08 05:26 共同通信)
【ロサンゼルス共同】米カリフォルニア州南部のサンオノフレ原発を運営する電力会社サザン・カリフォルニア・エジソンは7日、蒸気発生器の配管に「異常な摩耗」が見つかり運転を停止している2号機と3号機を、いずれも廃炉にすると発表した。この蒸気発生器は三菱重工業製。
エジソンは早期再稼働を目指したが、東京電力福島第1原発事故を受け、安全性への懸念を強めた周辺住民が反発。米原子力規制委員会(NRC)の許可が得られず、断念に追い込まれた形だ。
この蒸気発生器は2009年以降に設置されたばかり。今後、日本が国外への売り込みを狙う原発技術への信頼に影響する可能性がある。
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首相講演 「世界一安全」 国産原発を売り込み
(2013年5月2日 東京新聞)
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◆安倍政権の「原発営業」、インドから「NO」の声
(2013年7月9日9時21分配信 週刊SPA! )
「日本の原発は安全」をセールストークに、原発メーカーの役員を引き連れて世界中に「原発営業」をかけている安倍政権。
政府レベルでは売り込まれたほうも歓迎しているようだが、当然のことながら国民は猛反発している。
インドもまた、原発セールスを積極的に行う安倍政権が有望視している国だ。5月29にはインドのシン首相と会談、原子力協定を早期妥結することで合意した。インドではすでに20基の原発が稼動しているが、今後20年で新たに34基の原子炉を造る計画があるという。
そんな日本の「原発輸出」のリスクを訴えるため、6月にインドから来日したカルーナ・ライナ氏はこう語る。
「インド政府は、現在の2.7%から’50年には25%へと原発比率を増やそうとしています。ところが福島の原発事故以降、各地で反原発運動が起き始めました。南部のクダンクラムでは600日以上が経過したいまも激しい抵抗が続き、日本の原発輸出に対する反発も起こっています」
クダンクラムの抗議活動はインドの反原発運動の象徴ともいわれる。現地団体と交流があるノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンの佐藤大介氏は「特に昨年9月のデモ、治安当局による弾圧は激しかった」と言う。
「クダンクラム原発1号機に核燃料が装填されそうになったため、9月9日、3万人もの人々が原発を包囲しました。ところが、翌日数千人の警官が襲いかかり、警棒で殴りつけるなど激しい暴行を加えました。警官は女性や子供にも手加減せず、重軽傷者多数。男性1人が射殺されました。さらには家々を次々と破壊するなどの弾圧ぶりに、インド全土が大きなショックを受けたのです」(佐藤氏)。
インドでは、たびたび起きてきた原発トラブルが原発の不信感に繋がっている。
「’93年にナローラ原発で火災が発生、翌’94年にはカクラパール原発で浸水。同じ年、建設中のカイガ原発では、格納容器を形成するコンクリート150tが高さ75mから崩落し、作業中の14人が負傷しました。過去40年間で数え切れないほど安全性に問題のある事例があるのです」(ライナ氏)
一方、ビジネスとして考えてみても、インドへの原発輸出は他国へ輸出するよりもリスクが大きい。その理由は厳しい原子力損害賠償責任法の存在だ。これにより、事故が起きればメーカーが汚染の被害を賠償する仕組みになっている。日本のように、国が助けてはくれないのだ。
「もし日本製の原子炉で大事故が起きれば、メーカーに対して莫大な損害賠償が請求されることも十分ありえます。住民の反対、安全性への疑問、事故時の賠償責任等、多くのリスクを背負ってまで日本は原発をインドに輸出したいのでしょうか。ドイツは、インドの再生可能エネルギー開発に向けて10億ドルを拠出しました。日本もそちらの方面に資金を振り向けたほうがよいのでは」(ライナ氏)
福島原発の事故収束もままならぬ中、原発を平然と売り歩く安倍政権及び日本の姿はどう見られているのか?
週刊SPA!7月9日発売号「安倍政権[原発セールス]に世界が反発」では、インド以外にトルコ、ベトナム、中東各国やブラジルなど各国の「原発反対」事情及び日本の「営業」に対しての視線をリポートしている。 <取材・文/週刊SPA!編集部>
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◆安倍政権の原発政策 逆戻りは許されない
(2013年6月16日 毎日新聞 社説)
原発政策が、「3・11」前に逆戻りし始めたのではないか。安倍政権の姿勢に、そんな懸念を持たざるを得ない。
経済政策「アベノミクス」の第三の矢として閣議決定した成長戦略に、原発再稼働への決意と原発輸出への強い意欲が盛り込まれた。それを先取りするように、安倍晋三首相は原発輸出の「トップセールス」にまい進している。
東京電力福島第1原発の過酷事故を踏まえて自民党は、昨年末の総選挙で「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を公約に掲げたはずだ。なし崩しの方向転換は、とうてい認められない。
◇首相主導の輸出を懸念
成長戦略には、原子力規制委員会の規制基準で安全性が確認された原発の再稼働を進めると明記された。原発を含めたインフラの輸出については、2020年に今の3倍の約30兆円にするという目標を掲げた。そのために、首相・閣僚レベルが毎年10件以上をトップセールスし、官民一体で売り込んでいくという。
安倍首相は4〜5月の外遊で、トルコやアラブ首長国連邦、サウジアラビアに原発や関連技術を売り込んだ。インドのシン首相とは、原発輸出の前提になる原子力協定の締結交渉を促進することで合意した。
そして今度は、ポーランドを訪問してチェコ、スロバキア、ハンガリーを加えた東欧4カ国の首脳に日本からの原発輸出を働きかける。
「アベノミクス」を看板にする首相にとって、成長戦略は政権浮揚のカギを握る大事な一手だ。ところが、盛り込まれた政策の多くは即効性に乏しく、市場の評価も厳しい。
その中にあって、原発輸出は1基数千億円の巨大ビジネスだ。国内での原発の新増設は極めて難しいだけに、原発需要が高まっている新興国は、垂涎(すいぜん)の市場に映るのだろう。原発関連の技術を維持・承継するためにも輸出は必要という議論もある。
しかし、そうした理由を重ねても、首相が先頭を切って輸出にまい進することは、正当化できない。
安倍首相は「日本は世界一安全な原発の技術を提供できる」と言い切る。しかし、2年前の3月11日に起きた原発事故の原因究明は、終わっていない。「世界一安全」という根拠はどこにあるのか。
事故の現場では、放射能の脅威にさらされながら、出口の見えない収束作業が続いている。毎日400トンずつ増える汚染水の処理もままならない。そして、今なお多くの被災者が故郷を離れた生活を余儀なくされている。原発事故がもたらす犠牲の大きさは、計り知れない。このままでは、ビジネス上の利益を優先させて過酷事故のリスクを輸出することになりかねない。
原発の立地や安全性にお墨付きを与えてきたのは自民党の長期政権だった。安倍首相は「安全だ」と胸を張るのではなく、その責任を自覚し、反省を今後のエネルギー政策に生かす姿勢を示すべきだ。
一方、国内のエネルギー政策の中で原発をどう位置づけるかの議論は全く進んでいない。民主党政権は、国民的な議論を経て「30年代に原発稼働ゼロを目指す」という方針を打ち出した。首相はそれを「白紙見直しする」というが、具体化は先送りしたままだ。
◇廃炉技術で国際協力を
海外で「原発推進」の実績を積み重ね、国内での方針転換の地ならしにする思惑があると見られてもしかたがない。むしろ、今、成長戦略として力を入れるべきは、再生可能エネルギーや省エネであり、そのための具体的な議論こそ早急に進めてもらいたい。
安倍政権が、フランスと核燃料サイクルでの協力を打ち出したことの違和感も大きい。日本は使用済み核燃料の全量を再処理し、取り出したプルトニウムを再び燃やす核燃料サイクルを国策としてきたが、実用化の見通しはまったくたっていない。
核燃料サイクルの一翼を担う高速増殖原型炉「もんじゅ」は、度重なるトラブルで止まったままだ。運営主体である日本原子力研究開発機構の安全文化が劣化しているとして、原子力規制委から運転再開準備の停止命令も出されている。もんじゅの直下を活断層が通っている疑いもある。安全面、技術面のいずれからみても、廃炉にするのが妥当だ。
青森県六ケ所村に建設中の再処理工場も、すでに19回の完工延期を重ねている。たとえ稼働したとしても、燃やすあてのないプルトニウムが増え続け、核不拡散上の問題は大きい。
再処理工場は、原発推進が国策だった時代に、仏企業から技術移転を受けたものだ。原発政策を見直す中で、協力関係のあり方も見直すのが当然ではないか。
原発に依存しない社会をめざす以上、核燃料サイクルに意味はなく、あるのはリスクだけだ。国際協力は廃炉や除染、安全技術や核不拡散で行うのが筋だろう。
使用済み核燃料の最終処分について何の見通しもないまま、原発を動かすこと自体にも問題がある。安倍政権は、すでにたまってしまった使用済み核燃料の保管や処分にこそ、真剣に取り組んでほしい。