◆福島で原発語らぬ自民 「推進へかじ」 本音封印
(2013年7月15日 西日本新聞朝刊)から抜粋
福島県二本松市の山あいにある「加藤牧場」経営者の加藤和信さん(70)「福島に原発は絶対にいらない。『ふざけるな』って思うべ」
自民の現職森雅子氏(48)「幼児教育の無償化ができるようになった」。少子化担当相としての実績は強調しても、原発政策は口にしなかった。
安倍晋三首相も福島第一原発の事故については謝罪したが、原発政策に触れなかった。自民党は公約で原発推進へとかじを切っている。だが、今も15万人が避難生活を続けている福島で「本音」を語れば票が減る。
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◆福島、原発語らぬ自民・民主
(2013年7月10日 朝日新聞)から抜粋
■批判招いた高市発言 自民
電力4社が原発の再稼働を申請した翌9日の夜。自民党の森雅子氏は避難区域を抱える福島県川俣町の公民館で演説会に臨んだ。
「大災害の被害をこうむるのがどうして福島なのか。天を恨みたい気持ちだ。私の使命はふるさとと子どもたちを守ることだ」
少子化相として、県内に不足する産婦人科医を全国から4人招いた実績をアピール。だが、原発政策には一言も触れなかった。
公示日の4日は、自民党総裁の安倍晋三首相と並んで県内の街頭に立った。安倍氏は昨年の衆院選でも公示日に福島入りし、再稼働への理解を求めた。ところが今回、原発事故への陳謝はしたものの、原発政策を口にすることはなかった。
森氏は公示前、県選出国会議員から「福島の議員と閣僚の立場が矛盾して難しい局面が来るかもしれない。発言は慎重に」と忠告を受けた。電力業界とともに再稼働に突き進む政権の原発政策を福島で訴えることは、有権者を逆なでしかねないからだ。
6月17日には高市早苗政調会長が「原発事故で死亡者が出ている状況ではない」と発言。県内では原発事故に伴う避難などで約1400人が亡くなっている。自民党県連や県選出国会議員の事務所には「県連は抗議しないのか」「高市氏は謝れ」といった抗議の電話が殺到した。
動揺した森氏は翌18日夜、福島市のホテルであった党の会合で県連幹部に「私、どうすればいいでしょうか」と相談を持ちかけた。この幹部は「しっかり怒れ。それが県民の総意だ」と助言した。一夜明けると、森氏は国会内に高市氏を訪ねて抗議し、その後、涙を浮かべながら「大変怒っています」と記者団に語った。
自民党は選挙期間中の高市氏の福島入りを中止。街頭で原発政策を封印した。
一方、共産、社民両党の新顔は脱原発の姿勢を鮮明にする。共産党の岩渕友氏は「福島県民を切り捨て、再稼働や原発輸出を進める勢力に福島の復興を任せるわけにはいかない」。社民党の遠藤陽子氏も「事故前と変わらない政策が進められている。命と健康、生活を守るには脱原発・廃炉だ」と主張。原発政策を語れない自民、民主両党の姿勢に批判の矛先を向ける。
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〈原発事故とエネルギー政策〉 2011年3月の福島第一原発事故は国際原子力事象評価尺度(INES)でチェルノブイリ事故と同じ最も深刻な「レベル7」と評価された。政府は同年12月に収束宣言をしたが、放射能の汚染水漏れなどのトラブルは続く。福島県内11市町村は避難区域に指定され、除染が進まず住民が帰るメドが立たない地域も多い。
事故を機に「脱原発」の機運は高まり、エネルギー政策は大きな転換を余儀なくされた。野田政権は昨年6月に関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の再稼働を決めたが、残る原発48基は停止中のまま。「2030年代に原発稼働ゼロ」の方針も決定した。
ところが成長戦略を重視する安倍政権は、この方針の見直しを表明。再稼働の推進にかじを切り、原発の輸出にも力を入れる。8日には新しい規制基準が施行され、電力4社が5原発10基の再稼働を申請した。