北米大陸、アメリカの南に位置するメキシコ。この国は、世界で最初に コーヒーの有機栽培に取り組んだ国の一つだと言われている。生産量と しては、世界で第5位を誇る。
メキシコにおけるコーヒー栽培の特徴として挙げられるのは、まず、その 生産に携わる先住民族の比率が高いということである。コーヒーの生産も 販売も含め、この分野に関わっている人の数は約300万人で、そのうち60% 近くがメキシコで知られている56の先住民族のうちの30の民族に属している。 彼らは、18世紀末、ヨーロッパを通じてメキシコにコーヒーが導入されて以来、 アグロフォレストリー(森林農法)と呼ばれる伝統的な栽培方法によって、 森の中で、さまざまな樹木や作物と共にコーヒーを育ててきた。
また、2つめの特徴としては、コーヒー生産地域の分布が非常に広いという ことである。そして、これらのコーヒー生産地帯は偶然にも、メキシコに おける生物の宝庫と呼ばれる地域と、ほぼ完全に一致する。つまり、コーヒー 栽培地域は、豊かな生物多様性を誇るばかりでなく、さまざまな先住民族が 織りなす多様な文化や伝統が息づいている場所なのである。
つまり、メキシコにおいて、アグロフォレストリーによる持続可能な コーヒー生産を守り、伝えていくことは、この地に暮らすさまざまな動植物 を守るだけでなく、それぞれの先住民族が、コーヒー栽培を通して築いてきた 文化、伝統、知恵を守り伝えていくという点でも非常に重要なのものなのである。