メキシココーヒー物語 第2話 アグロフォレストリー(森林農法)

メキシコを始め、そのほとんどが熱帯に位置するコーヒー生産国では、一時的な開発やコーヒーのみを栽培するプランテーション栽培などにより、森林伐 採、そして温暖化の問題が深刻なものとなっている。こうした深刻な森林伐採から、森を守ろうと取り組まれている方法の一つに、「熱帯の庭園」という名前で 呼ばれる『アグロフォレストリー(森林農法)』というシステムがある。

メキシコでは昔から、このシステムを用いたコーヒー栽培が、さまざまな先住民族によって行われてきた。彼らは、さまざまな方法での資源活用を身に付けて おり、自らの宇宙観と関わり合いながら生物多様性を守り、森を活用してきた。そして、彼らは保護すると同時に、何百年もの時間をかけて森というのをデザイ ンしてきた。そうして生まれてきたのが、アグロフォレストリーである。

Women inTosepan-2.jpg
トセパンの女性(ナワット族の伝統衣装)

先にプランテーション栽培(一つの作物のみを大量に生産する)について述べておくと、これはアグロフォレストリーとは全く逆のシステムである。これは、 近代的な手法によってつくりあげられたもので、生態系を全く無視した場所になっている。 プランテーションで生産する場合、まず商業栽培の部分だけを残し て、原生種を始め、すべての樹木を切り払う。また、プランテーション栽培を維持するためには、非常に集中的に農薬などを使う必要が出てくる。土地を傷めつ けてしまうこの方法は、限られた期間しか栽培することができない。これは、先住民が自然の生態系を活かしながらデザインし、森自身が再生する力を持ったア グロフォレストリーシステムとは全く異なる。

プランテーション栽培.jpg
プランテーション栽培

では、具体的にアグロフォレストリーとはどういう農法なのだろうか。ひと言で言えば、自然の森の中に、コーヒーなどの商業作物を始め、果樹や木材用の樹 木、作物などを混植する方法である。本来の生態系を活用して出来上がったものであるため、森の豊かさや生物多様性を保護する場所にもなっている。また、商 業作物を導入することで、森から収入を得ることができ、自家用の作物なども得られる。多様な作物を栽培するので、収入を一つの作物のみに頼ることなく、比 較的安定した経営を行うことができる。

メキシコのトセパン組合では、アグロフォレストリーの森1ヘクタールあたり150種ほどの有用な作物が生産されており、この森がどれほど生物的に豊かで あるかということがわかる。これらの作物の中には、地元の市場だけでなく、海外の市場に出される商品作物もある。それは、トセパン組合を始め、先住民たち が、長い年月をかけて、森との付き合い方、どう管理したらいいのか、とても豊富な知識と経験を持っているあかしでもある。

アグロフォレストリーの森.jpg
アグロフォレストリーの森

アグロフォレストリーの恵み.gif

また、アグロフォレストリーの森は、二酸化炭素を吸収するという機能を持っている他、野生生物たちが暮らす場所としても役立っている。例えば、トセパン 組合のあるプエブラ州北部の地域では、1,000種類近くの鳥類が確認されていて、その多くが絶滅の危機に立たされている。アグロフォレストリーの森は、 この鳥類にとっても最後の隠れ家でもあるのだ。

さらには、この地に暮らす先住民たちは、アグロフォレストリーの森を作り上げていく中で、自分たちの文化や伝統、そして暮らしをもつくってきた。つま り、この森は、経済的や環境的のみならず、社会的にも文化的にも、そして歴史的にも重要な意味を持つ場所となっているのである。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次