学者の皆さんが「もんじゅ」の運転再開に反対されています。
大変重要な声明を多くの人に知ってほしい思い、ここに掲載します。
緊急声明 「もんじゅ」の運転再開に反対する
事故後14 年以上停止していた高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が、3 月中にも運転再開されようとしている。これほど長期の停止後に運転再開した原発は世界にもほとんど例がなく、高速増殖炉では皆無である。
「もんじゅ」の事業者である日本原子力研究開発機構は運転再開の準備が整ったとし、国の原子力安全委員会もそれを了承した。しかし、冷却系等配管の点検、蒸気発生器伝熱管の未貫通の亀裂や穴あきの探傷、炉心燃料集合体の健全性調査はほとんど行われず、いかなる欠陥が潜んでいるかわからない。
一連の運転再開準備も、数百個にのぼる接触型ナトリウム検知器の点検漏れが「誤警報」によって偶然発覚したり、排気ダクトの腐食損傷が放置されていたなどずさんな実態が明らかになり、運転再開は四度も延期された。この先、未発見の重要な点検漏れがないとする保証はない。トラブルの対応においても、連絡遅れ等の頻発など組織の体質が改善されたとは思われない。経験者の多くが去り、人材面も問題である。このような状態で運転を再開することは危険であり、再び事故を起こす恐れが大きいと私たちは考える。
一方、「もんじゅ」の建設費が軽水炉の約5 倍と高いことから、実用化像としては、「もんじゅ」とまったく異なる構想に描き直されている。したがって、「もんじゅ」は、もはや実用化に向けた原型炉ではない。運転目的の「発電プラントとしての信頼性の実証」は、実用化像と大きくかけ離れていては実益に乏しく、「ナトリウム取扱技術の習得」に「もんじゅ」が不可欠なはずもない。「燃料や材料の照射試験」用にはすでに実験炉「常陽」がある。高速増殖炉推進の観点に立っても、「もんじゅ」の運転再開には意味がない。
しかし、最も根本的な問題は、そもそも高速増殖炉自体実用になる見込みがないうえに、高速増殖炉を運転すると核兵器に最も適した超核兵器級プルトニウムが容易に生産・取り出せることだ。
高速増殖炉は、プルトニウムの増殖により圧倒的な電力用資源が得られるとの期待から、他の原発に先立ち開発が始められた。しかし、開発は困難を極め、半世紀以上かけても実用に到らなかった。先行した米国、英国、フランス、ドイツ各国は、いずれも約20 年前までにすべて高速増殖炉開発から撤退した。
理由は、1.軽水炉に比べても格段に危険であり、2.経済的に成り立つ見通しが無く、3. 核兵器の製造に容易に結びつく恐れがあるからであった。ロシア、中国の炉は増殖炉とは無縁の濃縮ウランを燃料とする高速炉であり、フランスの新計画は放射性廃棄物対策の一環であって増殖炉とは関係ない。
資源または軍用目的で残った国は日本とインドのみとなった。数十年先といえども、日本一国で未知の技術開発のかたまりである実用化を実現できるとは思われない。日本は、目下、厳しい国家財政の中で、多くの社会問題の解決を急がれている。無意味な「もんじゅ」運転に、危険を冒してまで毎年巨額の税金を投入し続けることは到底許されない。
以上の理由から、私たちは「もんじゅ」の運転再開に強く反対する
2010 年3 月31 日
「もんじゅ」運転再開に反対する学者有志一同
(アイウエオ順)
淡川典子(元富山大)
新井栄一(東京工業大名誉教授)
石田紀郎(京都学園大バイオ環境学部)
井野博満(東京大名誉教授)
今中哲二(京都大原子炉実験所)
海老沢徹(元京都大原子炉実験所)
荻野晃也(元京都大工、電磁波環境研究所)
尾崎充彦(元大阪大工)
川野真治(同志社大工)
木原壯林(京都工芸繊維大名誉教授)
木野茂(立命館大)
小出裕章(京都大原子炉実験所)
小林圭二(元京都大原子炉実験所)
小村浩夫(静岡大工)
小山英之(元大阪府立大工)
佐藤進(京都大名誉教授)
正脇謙次(元京都大工)
白鳥紀一(元九州大理)
槌田敦(名城大)
朴勝俊(京都産業大)
橋爪健郎(鹿児島大)
馬場浩太(元広島修道大人間環境)
広瀬勉(元熊本大工)
藤井石根(明治大名誉教授)
藤田祐幸(元慶応大物理)
藤村陽(神奈川工科大)
細川弘明(京都精華大教授)
前田耕治(京都工芸繊維大工芸科学研究科)
宮内泰介(北海道大文)
三輪浩(信州大名誉教授)
山内知也
山口幸夫(和光大)
山田耕作(元京都大理)
緊急声明(説明篇)
「もんじゅ」の運転再開に反対する
14 年以上にわたり停止していた福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」が、3 月中にも運転再開されようとしている。これほど長期間停止した後に運転再開された例は、数多い軽水炉でも世界に1 例しかなく、高速増殖炉では皆無である。
この停止中にもトラブル等の発生が相次ぎ、予定された運転再開時期は四度も延期されてきた。このような「もんじゅ」の運転再開は危険であり、再び事故を起こす恐れが大きい。さらに、「もんじゅ」運転の意味、そして高速増殖炉開発自体には根本的疑問がある。したがって、私たち学者有志は「もんじゅ」の運転再開に強く反対する。
以下、反対理由をより詳細に説明する。
【理由】
1、点検や運転再開準備の実態は万全にはほど遠い
「もんじゅ」の事業者である動力炉・核燃料開発事業団(事故当時、現日本原子力研究開発機構、以下原子力機構)は、1995 年に事故を起こした後、事後原因の調査、安全性総点検、再発防止等の改造工事、組織や安全体制の見直し、所管官庁や規制当局によるチェックを経て、点検や機器・系統の試験等の準備を終え、運転再開可能になったとしている。しかし、その実態を知るにつれ万全にほど遠いことが明らかとなった。
(1) 点検不可能な個所が数多く残されままであり、大幅に点検を省略したものがある
1.長年の停止中に発生あるいは進行しているかも知れない配管、特にナトリウムを抜き取ったり工事で切断等開口された冷却系等の配管内面は、開口部近辺を除き調査が不可能で実施されていない。
2.蒸気発生器(蒸発器及び過熱器)では、伝熱管に穴が開くと、加圧水型軽水炉の場合とちがい高圧の水もしくは水蒸気がナトリウム中に噴出し、激しいナトリウム・水反応が起こる。しかし、伝熱管の探傷装置の精度は極めて不十分であり、特に亀裂や小さい孔は検知できず、傷が貫通し同反応が起こるまで検知できない。
3.燃料集合体は、炉心燃料体、ブランケット集合体それぞれを代表し1体ずつしか検査されない。これでは少なすぎ燃料の健全性を確認したことにならない。
(2)安全性総点検にもかかわらず、多くの点検漏れが見つかった
1.施設内の到るところに取り付けてある接触型ナトリウム漏えい検知器が何百個も、最初の設置以来点検されていなかった。これも、たまたま「誤警報」の発生という偶然により発見されたにすぎない。
2.原子炉室からの排気ダクト(放射性物質を含む可能性のある空気の排気通路)の腐食による穴あきや減肉が放置されていた。
3.これら以外にも必要な点検や改善の漏れがないとする保証はない。
(3)事故時に問題となった組織の旧体質が改善されたとは思われない。
上記「誤警報」発生時に定められた連絡を遅らせたり約束していた連絡を行わないなど、連絡不備や過去のトラブル未報告などの問題が相次いだ。
2、「もんじゅ」は実用炉に結びつかない
(1)日本が描く高速増殖炉の実用化像は、「もんじゅ」とまったく異なる
「もんじゅ」の建設費が軽水炉の約5 倍と高いことから、高速増殖炉を実用化するためには設計を根底から変えなければならない。現在描かれている実用化像は、出力が「もんじゅ」の5 倍以上と大きくなるため冷却の失敗による暴走の危険性がさらに高まるにもかかわらず、冷却系ル?プ数を3 ル?プから2 ル?プに減らし、代わりに配管口径を「もんじゅ」の1.5 倍に拡大するなど「もんじゅ」が持っている安全余裕を大幅に削る。さらに、機器間を逆U字形配管で結び、中間熱交換器と主循環ポンプを一体構造にし、蒸気発生器伝熱管を二重管構造にするなど、全体が多くの未知の新技術で構成される。これら新技術が果たして実用になるのか、経済性改善に結びつくか不明である。
(2)「もんじゅ」はもはや原型炉でない
「もんじゅ」は、当初、高速増殖炉開発における実用化2 段階前の原型炉として建設された。原型炉は、実用炉像に似せ完結されたプラントとして作られ、それが工学的に成立することの確認を目的とするものである。しかし、実用化像として「もんじゅ」とまったく異なる型が描かれることになり、「もんじゅ」の高速増殖炉開発における位置づけは宙に浮いてしまった。実態はもはや原型炉ではない。
(3)「もんじゅ」の運転は意味が無く、無駄である
運転再開の目的として、「発電プラントとしての信頼性の実証」と「ナトリウム取扱技術の習得」が挙げられている。しかし、「発電プラントとしての信頼性の実証」は、実用化像と大きくかけ離れてしまってはあまり意味はない。「ナトリウム取扱技術の習得」は、「もんじゅ」でなくとも実験炉「常陽」や代替設備で可能である。
それ以外に、燃料や材料の照射試験が目的に挙げられることがあるが、それも照射実験装置を備えた実験炉「常陽」で可能である。「もんじゅ」の運転再開は、たとえ高速増殖炉開発推進の観点に立っても意味がない。
3、高速増殖炉は危険が大きく、経済的にも成り立たない
(1)「もんじゅ」(高速増殖炉)は軽水炉にもない多くの危険性をもつ
1.暴走しやすい
冷却材が沸騰して気体の泡になると、核分裂連鎖反応がより盛んになる性質がある。また、燃料棒配列が乱れたり溶融したりして互いに近づいたり合体したりすると核分裂連鎖反応がより盛んになる。これらの性質が正のフィ?ドバック効果となって核分裂連鎖反応をより加速し暴走事故に到る危険性がある。一方、軽水炉では、一般に、いずれの場合も核分裂連鎖反応が減衰する方向に向かう。
2.大量に必要な冷却材として危険物のナトリウムが使われる
ナトリウムは水に触れると激しく反応し、その衝撃力が機器を損傷したり、爆発しやすい水素や腐食性の苛性ソ?ダを発生して爆発や機器の破損の原因となりうる。
運転中のような高温のナトリウムが漏れて空気に触れると、燃焼し火災事故につながる(1995 年の「もんじゅ」事故)。これまで世界で138 件(アメリカを除く)のナトリウム漏えい・火災事故が報告されている。
ナトリウムがコンクリ?トに触れると激しく反応し、コンクリ?トの強度を失わせる。
燃料を直接冷やす一次冷却材ナトリウムは、強い放射能を帯びる。ナトリウムは不透明なため、燃料操作など原子炉内作業を直接目で確認することができない。
3.燃料のプルトニウムは、放射能毒性が非常に強い。
4.地震に弱い構造
冷却材のナトリウムは水とちがい熱しやすく冷めやすいため、熱衝撃による破壊を防ぐため、配管や機器の肉厚を薄くしなければならない。結果として地震に弱い構造にしなければならない。
(2)高速増殖炉は経済的に成り立たない
1.巨額の建設費
危険性が大きいため安全対策に多額のコストを要する。実用炉の五分の一以下の規模に過ぎない試験段階の原型炉「もんじゅ」でさえ、直接の建設費だけで5886 億円(「事業仕分け」時の予算担当部局資料による。以下同じ)を要した。
これを単位出力当たりで比較すると、軽水炉の約5 倍に相当する。
2.多額の設計関連費、高額の維持管理費を要する
これまで「もんじゅ」の設計関連費用と維持管理費に、国費だけで約3200 億円が費やされた。
3.停止中でも高額の維持管理費
「もんじゅ」停止中も、維持管理費に毎年約200 億円、1 日約5500 万円を支出。
運転再開されるとさらに上積みされる。2010 年度予算は233 億円。
4.これ以外に燃料関係(製造、輸送、管理、核不拡散保障措置)の費用が必要
5.実用化への長期にわたる巨額の開発費
実用化をめざせば、今後数十年にわたり、高速増殖炉本体だけでなく高速増殖炉用核燃料サイクルの開発にも多くの未知技術開発費が継続的に必要。その額は計り知れず、2010 年度予算では203 億円。
4、核兵器製造を容易にする「もんじゅ」の運転
「もんじゅ」を運転すると、燃料を取り囲むブランケット部に、核分裂性物質であるプルトニウム239 が約98 %占める超核兵器級プルトニウムが溜まる。通常の使用済燃料とちがいブランケット部分は核分裂生成物(死の灰)が少ないため、再処理が極めて容易である。
ブランケット部分を選択的に取り出し再処理することによって、核兵器に最も適した超核兵器級プルトニウムを容易に入手することができる。その超核兵器級プルトニウムを、「もんじゅ」は年間約62 キログラム生み出す。これは核兵器12 ? 30 個分にあたる。
「もんじゅ」の運転再開は近隣諸国はもとより世界の核情勢に緊張をもたらし、国際道義上許されることではない。
5、世界はすでに高速増殖炉開発から撤退
日本に先行して開発を始めた各国はすべて、約20 年ほど前までには高速増殖炉開発から撤退した。軽水炉に比べても格段に危険性が大きく、経済的に成り立つ見通しがなく、核兵器拡散につながる恐れが大きいことが撤退理由となっている。
1.米国
核拡散の恐れから1977 年に原型炉(「もんじゅ」と同格)建設を凍結、炉心大事故(炉心崩壊事故)に関する安全論争をへて、最終的には経済性への疑問から、1983 年原型炉クリンチリバ?の建設を中止、高速増殖炉開発から撤退。
2.英国
蒸気発生器の大事故を経験後、1988 年、経済性と将来の実用化に対する疑問から、当時のサッチャ?政権が運転中の原型炉PFR の廃止を決定、1994 年、同炉の停止をもって高速増殖炉開発から完全に撤退。
3.フランス
1991 年制定の「放射性廃棄物管理の研究に関する法律(バタイユ法)」によって高速増殖炉開発からの撤退を決定。稼働中の原型炉フェニックスと世界唯一の実証炉スーパーフェニックス両炉は、高速増殖炉から余剰プルトニウムの焼却および長寿命放射性廃棄物の核変換(核分裂させより短寿命放射性廃棄物に変換)研究用の試験炉に変更。その後、スーパーフェニックス炉は経済的理由から1998 年に停止、廃炉作業にはいった。フェニックス炉も、2009 年に廃止された。
近年、2015 年の稼働を目指すとして原型炉建設の話しが浮上しているが、これも、放射性廃棄物対策が目的の高速炉であって、電力源を目的とする高速増殖炉ではない。
4.ドイツ
1985 年、原型炉SNR ? 300 が完成したものの、大事故(炉心崩壊事故)の可能性と影響をめぐる安全論争が沸騰。1991 年、原子炉に燃料を一度も装荷することなく廃炉を決定。高速増殖炉開発からも撤退。
5.ロシア(旧ソ連)、中国
原型炉BN ? 600 が稼働中だが、米露合意による解体核兵器から回収された余剰兵器級プルトニウム処分のため一時的にプルトニウムが使われた以外、燃料には濃縮ウランが使われており、高速増殖炉ではない。ロシアの援助で建設中の中国の実験炉も同じ。
6.インド
実験炉が稼働中だが、建設中の原型炉も含め、民生用施設を対象とする国際原子力機関(IAEA)の査察対象から除外された。したがって、核兵器製造も念頭に置かれた原子炉と考えられるので論外である。
6、増殖は幻想、増えかたが遅すぎて無意味な「増殖」
高速増殖炉は燃えた量以上の燃料を生み出す「夢の原子炉」と言われてきた。もんじゅは1.2 倍が目標とされている(増殖比)。しかし、燃料の増える速度は非常に遅い。同じ高速増殖炉をもう一基立ち上げるため必要な燃料の量がたまるまでの年数(倍増時間)は、50 年から90 年にのぼる。再処理過程などで回収できないロス率が大きくなれば、倍増時間はどんどん長くなる。これではいつまで経っても二基目の高速増殖炉さえできないことになり、増殖の意味はなくなる。
軽水炉の使用済燃料から再処理して取り出したプルトニウムは、国際的な約束によって溜めておくことができない。この点からも、高速増殖炉実現の見込みはない。
【結語】
14 年以上の停止中に、「もんじゅ」は機器等の劣化も進行し、いまだ気がつかない欠陥も少なくないと思われる。この間、事業主体の「原子力機構」でも経験者の多くが去っていった。準備中に発生したトラブルの数々やその対応を見ても、「もんじゅ」が安全に運転再開できるとは思われない。
「もんじゅ」の存在意義はすでに失われている。国家予算が厳しいなか、救済すべき社会問題が山積する日本の現状で、実現さえ不明な数十年も先のことに、今から毎年、運転・維持管理に巨額を要する「常陽」と「もんじゅ」の2基とも抱えて動かすことは、あまりにも無駄であり許されることではない。
高速増殖炉は、原発としては現在稼働中の軽水炉よりずっと早く開発が始められた。しかし、世界が半世紀以上かけても実用にならなかった。残った国は、事実上、日本だけである。しかし、数十年先といえども実用化の保証はまったくない。日本一国でもやれるとする独善的とも思われる姿勢が大きな禍根につながらないか懸念される。
「もんじゅ」の運転再開には、重ねて強く反対を表明する。
2010 年3 月11 日
高速増殖炉「もんじゅ」運転再開に反対する学者有志一同