放射線による内部被ばくについて

≪放射線による内部被ばくについて≫

矢ヶ崎克馬先生(琉球大学名誉教授)の被曝についての考え

内部被ばくの特徴

1. (定義)内部被曝は放射性物質を吸い込んだり、飲み込んだりして放射線が体内で発射されて、身体の内部で被曝することです。放射線が体外から飛んでくる場合は外部被曝と言います。

2. (電離)被曝は外部・内部を問わず生物体に害を与えるメカニズムは、電離と言います。分子をつないでいる電子を吹き飛ばして、分子を切断します。分子切断を行う度に放射線はエネルギーを失います。DNAを切断することが最も深刻な被害です。

3. (放射線の種類)放射性の埃についてですが、原子炉から出る方射性物質は多種の原子からなります。アルファ線、ベータ線、ガンマ線を放出します。

4. (相互作用)アルファ線、ベータ線は物質との相互作用が強いので、分子切断を密に行います。したがって短い距離でエネルギーを失って止まります(アルファ線は空気中では45mm、身体の中では40μm、ベータ線は空気中では1m程度、身体中では1?程度)。これに対してガンマ線は物質との相互作用が小さいので、分子切断を疎らに行いエネルギーを残して外に出ます(透過)。この場合は切断された場所どうしは遠い距離になります。

5. (外部被曝)外部被曝の場合は主としてガンマ線です。

(1)身体の中でところどころに、分子切断を行い、エネルギーを余らせて体外へ抜けます。
また、(2)放射性物質が体外にありますので身体の方向に発射されたガンマ線だけ被曝に寄与します。従ってガンマ線が持っている全エネルギーが吸収線量とはなりません。

6. (内部被曝)(全ての放射線)内部被曝は体内に入った放射性微粒子から出る
全ての放射線が被曝に寄与し、同一微粒子からの外部被曝よりはるかに多くの被曝をさせます。
(継続性)放射性微粒子が体内にいる限り被曝を継続させます。長期間の被曝が蓄積されます。体内での減衰には、物理的半減期と生物的半減期があります。
(集中性)密度の高い分子切断を行います。

7. (崩壊系列)1個の原子から何発もの放射線が発射される。(例)ベータ線を発射するごとに原子番号が1つ進み、安定な原子が得られるまで放射線を発射して、原子は崩壊し続ける。これらがすべて分子切断に寄与し吸収線量となる。

8. (被曝するのは、ガンマ線測定で特定された元素だけではない)微粒子を構成する原子の種類は沢山あり、アルファ崩壊、ベータ崩壊の原子はガンマ線測定では確認できない。アルファ線測定とベータ線測定でこれらの存在確認をしなければ、ガンマ線測定だけの線量計算は信用してはならない。外部被曝だけしかないと考えている専門家は「内部被曝」と言ってもガンマ線だけの被曝量しか念頭にない。

内部被曝は飛程の短い放射線も全ての放射線が被曝し、崩壊系列仮定の全ての放射線が被曝し、測定されたガンマ線だけで無くて、背後にある全放射性原子が行う全放射線が被曝を行う。

9. (吸収線量)被害として与えられる被曝量ですが、例えば、微粒子の平均半減期が50日程度ですと、100万分の1グラムという非常に少ない量が、体内に7日間いると1Syもの被曝線量があります。100万分の1グラムの埃は目には見えない小さなものです。

人工的放射能

1. 例えば、海水の中のウラン238等は、風化が進んでいるので、ウラン原子が集団とはなっていず個別のウラン化合物の形で存在します。これに対し、放射性物質が原爆や劣化ウラン弾で作られる場合(人工的放射能)、微粒子をなす。直径1μmの微粒子に中に存在する原子の数は100万個の百万倍ほどもあり、個別の分子から出される場合と被曝の様相は全く異なります。微粒子による内部被曝は分子切断の集中度や継続度が全く異なります。自然放射能による被曝よりさまざまな点から非常に危険度が大きいものと考えます。

2. (1)放射線の物質との相互作用が分子切断であり、DNA切断を行うことから、人間の健康を重視する場合、いかなる人工の放射性物質からの被曝も有害です。これに対し、「被曝限度値(許容量)等は、被曝の悪害があることを承知の上で、メリットのある何かを行うために設定した被曝量(国際放射線防護委員会)です。

(2)この考え方を混同するといけません。今回の福島原発からの被曝はいかなる点においても迷惑な悪害のみの被曝です。

(3)今回の被曝をX線と比較する専門家がいます。とんでもないことです。身体の中の状態を知るという医療上の大きなメリットを引き出すためにやむを得ず被曝が行われるので、メリットを引き出すための大きな線量が設定されています。これと比較して安全な量だとか何とか―のたまわる―のは人命軽視の不遜な言い方だと思います。

(4)被害として受ける被曝線量に「これだけまでは許せる線量」等あるはずはありません。



※まだ、放射能放出量が現在ほど多くなかった3月22日の記事であることに注意

(2011年3月22日 西日本新聞掲載)

内部被ばくの心配残る
  正確な測定値と説明を
    大阪大招聘教授 野村大成

 福島第1原発事故による住民、特に小児への健康影響では内部被曝がより懸念される。ヨウ素は甲状腺、セシウムは全身の筋肉、ストロンチウムは骨など特定の臓器に集中的に取り込まれ、危険性は高い。

 私は旧ソ連チェルノブイリ原発事故後のユネスコによる現地調査、英国セラフィールド再処理工場の裁判などに関わってきた。その経験から現時点の疑問に答えたい。

 枝野幸男官房長官らは「直ちに健康に影響はない」と語った。これは原子力事故のたびに国民を安心させるため使われてきた決まり文句である。

 急性障害(症状は1シーベル以上、治療しなければ7~9シーベルで死亡)は過去の事例でも、現場の作業員や教授などで立ち入った人に限られている。しかし、住民に問題になるのは、忘れた頃にやってくる、内部被ばくの晩発影響(8割はがん)であり、その予防である。

 特に、風に乗って遠くまで運ばれる放射能を帯びた降下物が呼吸や、やがては水、食物を介して体内に取り込まれて内部被ばくする。取り込まれた放射性物質の中には、特定の臓器に集中的に蓄積される元素があり、取り続ければ長期間にわたり放射線を浴びる。

 福島第1原発から約200キロ離れた東京などで検出されている放射線量は風向きや気候で大きく変わる。このまま放出が短期間に収まってくれれば、体内に取り込まれても、首都圏で健康に影響するとは考えにくい。

 放射能の環境汚染を正確に測り、汚染地域を設定して対処することが課題になる。チェルノブイリ事故では風向き、降雨などの影響で100~180キロ離れた所に高濃度汚染地域が現れた。今回、政府は住民を避難させておいて、周辺での農作物の調査が遅れたのではないか。

 牛の原乳やホウレンソウから暫定基準値を超える放射性物質が検出されても「牛乳は1年間摂取し続けてもCTスキャン1回分程度」だから安全という政府の発表には異議を唱えたい。医療被ばくは健康へのメリットが多いから、規制が除外されているのであって、安全といっているのではない。しかも、CT検査はエックス線の外部被曝で、これくらいの線量で発がんの心配はまずない。

 これに対し、食物は内部被曝を起こす。住民、中でも子どもに問題なのはヨウ素131だ。ヨウ素は甲状腺に集まり、ベータ線を出す。半減期が8日と短くても、成長期にある子どもには、取り続ければ危険性が無視できない。

 チェルノブイリ事故では10代後半の被ばくでも、事故後15年後に甲状腺がんがピークに達し、通常の10倍を超えた。放射線で汚染した牧草を食べた牛の乳を介してヨウ素が子どもの甲状腺に集中した。それに加え、ヨウ素欠乏地域であったため、甲状腺に放射性ヨウ素がより多く取り込まれ、甲状腺の大量被ばくとなり、がんを起こした。今回は、放射性ヨウ素の値はチェルノブイリより遙かに低いが、注意は必要である。

 セシウムは半減期が30年と長く、全身の筋肉に均等に取り込まれるが、排泄されやすい。予防の観点から、暫定基準値を超えた農産物の移動・摂取は厳しく制限しなければならないことは、放射線障害の歴史が物語っている。

 風評被害を避けるためにも、政府は土壌や作物を含め、正確な測定値と説明を速やかに示すべきだ。未曾有の大地震津波の被災地を襲った重大な原発事故は一刻も早く終息させ、これ以上の放射性物質の放出を抑えるよう切望する。

          ×                  ×

 のむら・たいせい 42年名古屋市生まれ。67年大阪大医学部卒。専門は放射線基礎医学。85~05年大阪大医学部教授。現在は大阪大招聘(しょうへい)教授。



放射線による内部被ばくについて:津田敏秀・岡山大教授
 から抜粋

津田敏秀(つだ・としひで)教授
岡山大学大学院 環境学研究科(疫学、環境疫学、臨床疫学等)

Q. 「内部被ばく」とは何ですか?

  被爆には外部被曝と内部被曝の2種類があります。外部被曝は放射線源(放射性物質)が体の外にある時で、代表例は医学診断の際のレントゲン検査です。内部被曝は、何らかの理由で放射線源が体内に取り込まれた時に起こるものです。環境汚染物質の体内への取り込みは、主に口から食べ物と入る(「経口曝露」と言います)、口・鼻から吸い込む(「経気道曝露」と言います)、皮膚から入る(「経皮曝露」と言います)に分類できます。ただし皮膚からの取り込みは正常な粘膜からでも生じえるとは思いますが、皮膚粘膜が傷ついている場合に大きくなります。経口曝露と経気道曝露は、通常の日常生活で起こります。経気道曝露は保護具を付けるとか部屋に出来るだけこもるとかの方法もありますが逃げないとなかなか防げません。しかし経口曝露は食品衛生法によりある程度守られ、情報が入れば口に入れないことも出来ます。

 体内に入った放射性物質は、化学的性質により、体内の特定の組織に結合することがあり、局所的に被曝量が大きくなります。代表例は、放射性のヨウ素131が甲状腺に取り込まれることです。

 放射性物質が空から振ってきそうな時、花粉症対策のように部屋に入る前に払い落とすと言われているのは、外部被曝を少なくする以外に、外部被曝が内部被曝に転じるのをできるだけ防ぐという意味もあります。

 上記、Wikipediaは良く書かれていると思います(SMC注:2011年3月20日時点。Wikipediaは随時変更される可能性があるので注意)。電離放射線障害防止規則で定められた値(曝露時間も考慮してくれています)も書き込まれています(テレビなどではこの重要な規則がほとんど出てこず、CTスキャン1回分胃の透視1回分とか胸のレントゲン写真1回分というようなものばかりです。医療での被爆は国際放射線防護委員会ICRPの勧告でも別扱いであり比較の対照としてあまり持ってくるべきではないでしょう)。ただ、電離放射線障害防止規則は労働者向けですので、これを一般人口に適用するのは高すぎるという批判があるかも知れません。ICRPの勧告の方は、労働者(職業性曝露)だけでなく一般公衆に対しても書かれています。また、電離放射線作業をする労働者は、内部被曝よりも外部被曝が主だと思いますが、原発事故の場合は内部被爆の方が問題となりますので、その点でも批判が来るかも知れません。

電離放射線障害防止規則 

 (特に、第四条から第六条、「放射線業務従事者の被ばく限度」を参照)

Q. いま「ただちに影響がない」とされている放射線量でも、放出された放射性物質で汚染された水や食べ物を摂取したら、内部被ばくするのではないかと思います。大丈夫なのでしょうか?

 はい、内部被曝します。しかし、内部被曝により影響があるかどうか(大丈夫かどうか)は、放射性物質の量だけでなく、放射性物質の種類(種類によって半減期が違います)、同じように放射性物質の化学的な性質にも影響されます。あるいは取り込まれた場所の放射線への感受性(放射線から受ける影響の大きさ)によると思います。人体の中で一番早く影響が出そうなのは、甲状腺と思われます。特に若年層に影響が出ます。

Q. 報道されているのは放射線量ばかりです。しかし例え放射線量は低くても、少量でも放射性物質を吸い込めば、内部被ばくしてしまうのではないでしょうか?

 はいそうです。内部被曝します。後は、上記の質問と同じです。放射性物質の種類の情報が流れていませんね。測定されているはずですので、この放射性物質別の情報が欲しいですね。

Q. 福島では連日150 μSv/hなどという数字が報道されています。これですと、数時間で一般人の年間許容量とされている1mSvを超えてしまうのではないでしょうか。たとえばこの数値は、がんなどのリスクをどの程度高めるのでしょうか。

 150μSvは0.15mSvですね。従って、150μSv が24時間続き、これが1年間続いたとして、屋外にいてフルに被爆したと仮定して、年間1.314Svの被爆です。そしてICRP2007年勧告で計算することができます。0.15×24×365×0.055(/Sv)÷1000=0.072です。7.2%程度だけリスクの増加があることになります。しかし、150μSvはその日の最高値のはずで、スパイク状に高まった値と思います。そうすると150μSv が24時間続くという仮定は相当高めということになります。要するに、これまでの被曝量の累積量(積分値)を示してもらう必要があります。

 ただ、もし150μSv が24時間続き、これが14日(2週間)続くだけでも、50.4mSvとなり、労働安全衛生法電離放射線障害防止規則で定めた基準である年間50mSvを超えてしまいます。また妊娠可能な女性労働者の3ヶ月5mSvも超えます(妊婦にはもっと厳しい)。ましてやICRP2007に定められた公衆被爆年間 1mSvは軽く超えてしまいます。今回の状況は即座には解決しそうになく、状況により余裕はそれほどないと思います。

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