放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)報告
福島原子力発電所事故から66日後の
北西放射能降下区域住民の予測外部被曝線量評価
――住民避難対策のインパクト――
報告DRPH/2011-10
ヒト放射線防護局
要約
2011年4月8日、福島原子力発電所事故から28日後に、IRSNはそのインターネットサイト上に、事故後1年間に住民が受けると見られる被曝線量の地図を世界で初めて公表した。この地図は、米エネルギー省国家核安全保障局(DoE/NNSA)が行い、2011年4月7日にそのインターネットサイト上に公表された航空機による放射線量測定に基づいて作成された。
この地図により、原発の北西の幅50km、長さ70kmにわたって顕著な外部被曝線量の区域があることが分かった。その後、米エネルギー省国家核安全保障局が2011年4月18日に別の地図を公表したほか、事故から44日後の最近になって日本の文部科学省(文科省)も地図を公表している。これらの放射線量地図は、IRSNが最初に作成した被曝線量評価と一貫性があり、同じオーダー(差は2.5%未満)であった。
事故から56日後に、文科省はセシウムの累積降下量の地図を公表したが、福島原発から半径20kmの初期の避難区域を越えた地域でも、チェルノブイリ原発事故の最も汚染の激しい地域に匹敵する極めて高い値を示していることが分かった。IRSNではこれらの累積降下量にともなう外部被曝線量評価を新たに行い、3ヵ月後、1年後、4年後の被曝線量を予測した。
予測される被曝線量は、200 mSvを超える極めて高い値に達しており、もはや原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が低線量としている範囲ではなくなっている。
これらの被曝線量には、放射能の雲がこの地域を通過した際の被曝線量も、食餌にともなってすでに受けたり今後受ける被曝線量も含まれていない。総有効被曝線量(外部被曝+内部被曝)は、堆積した降下物の種類(乾燥か湿潤か)や食習慣、食品の産地によって大幅に増える可能性がある。
福島原発から半径20km以内の避難区域以外で、汚染の最も激しい地域(セシウム137+134が55万 Bq/m2を超える874km2)に住んでいる住民の数は7万人前後と多い可能性があり、うち9,500人が0〜14歳の子供である。
この数はチェルノブイリ原発事故での避難民の数(27万人)の26%に当たり、対象地域の面積はチェルノブイリ(10,300km2)の場合の8.5%にすぎない。
当研究所では、これとは別に次の試算もおこなった。
基準とする被曝レベルを放射線防護委員会(ICRP)が緊急時用に勧告している20〜100mSvで変化させた場合に避難対象住民の規模がどう変わるか。避難の開始時期を事故後3ヵ月、1年、4年とした場合に、対象となる住民がそれぞれ回避できる被曝線量。
今後予想される外部被曝線量??最も汚染の激しい地域(セシウム137+134が3,000万 Bq/m2)では生涯線量が4 Svは、避難による住民保護対策が必要になるレベルである。
ICRPの緊急時の勧告に基づいて、その最も防護的な基準である最初の1年間の最大被曝線量20 mSvを採用した場合、それによってこの値以上の外部被曝を避けることのできる住民は1万5,000〜2万人となる。
仮に日本政府がこれよりも防護的な基準レベル(たとえば最初の1年間の最大被曝線量10 mSv)の採用を決定した場合、対象住民(約7万人)が回避できる外部被曝線量は、避難実施の遅れが短いほど大きくなる。たとえば事故から1年後に避難した場合、これらの住民が回避できると予測される外部被曝線量は59%なのに対して、事故から3ヵ月後の避難では82%を回避することができる。
放射線に起因する白血病やガンが長期的に増加するリスクを予防するこうした政策に日本政府が配慮していることは、事故から66日後の5月16日に国際原子力機関(IAEA)から報告された、当初の20km圏を越える区域の住民避難地図からも明らかである。
今回定められた避難区域によって、ICRPの緊急時の勧告範囲の最も防護的な20 mSvの基準レベルは満たされる。この日本政府の決定によって、事故から28日後に世界で初めて公表されたIRSNの被曝線量評価地図の妥当性があらためて示されたことになる。
(仮訳:真下俊樹)