玄海原発は、周辺住民に白血病が増えているという問題だけでなく、井野教授が指摘している「ひと言で言えば、圧力容器そのものが劣化し、いつ“破断”してもおかしくない。浜岡原発より、玄海1号炉のほうがはるかに危険。原子炉は陶器のようなもので、簡単にひび割れ、破断してしまう。もし現実になれば、炉心の燃料棒が吹っ飛ぶような大爆発を引き起こす可能性もある」という問題も抱えている。
日本の最西端にある玄海原発で事故が起こった場合、西から東に向かって流れる偏西風に乗って、福岡、広島、関西、中部、関東など大都市の多くが風下汚染地になる可能性が高い。
「玄海原発1号炉は日本一危険な原子炉といっていいでしょう」
こう断言するのは、井野博満・東大名誉教授(金属材料物性)である。メルトダウンした福島第1原発より、停止が決まった浜岡原発より、玄海1号炉のほうがはるかに危険というのだ。
その根拠として井野教授があげるのが、次の数字である。
35℃(’76年)、37℃(’80年)、56℃(’93年)、そして98℃(’09年)。九州電力が公表した玄海1号炉の「脆性遷移温度」の推移である。
「ひと言で言えば、圧力容器そのものが劣化し、いつ“破断”してもおかしくない状態なのです」
わかりやすく説明しよう。冷えたガラスのコップに熱湯をいきなり注ぐと、コップは割れるかひびが入ってしまう。これはコップの内側と外側で急激に温度が変わり、その差にガラスが耐えられなくなってしまったからだ。
原子炉の場合は逆だ。常に高温に晒された原子炉に冷えた水がかかると、やはり急激な温度差に耐えられず、金属が破断してしまう。この変化にどこまで耐えられるかが「脆性遷移温度」だ。要は、98℃の水が原子炉にかかると、破断する危険性があるのだ。
「私はわかりやすい例としてタイタニック号の沈没をあげるんです。タイタニック号の船底や外板の鉄は質が悪く、27℃程度で破断する状態だった。冷え切った海を航海していて、そこに氷山がぶつかった。その衝撃が想像以上に船を破壊したため、世界最大の船があっという間に沈んでしまったんです」
原子炉は常に炉心から放出される中性子が炉壁に当たっている。このダメージが積もり積もって、圧力容器がどんどん脆くなっていくのだという。
「玄海原発1号機の原子炉は陶器のようなもので、簡単にひび割れ、破断してしまう。もし現実になれば、炉心の燃料棒が吹っ飛ぶような大爆発を引き起こす可能性もあります」(井野氏)
98℃という温度は、そんな最悪のシナリオをリアルに予感させるものだという。
【FLASH】
[ 2011年5月26日1時14分 ]
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玄海原発、想定以上の劣化か 専門家指摘「廃炉に」 (朝日新聞)
2011年5月27日16時5分
九州電力玄海原子力発電所1号機(佐賀県玄海町)の原子炉圧力容器の劣化が想定以上に進んでいる恐れのあることが、九電の資料などからわかった。九電は「安全性に問題はない」とするが、専門家は「危険な状態で廃炉にすべきだ」と指摘。1号機は稼働中で、反原発団体は原子炉の劣化を危険視している。
原子炉は運転年数を経るにつれ、中性子を浴びて次第にもろくなる。その程度を調べるため、電力各社は圧力容器内に容器本体と同じ材質の試験片を置き、もろさの指標である「脆性遷移(ぜいせいせんい)温度」を測っている。温度が上がるほど、もろさが増しているとされる。
1975年に操業を始めた玄海原発1号機は九電管内で最も古い原発で、想定している運転年数は2035年までの60年間。脆性遷移温度は76年、80年、93年に測定し、それぞれ35度、37度、56度だった。ところが、09年には98度と大幅に上昇した。
九電はこの測定値から、容器本体の脆性遷移温度を80度と推計。「60年間運転しても91度になる計算で、93度未満という新設原子炉の業界基準も下回る数値だ」と説明している。
※追加記事
玄海原発1号機の劣化問題 危険性の指標上昇
(2011/11/29 風の便り)