フクシマ契機 民意一変 イタリア国民投票
原発再開 明確にノー 日本含め、世界に影響も
(6月14日 西日本新聞国際面)
【ローマ共同】イタリアで12、13日に実施された国民投票では、福島第一原発の事故後、原発政策に関して世界で初めて、国民に直接是非を問う形で民意が示された。事故前に「原発再開」を容認しかけた世論は一変。地方選などの影響から政府が脱原発にかじを切ったドイツ、スイスの政策転換をしのぐ影響が予想され、欧州をはじめ日本など各国の反原発の世論を大きく活気づかせる可能性がある。
【1面参照】
ベルルスコーニ政権は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を受けた1987年の国民投票で廃止が決まった原発を再び建設しようと計画。一時は賛否がほぼ拮抗していたが、福島事故の衝撃度はあまりにも大きく、3月には世論の7割が再開反対に傾いた。原発を持つ世界各国では、イタリアの投票結果に強い関心が寄せられた。
こうした中、ベルルスコーニ政権は反原発派の勝利を阻もうとさまざまな策を講じてきた。
まずは投票日を6月12、13日に決定、5月の統一地方選との同時実施を求めていた野党側の主張を受け入れなかった。投票率は上がり、国民投票が成立する事態を嫌ったのは明白だ。
4月には政府が原発再開に関する議論を無期限凍結すると発表。「原発断念か」と反対派は色めき立ったが、ベルルスコーニ首相は「今、国民投票すれば(反対派が勝利し)長年にわたり原発再開が不可能になる」と述べ、反原発ムードが冷めるのを待つためだと明らかにしていた。
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“大国”フランスに包囲網
【パリ、ベルリン共同】
福島第一原発事故後、ドイツ、スイスは脱原発に大きくかじを切る一方、世界2位の原発大国フランスは原発推進のスタンスを変えていない。反原発派の圧勝が確実となったイタリアの国民投票の結果は、欧州連合(EU)の議論にも影響を与え、「脱原発」の潮流を加速させる可能性がある。
イタリア国民投票が成立し、反原発派の勝利が確実になったことで、ドイツ、スイスに続いて、フランスは3つの隣国に包囲される。国内世論にも揺らぎが生じ、同国政府の焦りは募る。
パリでは11日、福島事故後初の大規模な「脱原発」デモがあり、主催者発表で5千人(警察発表は1150人)が参加。国際環境保護団体「グリーンピース」の他、環境政党「ヨーロッパエコロジー・緑の党」、最左派政党「反資本主義新党」や労組なども参加し、脱原発を求める声がじわりと広がってきた。
週刊紙ジュルナル・ディマンシュの世論調査では、脱原発を求める世論は77%に急進。62%は「25~30年かけて段階的に廃止すべきだ」としており、電力需要の8割近くを原発で賄うフランスでも、老朽化した原発から順次廃止し、最終的にゼロを目指すという選択肢に支持が集まりつつある。
ドイツは今月6日、福島事故を受けて従来のエネルギー政策を転換し、2022年までに国内原発17基を全て停止する脱原発の関連法案を閣議決定した。
ただ、欧州だけでも約計140基の原発があり、ドイツにとっては自国の政策転換だけでは安全確保はおぼつかない。既に政府幹部は「世界や欧州の原発の安全基準を高めていく」方針を明示。ドイツ・メディアは、イタリア国民投票を注視し、投票率は「高くなる」(DPA通信)、再開を推進するベルルスコーニ政権には「大きな打撃になる」(シュピーゲル誌)などと事前報道にも熱を入れていた。
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イタリアも脱原発 国民投票 9割が再開反対 (6月14日 西日本新聞1面)
【ローマ共同=小西大輔】原発再開の是非を問い、12、13の両日行われたイタリアの国民投票は13日午後3時(日本時間同10時)から即日開票された。3月の福島第1原発事故後、原発をめぐる国民投票が行われるのは世界で初めて。 ANSA通信などは内務省の暫定集計として、投票率が約57%となり、50%超の投票成立条件を満たしたとした上で、反原発票が94・4%に達したと伝えた。
原発再開を進めていたベルルスコーニ首相は13日、記者会見で「イタリアは原発にさよならを言わなければならないだろう」と述べ、事実上の敗北宣言を行った。
福島の事故を受けたイタリアの反原発世論が明確に示された形。欧州では既にドイツ、スイスが将来の原発停止を決めており、主要国(G8)の一員で欧州の大国イタリアでも反原発派が勝利すれば、日本を含めた世界的な脱原発の動きが進む可能性がある。
会見でベルルスコーニ首相は「再生可能エネルギー分野で一層の努力をしなければならない」と語り、原発に代わるエネルギー開発に取り組む意向を示した。
イタリアは旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を受けて1987年の国民投票で原発廃止を決め、全国4カ所にあった原発は90年までに稼働を停止。しかしベルルスコーニ政権はエネルギー需要の8割以上を輸入に頼ることから、新規建設を含む原発再開を表明。反対する野党の求めで憲法裁判所がことし1月、国民投票実施を認めた。
福島事故後、反対世論は約7割に。政権の原発再開表明を受け、サルデーニャ州が5月に独自に行った原発建設の是非を問う住民投票では約97%が反対票を投じるなど、国民の反原発姿勢が鮮明になっている。
イタリアでは、2006年に実施された憲法改正を問う国民投票は投票率が50%を超えたが、今回のような憲法改正以外の投票は97年から6回連続で50%に届かず無効となっていた。
国内の最終的投票率は13日夕(日本時間同深夜)に判明予定。