イタリア、脱原発を継続(その1) 脅威避け故郷守る

イタリア、脱原発を継続(その1) 脅威避け故郷守る

 ◇「国より自分」の伝統 首相不信も一因

 先進国の中で唯一原子力発電所のないイタリアの国民は12、13両日の国民投票で改めて「原発拒絶」の姿勢を明確にした。背景には、東京電力福島第1原発事故の衝撃に加え、ベルルスコーニ首相らへの政治不信、重要な問題は伝統的に国民が決める??という三つの要素がある。しかし、代替エネルギーや、電力の大半を輸入化石燃料に頼る構造にも改善の道は見えない。ドイツなど脱原発への動きが目立つ欧州だが、原発推進を維持する国も多く、欧州は「フクシマ・ショック」後の原発政策を巡って二分され始めた。【ローマ藤原章生、ロンドン会川晴之】

 イタリア人は87年の国民投票で、原発建設地を自治体ではなく国が優先的に決めることや、自治体への優遇措置を拒否し、90年の原発全廃に結びついた。

 同国では自治体レベルで「緑の党」など環境、生活重視派が強い。今年は国家統一150周年だが、国民は国家より地域、故郷への帰属意識が強く、国よりも自治体を信じる伝統が強い。

 08年に政権の座に就いたベルルスコーニ首相は、「20年の稼働」を目標に原発再開策を進めたが、受け入れる自治体はなかった。それでも国民が原発を巡る2度目の国民投票を求めたのは、「政府は裏で何をするかわからない」という政治不信からだった。

 そこに福島原発事故が起き、「技術を持つ日本で起きた以上、イタリアでの原発管理は無理」という声が一気に拡散。大震災直後に大阪に避難した国営放送RAIの記者らが日々「原発の脅威」をあおり、税関庁が欧州連合(EU)に先駆けて日本からの輸入品検査を急がせたのも原発への不信感を広めた。

 イタリアでは戦後、46年の王制廃止、74年の離婚合法化、81年の中絶容認などを国民投票で決めてきた。「無知な庶民がその場の感覚で二者択一するのは賢明ではない」(フォカルディ・ボローニャ大教授=核融合専攻)との批判もあるが、人生にかかわる重要な問題こそ専門家の説より個人の考え、直観で決めたいという思想は、国よりも自分の身を第一に考える伝統だ。

 イタリアは商店などの営業時間の短さや個人の節電から、1人当たりの電力使用量は日本の約7割。それでも09年政府統計では、電力源の83%を主に原油、ガスなど海外の化石燃料に依存し、電気代は欧州一高い。

 反原発派は風力、太陽光発電をうたうが、双方で全電力量の0・85%で、急速に伸びる見込みもない。農地利用が必要な両発電には、補助金の横領を狙ってマフィアの暗躍が取りざたされもしている。

 政権による原発推進は、膨らむ政府債務の削減が狙いだった。電力消費を大幅に減らさなければ、周辺国からの高い買電が増える。

 代替案や国の計画よりも、まずは個人の感覚に頼ったイタリア人の選択は、原発の是非を決める一つの先例を示したと言える。

 ◇英仏は「推進」、欧州二分

 ドイツ、スイスに続き、イタリア国民が「脱原発」を選択したが、15カ国に148基ある原発が電力の約3割をまかなう欧州全体で同じ機運が高まっているわけではない。

 電力の8割を原発に依存するフランスのサルコジ大統領は「(脱原発は)軽率で理性のない選択だ」と強調。旧型原発の更新期を迎える英国など西欧諸国のほか、チェコやポーランドなどの東欧諸国は、明確に原発推進を打ち出している。

 欧州では、79年の米・スリーマイル島事故、86年の旧ソ連・チェルノブイリ事故を機に、原発見直し論が高まった。80年にスウェーデンが世界で初めて脱原発を決めたのを皮切りに、イタリアが87年、ドイツ、ベルギーが02年に脱原発政策を採択した。

 しかし、代替エネルギー源の確保が難しいことや、地球規模の気候変動問題を背景に原発見直し論が高まり、脱原発路線を撤回する国が相次いだ。スウェーデン議会は10年に原発の寿命延長を小差で可決、福島事故後もラインフェルト首相は「10年の決定に変更は無い」と明言した。

 ◇「脱露」の東欧も

 ロシアにエネルギー供給源を依存する東欧諸国にとっては、ロシアの影響力をそぐことが国家安全保障上の最大の課題。自前のエネルギー源確保のため、原発重視の政策を取る。産炭国のポーランドは2020年までに2基の原発を建設する計画で、ドイツなど近隣諸国に電力を輸出するチェコも原発増設計画を進めている。

 欧州の脱原発は、環境団体の運動だけでなく、「緑の党」の躍進などを背景に2022年までに順次廃炉を決めたドイツのほか、反原発を国是とするオーストリアなど多様な事情がある。原発批判のトーンを強めているオーストリアのファイマン首相は4月末、「チェルノブイリ事故後も160基の原発が新設された」と批判した。

毎日新聞 2011年6月14日 東京朝刊

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