今、この人の意見に耳を傾けたい。
現代ビジネス 2011年05月11日(水)
現職経産官僚が緊急提言
古賀茂明「東電破綻処理と日本の電力産業の再生のシナリオ」から抜粋
9. 何故事故が起きたのか、対応がうまく行かなかったのか-東電による日本支配の構造
今回の事故が何故起きたのか、事後対応が何故うまくいかなったのか、という問いに対する答えは、ガバナンスということに尽きるだろう。事後対応に関する政府の混乱については、これからの検証をまたなければならない部分が多いが、根本的な問題は、東電は、日本中で誰よりも圧倒的に強い立場にあったという事実を指摘しなければならない。
まず、政治家との関係では、
自民党の政治家は全国の電力会社に古くから世話になっている議員が多い。電力会社は各地域の経済界のリーダーであり、資金面でも選挙活動でもこれを敵に回して選挙に勝つことは極めて困難である。従って、今回の事故後にも、自民党の政治家で具体的に東電の解体論などを唱えているのは河野太郎議員ら極めて少数の議員しかいない。今後も電力会社の世話になりたいと考えている議員が圧倒的に多いので、東電に厳しい政策はなかなか通りにくい。逆に東電を守ろうとする露骨な動きも表面化している。
民主党も電力会社の関連労働組合である電力総連の影響を強く受ける。電力総連は連合の中でも最有力組織の一つで、現在内閣特別顧問(「特別」とつけたところに民主党が如何に組合に気を使っているかわかる)の職にある笹森清氏が東電出身で電力総連会長から連合会長に上り詰めた人物であることを想い起こす人も多いだろう。
菅政権は今のところ、東電に厳しい姿勢を取っているが、最後は国が責任をとるというような言動が目立つようになってきており、今後どこまで労組から独立した路線をとれるかは厳しく監視して行かなければならない。
こうした状況を変えて、東電の影響力を排除した形で政治的判断をできるようにするために、直ちに東電及び東電労組による政治家への献金、便宜供与、ロビー活動の禁止などの措置をとる。特に、個人献金の形で事実上の企業献金が行われる可能性が高いので、東電再生期間中は役員・従業員にも献金の自粛を求める必要がある。
次に、省庁との関係である。政府の中では内閣府の原子力委員会と経済産業省の資源エネルギー庁が原発推進機関、内閣府の原子力安全委員会と経産省の原子力・安全・保安院が安全規制実施機関であるが、いずれも事実上電力会社、東電の支配下にあると言ってよい。
原子力委員会と経産省資源エネルギー庁はそもそも原子力発電の推進派である。原子力安全委員会は原子力委員会と同じ内閣府の下にあり、また、原子力安全保安院は資源エネルギー庁の特別の機関という位置付けだが、実質は言わば子会社である。しかも、これらの組織に関与している多くの学者がいわゆる御用学者である。つまり、推進と安全チェックの組織が同居していて、チェック機能が正しく働く仕組みになっていない。
いずれの組織も巨額の原子力関連予算で潤っており、業界との関係も深い。つい最近も経産省から過去50年で68人が電力会社に天下っていたことが報道されていた。資源エネルギー庁長官が退官4ヵ月で東電に天下りしたことに非難が集中し、最近東電顧問の職を辞した(なお、他の電力会社のほとんどに今でも天下り役員等がいる)。東電に足を向けて寝られないという状態である。
さらに、東電は強大な政治力を背景に、経産省の人事にまで影響力を行使すると信じられており、現に電力自由化を強硬に唱えた官僚は左遷されたり早期退職を余儀なくされたりしていると言われている。こうした環境下では、本気で東電と戦うことは、まさに職を賭すということになるため、今日では、そうした声は殆どなくなってしまったのが実情である。
三番目に経済界も東電に支配されている。東電が電力を供給しているからではない。東電が巨大な調達を行うからである。
鉄、化学、電気、石油はもちろん自動車産業も東電には大量の製品を納入している。
銀行も東電は最優良顧客だった。証券会社も東電債は最大の社債銘柄である。ある証券会社の最近のレポートでは補償金の支払いのスキームに関して、東電を守るための提灯提案をしている。プロを装いながら自分達の商売を守ろうとする詐欺行為だ。
商社ももちろん東電には頭が上がらない。
これらの大企業の集まりである経団連が必死に東電を擁護しているのは利益最優先の私企業集団としては当然だが、それを公益のために主張しているかのように見せていることに偽善を感じる人は多いだろう。
この他、事業所付近の飲食業はじめ各種サービス業なども東電のおかげで潤っていることは周知の事実だ。
東電はコストに一定割合(公正報酬率などと呼んでいるが公正と言えるのか甚だ疑問)をかけて利潤を上乗せできる。コストを増やした方が利益も増えるのだ。だから、厳しいコストカットなど行うインセンティブはない。従って、単に調達額が大きいだけでなく、納入業者から見れば、他にないおいしい商売が保証されることになる。
従って、経済界で東電に逆らう者はいない。経団連が東電の免責を主張しているのも東電のご機嫌取りをしているだけでなく、東電の経営が厳しくなれば、コストカットの影響がおいしい商売に及んでくることを本能的に恐れていると見ることもできる。
マスコミも東電に支配されている。東電は膨大な広報予算の配分によって、原発批判等はすぐに抑え込む力がある。
現に、これほどまでに世間の批判を浴びている今日でもまだ東電の顔色を気遣うテレビ局のプロデューサーや新聞の論説委員も多い(テレ朝が私を出演させて東電の破たん処理プランを紹介したのは極めて勇気のある行動だ)。
東電の会長・社長が会見に殆ど姿を現さないのに、一方で全く心のこもっていないお詫び広告を出すのは、広報予算を使ったテレビ局への圧力だと受け止められている。
また、事故当時、勝俣会長がマスコミ関係者と中国旅行に行っていたことが暴露されたが、そうした不透明な癒着も広がっている。
学者も電力会社からの研究資金や情報提供などを含めた様々な便宜供与を受けること等により影響下にあると言われている。原子力安全委員会メンバーの多くが御用学者と言われているし、経産省の各種審議会・研究会などでも電力自由化や原発の安全基準などの議論をしていると、当初改革派が優勢でも、途中から殆どの学者が寝返って、最後は多くの場合、一人か二人になって改革派が孤立するというのが常であった。
その裏には、東電をはじめとしたすさまじい根回しがあったと言われている(「東大の学者は電力会社に買収されている」というノーベル賞学者の発言もあるほど)。
文脈がやや違うが、今日最もその独立性を問われているのが、新日本監査法人の東電担当チームだ。現在のような状況では到底監査証明は出せないだろう。仮に政府が何らかの対策について閣議決定したとしても、それがすんなり国会で通る可能性は極めて低く、議論すれば破たん処理となる可能性の方がはるかに高い。従って、閣議決定がなされるかどうかは監査に対してあまり大きな意味は持たないはずである。
新日本監査法人は、りそなやJALで、政府の影響を受けたという風評でその信用に大きな傷がついた。特にJALは中間決算時点で破たん必至と見られていたのに監査証明を出し、その直後に破たんというとんでもない失態を演じたのは記憶に新しい。
政府や東電、銀行の圧力に屈していい加減な監査でお茶を濁すようなことになれば今度こそ市場の信認を失うであろう。新日本監査法人は東電及び銀行・経産省から強大な圧力を受けることが予想されるが、むしろ新日本が彼らに引導を渡し、今回の東電処理を正しい道筋に導くことを強く期待したい。
10. 「政府の責任=国民負担」の前に経産省と内閣府の責任を問え-東電をスケープゴートにする官僚たち、まず資産売却を
現在燃え盛っている東電バッシングは、国民感情としては良く理解できるが、これだけに関心が集まると、経産省等の政府の責任が不明確なまま東電の処理策が決まってしまう可能性がある。政府の責任を言うとすぐに国民負担という話になるが、その前に経産省等の責任を明らかにする必要がある。東電の経営者の責任を問うのと同じである。
今回の原発事故の直接の原因である地震や津波に対する安全対策の基準が甘すぎたことは明らかだ。だから政府は東電に責任があると言っているが、東電は政府の基準に従っていた。本来、安全をチェックする責任を負っている政府は、東電の対策が不十分な場合、適切な安全対策の実施を指示したり、不十分なら原発の運転を止めたりする責任があったはずだ。
とりわけ、貞観大地震などの研究成果に基づき、地震・津波対策の抜本的強化の必要性が叫ばれて以降の原子力安全・保安院、資源エネルギー庁、経済産業省の関連幹部の責任はある意味、東電より大きいとさえ言える。現在の幹部ももちろんだ。彼らが、今、東電の温存策策定に必死になっているが、事故の責任者に将来の対策の立案を任せていては、自分達の利権擁護と保身のために対策が歪んでしまう。彼らをまず対策立案チームからはずすことが正しい対策立案への近道になる。
これらの責任のある幹部には退任と退職金返上を要請すべきだ。過去の幹部にも補償金のための退職金返納を求めるべきだ。
先日、東電に天下りした前資源エネルギー庁長官が顧問職を退任したが、他の電力会社の殆どに今も天下りの経産省OBがいる。彼らにも自主的退任を求めるべきだろう。彼ら個人に必ずしも直接の責任がある訳ではないが、被災者の感情を考えただけでも天下り癒着の構造を残すことは許されないだろう。
また、他の原発立地地域の住民から見れば天下りで癒着していれば国が本当に安全を確保してくれるのか極めて不安になる。全電力会社への天下り禁止と天下り役職員等の退任を求めるべきだ。
実は、天下りによって規制対象企業との癒着で十分な安全規制が実施できなくなるという不安はかねてから指摘されていた。今、それが最悪の形で証明された訳だ。これは、何も経産省に限ったことではない。今こそ、全省庁において、最低限、規制対象企業への天下りは全面的になくすように内閣として自粛要請すべきだ。
次に、政府の責任という場合、個人の責任追及だけでなく、東電が行うのと同様に意味のない資産を売却して補償財源を確保するということが必要だ。手っ取り早いのは、まず、JT株(現在の株価でも三兆円)、NTT株の売却、さらに、日本郵政株も本来の方針通り早期に売却すればさらに数兆円が入るだろう。
公務員幹部宿舎、印刷局その他の土地、独法の保有する株、債権など天下りや各種の利権を温存するために保有している資産は、国民にとっては百害あって一利なしであるから、直ちに売却する。これによって料金値上げや増税は必要なくなるか、かなりその規模を圧縮できることになる。
なお、核燃料サイクル推進を前提とした積立金なども取り崩しを認める。他の電力会社にも積み立て義務を解除し、免税されていた分の課税を行って補償金財源に充てることも必要だ。
11. すぐに簡単にできること-広告禁止と研究資金源・便宜供与の公開
東電の広報は原則禁止措置をとればよい。当面は政府が要請する。東電は従うであろう。これによって、マスコミへの不当な影響力を排除することができる。また、これまでに行ったマスコミに対する接待や便宜供与などは全て個人名を含めて公表させることが重要だ。管財人や経営監視委員が指名されたのちは、彼らがその実効を確保する。
本当にお詫びしたいのだということであれば、原発事故が収束するまでは、お詫び広告の代わりに毎日社長が土下座会見をすることにしてはどうか。
東電による学者等への資金拠出・原稿料・講演料などの支払いも全面公開を要請する。これにより御用学者があぶり出され、彼らによる東電寄り「専門家」情報の影響力を弱めることができる。
12. 事故調査は政府任せではいけない-国会の下に独立の事故調査委員会を
政府は5月中旬に事故調査委員会を設置するとしているが、今回は、一省庁の問題ではなく、内閣そのものの責任が問われることになる。そうなると、内閣が作る調査委員会で真に公正な調査が出来るのかという疑問がある。今回は、国会に事故調査委員会を設置し、国会に対して報告することにするべきだ。
今回の事故の原因、発生後の対応などについて調査・分析し、今後の規制の在り方などについての提言を含めた報告を行ってもらう。
委員には原子力関係者はごく一部とし、危機管理の専門家や経済学者など他分野の専門家も入れるとともに、御用学者を排除しなければならない。また、委員就任後に東電などから様々な働きかけが行われる可能性があるので、そうした接触や便宜供与を禁止することも必要だろう。
今回、日本の原発危機管理が世界でもかなり遅れていることが判明した。世界の専門家を招へいして国際レベルの調査を行うべきである。
13. 電力事業の構造問題への対応-発送電分離と発電分割と完全自由化
今回の事故後の対応によって、実は将来の電力市場のあり方、さらには日本の社会の在り方にまで大きな影響を及ぼす可能性がある。逆に言えば、やり方によっては、今の構造をそのまま温存することになる危険性も十分あるということだ。
まず、首都圏直下型等の地震発生可能性が高まっていることを前提として、経済機能の首都圏集中を根本的に見直し、10年後に首都圏で供給される電力を現在よりもかなり低めに設定する。大口需要者に対する電力使用制限を常用することなども検討し、経済主体の地方分散を促進する。ただし、国外移転回避のための措置も必要となる。
同様の趣旨から電源の分散設置のための方策を検討する。
併せて再生可能エネルギー利用・自家発電などあらゆる分野における規制緩和を集中的に行う。電気事業法はもちろん消防法などを含め関連規制を総合的に見直す。
これらを実施して行く上で、東京電力が発送電で事実上の完全独占状態となっていることが大きな障害となることは明らかだ。これまでも卸電力や大口需要家への電力小売りの自由化が、東電の巨大な影響力が残っているため実質空文化に近い状況となっている。
まず、発送電分離を前提とした電力自由化の方向を明確化して乗り越えるべき課題について早急に検討する必要がある。その際、東電の巨大な経済力が政治、経済、社会を支配している状況も併せて根本から正すために、発電部門は分割してその規模を縮小するとともに自由競争下において、通常の企業としてのガバナンスが働く構造を確立することが必要である。
今回の事故の原因、事後対応のまずさがガバナンスの欠如を主因としていることは既に広く指摘されているが、その根本原因である、東電による市場の独占と巨大な経済支配力を崩すことが今後の改革の主要テーマとなる。
14. 第二段階の具体案-持株会社段階を経て規制を整備し完全分割へ
財産保全と電力供給のための資金確保策を講じる第一段階を経て、将来の再生に向けた第二段階のプロセスに入る。その後の道筋は、今の段階で予断をもって決めつけない方がよい。
まず、事故被災者に対する補償債務がどの程度になるか概ねの額が判明するまでにはまだかなりの時間がかかるだろう。
さらに、東電の資産査定や事業再生計画作りの前提となる、今後の原発行政や電力行政の基本方向が決まるまでにも時間がかかる。
これらの前提条件を固める作業を横目で睨みながら、実際の再生計画作りが行われることになる。ただ、これまでの多くの巨大企業の再生では、必ず相当無駄なコストが隠れていて、実は、コストカットだけでもかなりの収益構造の改善が出来るというのが常識だ。東電の場合は独占企業であり、しかも過去に経営危機に瀕したことはないので、その程度はこれまでの企業の比ではない可能性が高い。コストカットは、今後の電力行政の方向がどうであれ、どんどん進めるべき事柄だ。
また、これまで、経産省と東電の間の癒着構造の中で行われていた料金査定も今回は過去の積み上げからの変化分をチェックするのではなく、根本から徹底的に見直す作業が必要だ。他の電力会社にもその結果は適用されることにする。それによって電力料金はかなり下がる可能性がある。もちろん、東電への納入側である経済界などの抵抗も予想されるが、これに手心を加えてはいけない。
これらの作業を早期に実施するためにも、早急に再生処理の専門家チームに今後の東電の経営を任せるスキームに移行しなければならない。従って、決算を延期すれば一息ついてよいというようなものではなく、いずれにしても、政権は早急に決断しなければならないということに変わりはない。そのことが十分理解されているのか心もとない。
実際に事業再生過程で発送電分離と発電部門分割を行うやり方は、専門家に任せればよいが、一つの案としては次のような経路を採ることが考えられる。
まず、東京電力を持株会社とし、その傘下に発電部門(東京発電株式会社)と送電部門(東京電線株式会社)を別々の子会社として配置する組織再編を実施する。
次に発電部門を事業所単位で分割して持株会社の下に子会社として直接配置する。
各子会社は独立採算として、1年から2年程度の実績を見て各子会社間の連携上の課題への対応、将来子会社を完全売却した場合の問題点の想定と対策案を策定。必要な法整備の検討を行う。
福島第一原発の廃炉事業はこれらとは別会社とする。この切り離しの方法については別途検討が必要。
これらの準備段階を経て、概ね3年から5年以内に、発電事業会社を順次売却する前提で特に送電会社に対する特別の規制のための法整備を行う。送電会社は上場により資金回収することを基本とする。
電力事業の規制主体としては、独立の3条委員会(「電力事業規制委員会」)を過渡的に設置し、電力全体の自由化が終了して安定した段階で、この委員会を公正取引委員会に統合する。
なお、送電については、現在の交流送電網は今後も独占となるため、適切な規制が必要だが、今後は新たな技術開発の進展に応じて直流送電の可能性が広がるとも言われており、これらについては自由化することができる。将来的にはNTTやJRが既存のインフラを利用して送電に進出する可能性もあるのではないか。いずれにせよ、送電にも競争が部分的に導入されれば、地域を越えた市場の自由化につながるだけでなく、電力の安定供給の観点からも効果が期待できる。
なお、これらの改革を進めるのと歩調を合わせながら、他地域の電力についても同様の改革を進めることが必要であるが、その進め方については別途検討が必要である。
15.原発規制の見直し
原発推進機関の経産省と原子力安全・保安院の事実上の一体化が杜撰な地震・津波に対する安全規制につながった可能性が高い。原発関連情報の隠ぺい・改ざん事件にみられる過去の東電と経産省の天下りを含む癒着の構造も事故原因となり、また、事故後の対応に失敗した原因となっている可能性が高い。
原子力安全・保安院には実は高度な専門知識を持つ職員が殆どいないため事実上規制能力がなかったことも判明した。
上記の構造に対して、国民及び海外の批判は極めて強く、現状のままでは既存の原発の稼働にさえ理解を得ることは極めて困難になっている。このため、現在の原子力安全規制の在り方を根本から変えることが必要となる。
ア.原子力安全・規制は経産省から完全に切り離す。
イ.原子力安全・保安院は廃止し、原子力安全委員会を抜本的に改組・強化(人員も増強)して独立性の高い3条委員会とする。
ウ.能力のない者は雇用しない。
エ.委員会の委員の独立性・公正性を確保するための措置を導入する(電力会社やその関係組織・支援組織からの資金提供に関する情報公開など)。
オ.事務局には、外国人を含む民間人を大量に登用する。専門知識が必要なポストにはそれにふさわしい職員を配置する。必要に応じて給与体系も特別に作る。この分野は極めて専門性が高いが、日本のレベルは米・仏などに比べて官民とも極めてレベルが低いことが判明した。バブル崩壊で金融分野の人材のレベルが暴露されたのと同じである。官民の人材流動化が必須であり、これを進めることによりガラパゴス化した原発規制分野の人材の国際化と高度化を図る。山一、長銀破たんなどが金融分野で人材流動化の突破口となったのと同様、東電破綻がその突破口となる。
16. スマートグリッドと再生可能エネルギーで世界一の電力市場を
わが国ではこれまでスマートグリッドの取り組みが進まなかった。その最大の原因は電力会社の抵抗だと言われている。スマートグリッドを本格的に推進するとなると、再生可能エネルギーを含めた分散電源の振興の議論と対になって、発送電分離が必要という議論を誘発し、本格的な電力市場の自由化につながるからだ。
従って、■13で述べた改革は、これまで電力会社の抵抗で進まなかったスマートグリッド推進のための最低限の環境整備につながることが期待される。
また、わが国では原子力推進について国があまりに肩入れし過ぎて来たことにより、原発のコストが過少に評価されていた。そのことにより、電力多消費産業には補助金を与える効果をもたらした。逆に言えば、再生可能エネルギーは不当な差別を受けて来たとも考えらえる。
今後は、原子力偏重の政策を見直し、原子力関連予算の大半を再生可能エネルギーの普及策に回すことなども考えるべきであろう。いずれにしても、原発のあり方について早急に根本から議論を行い、国民的コンセンサスを得ることが重要だ。
再生可能エネルギーの発展を中心としたエネルギー供給構造が出来ないか、長期的視野に立った上で真剣な検討が必要だ。
以上のとおり、原発補償問題と東電の経営問題の処理に当たっては、長期的な視野に立った上で、幅広い論点について整理しながら将来の電力産業や社会の在り方まで見据えた抜本的な対応策を策定して行くことが求められる。
これには時間が必要だ。従って、二段階処理が求められる。
しかし、だからと言って、初動の対応策を先延ばしにすることは許されない。この問題を政争の具にすることを避け、直ちに超党派で対応策を協議し、今月中に必要な法律を通すことを目指すべきである。
上記の第一段階の措置を実行するためには、それほど難しい条文は必要ない。内閣に少数精鋭の改革魂にあふれる独立性の高いプロ(官僚を含む)を集めたチームを置き、作業に当たらせることが必要だ。法案策定等を含めて一ヵ月で実際の破綻処理に移行できる程度のスピード感が必要だろう。
そして民主党政権の最大の欠点である、専門分野に素人の思いつきと感情論そして政局がらみのバイアスを持ち込むことを一切排除するスキームを作る。それさえ出来れば、現在の混迷した状況は一挙に改善するであろう。
(本稿は全て筆者の個人的見解である)