電力会社と原発立地町や県との「原発マネー」をめぐる腐敗、官僚の電力会社や原子力関連特殊法人への天下り、政治家と電力会社との癒着などが、最終的には子どもたちを犠牲にしている。
その顕著な例が「SPEEDI」である。
SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)は、気象条件や地形データをもとに原発周辺の被曝線量を予測する。開発費は113億円。昨年度予算は7億8千万円。しかし、住民避難に役立たなかった。
原発と子供たち(1)公開なかったSPEEDI
2011.7.10 13:09 産経ニュース
避難先は線量高い北西方向
「SPEEDI(スピーディ)が公開されていれば、北西方向に避難することもなかったのに…」
東京電力福島第1原子力発電所から北へ約32キロ、福島県南相馬市鹿島区に住む主婦、只野知子さん(35)は、悔やんでも悔やみきれない気持ちでいっぱいだ。
東日本大震災翌日の3月12日午後3時半ごろ、自宅にいた只野さんは「ドーン」という音と、地震と異なる地響きに飛び上がった。夕方のテレビで福島第1原発1号機が水素爆発を起こしたことを知った。しかし、政府の避難指示範囲は原発から半径20キロ以内。危機感はなかった。それより大津波の後、連絡が取れなくなった福島県新地町に住む父、舛谷君夫さん=当時(59)、4月18日死亡確認=が気がかりだった。食料品や飲料水を買い、冷蔵庫には入る限りの生鮮食料品を詰め込み、震災後の生活に備えた。
◆「逃げなさい」
避難を決断したのは3月14日。親戚からの電話を受けたためだ。
「子供を連れて原発から100キロ以上逃げなさい」
その日午前11時頃には3号機が水素爆発を起こした。只野さんは当時生後6カ月だった長女、美月(みづき)ちゃん、長男の悠馬(ゆうま)君(5)、夫の将哉(まさや)さん(32)、双子の妹(35)一家らとともに11人で車3台に分乗。とりあえず福島市内まで行こうと、南相馬市の西方向、原発からは北西方向に向かった。夜になったため、原発から約55キロ離れた伊達(だて)市霊山町の公民館に入った。そこで、18日に秋田県の親戚宅に行くまで避難生活を送った。
ところが、原発から放出された放射性物質(放射能)の多くは自宅がある北方向ではなく、計画的避難地域となった飯舘(いいたて)村や伊達市、福島市のある北西方向に集中的に流れた。只野さんが避難した伊達市霊山町では一部の地域で放射線量が局地的に高い「ホットスポット」が観測され、6月30日には113世帯が「特定避難勧奨地点」に指定された。
3月15日夜には、文部科学省の原子力対策支援本部が、北西20キロのモニタリングを実施。地上1メートルの空間放射線量が車内で毎時195~300マイクロシーベルト、車外で240~330マイクロシーベルト。車内にいても通常時の一般人の放射線量の限度(年間1千マイクロシーベルト)を5時間で超える高い値だった。
なぜ、文科省は北西方向だけを測定したのか。担当者は「放射性物質は風に乗って流れる。気象条件から、北西方向に流れていることは最初から分かっていた」と説明するが、住民は知らされていなかった。
◆早く健康調査を
放射性物質が流れ込んだ飯舘村では3月11日から、学校や村の施設で浜通りの津波被災者や原発事故の避難者1200人を受け入れていた。対応にあたった学校職員、愛澤卓見さん(39)は「電話やインターネットが通じるようになるにつれ、相馬や南相馬より飯舘の方が線量が高いことが分かった。SPEEDIの拡散の予測情報があれば避難所は開設していない。避難者が来ることもなかったし、私たちも避難していた」と話す。
現在は自宅に戻っている只野さんは「伊達市の公民館に着いたとき、外部放射線量のスクリーニングを受け大丈夫だと言われた。でも、伊達市の霊山地域はどうだったのか。一日も早く子供たちの健康調査をしてほしい」と表情を曇らせた。
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11日で「3・11」から4カ月。福島原発事故の対応をめぐり、住民は政府と東京電力に大きな不信感を抱いた。被曝(ひばく)から子供を守るために行動した親たちは、出口の見えない不安におびえている。親たちは何を決断し、子供たちはどう事故と向きあっているのか。
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【用語解説】SPEEDI
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム。文部科学省所管の原子力安全技術センターにあり、気象条件や地形データをもとに原発周辺の被曝線量を予測する。昨年度予算は7億8千万円。しかし、住民避難に役立てることなく政府は3月23日になって試算結果を公表した。被曝すると、特に乳幼児の甲状腺がんの発症確率が高くなることが知られている。
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安全委のメンバーはSPEEDI開発費の113億円を国民に返還すべき
原子力安全委や(財)原子力安全技術センターは、放射能拡散データをひた隠し
経済産業省も文部科学省も公開拒否を容認
SPEEDIの運営は、(財)原子力安全技術センター
経済産業省や文部科学省官僚の天下り先
⇒原子力安全技術センター役員名簿リンク
常勤役員の給料は106万円/月+官僚や外郭団体特有の各種手当
年収は2,000万円以上とみられている
⇒原子力安全技術センター給与規定リンク
⇒原子力安全技術センター退職金規程リンク
⇒原子力安全技術センター収支計算書リンク
★現職経産官僚が緊急提言
古賀茂明「東電破綻処理と日本の電力産業の再生のシナリオ」
天下りや癒着の実態をするどく指摘している