「チェルノブイリ・百万人の犠牲者」(動画)
(インタビュー収録 2011年3月5日)
「書き起こし」から抜粋
ようこそ、司会のカール・グロスマンです。
来る4月26日でチェルノブイリの原発事故からまる25年になります。
一方 世界中の原子力業界は再興を図っています。今日は ちょうど出版された大事な本「チェルノブイリ:大惨事の人と環境に与える影響」について取り上げていきます。
この本は公開された医学的データに基づき事故の起きた1986年から2004年までに98万5千人が亡くなったとしています。死者数はさらに増え続けています。
スタジオにはジャネット・シャーマン博士をお迎えしています。ジャネット博士はこの本の編者でもあります。著者はアレクセイ・ヤブロコフ博士とベラルーシ出身のバシリー・ネステレンコ博士そしてアレクセイ・ネステレンコ博士です。
Q,チェルノブイリ原発事故の死者は100万人ということですが死因は何でしょう?
癌、心臓病、脳障害や甲状腺ガンなど死因はさまざまでした。
何より多くの子供達が死にました。胎内死亡、又は生後の先天性障害です。
Q,科学者たちが98万5千という死者数を特定した方法は?
これは公開されている医学的データを基にしています。原子力を規制・奨励する国際機関である国際原子力機関(IAEA)はチェルノブイリの死者数を約4千人とホームページで発表しています。
Q,これは本に発表されている98万5千人と大きく異なるのはなぜでしょう?
IAEAが発表したチェルノブイリフォーラムという調査書は350の論文に基づき英文で公開されている資料でしたが、ヤブロコフ博士とネステレンコ博士たちは5千以上の論文を基にしています。
それは英文の論文に限りませんでした。また実際に現場にいた人達の声を基にしています。現場にいたのは医師、科学者、獣医師、保健師など地域の人々の病状を見ていた人たちです。
Q,この本によりますと、世界保健機構(WHO)でさえチェルノブイリの真実を語っていないと批判していますね。WHOはIAEAと協定を結んでおり発表することができないとのことですが、それについて説明していただけますか?
1959年に結ばれた協定は、それ以来変わっていません。
一方がもう一方の承諾を得ることなしに調査書を発表することを禁じています。
WHOはIAEAの許可なしには調査書を発表できないのです。
IAEAは、世界中の原子力の規制だけではなく原子力の促進を行う機関でもありますからね。当然、WHOに「原子力は健康に有害だ」と言われては困るわけです。こうした協定を終結すべきです。協定は破棄されるべきです。
Q,さて毒物学者として 研究に生涯を捧げておいでのあなたが今この本の編集をされている中、あらゆる科学的なデータをみた上でチェルノブイリの犠牲者数は100万人と仰る。科学技術による史上最悪の事故ということですね。
そうです。事態は私が思っていた以上に深刻でした。人々が癌や心臓病で命を落とすだけでなく体中のすべての臓器が害されて免疫機能、肺、眼内レンズや皮膚などすべての器官が放射能の悪影響を受けたのです。しかも人間だけではありません。調査した全ての生き物、人、魚、木々、鳥、バクテリア、ウイルス、狼や牛など生態系のすべてが、例外なく変わってしまいました。人間への影響にとどまらず鳥や動物にも人間と同様の悪影響がありました。
Q,今となっては癌と放射能の関係はわかりますが心臓病はどうして起こるのでしょうか?
私がこの本を編集するときに気付いた重大なことの一つですがバンダシェフスキーという科学者は、研究で子供達の体内に蓄積されたセシウム137の量が実験動物と同じ値になっていることを発見し、それが心臓にダメージを与えていることに気づきました。この研究結果を発表したことで彼は、刑務所に収監されてしまいました。
病理学者だった彼は、まず動物実験を行ってから子どもへの影響を調べようとしました。
その結果、亡くなった子供たちの心臓に蓄積されたセシウムの量は動物の場合と同様でした。これを発表した謝礼として逮捕され刑務所に収監されました。
Q,チェルノブイリからの放射能によってロシア、ベラルーシ、ウクライナは高濃度で汚染されましたが、この本によればそれどころか世界中に拡散したと書かれていますね。
そのとおりです。放射能がもっとも集中したのは前述の三国ですが最大量の50%以上は北半球全体に行きわたったのです。特に北はスカンジナビア、東はアジア圏へと。
Q,チェルノブイリ事故による死者は近隣国だけでなくもっと広いエリアで見られたということですが。
もちろんそうです。世界中です。
Q,この悲劇はいつまで続くのでしょうか?放射性物質が浄化されるには千年はかかるでしょう?
もちろん。セシウム137及びストロンチウム90だけでも半減期は30年、少なくとも3世紀は残ります。仰るように多くの同位体が千年残るはずですので、おっしゃる通りです。
Q,この本には最大の被害が起きたのは最初の数ヶ月もしくは数週間と強調していますがとてつもない大火事が起きていた時のことですね?
はい。今でも原子炉から水道へダダ漏れしています。今も原子炉の周りの構造も安全ではありません。もし小地震でもあれば建物が崩壊する可能性もあります。原子炉は安全に覆われ、漏れてはいないとは言えません。
Q,チェルノブイリの真実を語るこの本は権威あるNY科学学会によって発行されましたね。科学の専門機関はこれ以外にもあるわけでしょうが、チェルノブイリの情報を外に出すことについて彼らの立場はどうなっているのでしょうか?
情報を外に出すことに好意的なグループもあり、原子力御用学者と組み合い、どの様な内容が書かれていたのかは明らかではなかったようです。
Q,著者のヤブロコフ博士とネステレンコ博士たちは、チェルノブイリの影響を調べる為にあなたとどのように取り組んだのですか?
彼らはWHOとIAEAの協定の事を前から知っていました。実はジュネーブのWHO本部の前で一日中、協定を抗議するデモを行っている人々がいます。(Q,この本にはIAEAとWHOの「談合の協定」と呼んでいますね。)チェルノブイリの件で、ヤブロコフ博士はゴルバチョフとエリツィンの補佐を務めていました。事故直後の3年間、ソ連政府は情報の隠蔽を続けいましたし、一般に真実を知らせまいとデータ収集もしませんでした。
ヤブロコフ博士はそれを知り、情報収集を始めました。出版された論文の数は15万以上でしたがこの本の執筆には5千点以上が使われました。これらの資料は英語に訳されたことが無く、ほとんどがウクライナ語、ロシア語、ベラルーシ語の論文でした。
こうした情報が西側世界の目に触れるのは初めてです。
Q,人、動物、植物への影響について違いはなんでしょうか?
いいえ。メカニズムは同じです。放射性同位体に汚染されると人、鳥や動植物が受ける影響は細胞が破壊されダメージを受けるということです。DNAへの損傷をもたらし遺伝メカニズムがダメージを受けるという点で同じです。
細胞を破壊するのであれば癌にはなりませんが、細胞にダメージが与えられると癌になります。もしくは先天性障害の原因となります。人や鳥だけでなく植物にさえ先天性障害が出ます。チェルノブイリのせいで植物にも変異が起こりました。
Q,風の影響で北西が被害を受けたとのことですが、チェルノブイリや原子力とはまったく無縁だったスカンジナビアのラップランドの人々でさえも雨などによる放射性物質拡散で余波を受けました。こうした事後的影響については?
最近の研究によるとチェルノブイリ事故当時に生まれたスカンジナビアの子どもは、高校を卒業する割合が低いようです。知的能力に影響が出たのではないかと思います。
私が知る限りのチェルノブイリの最悪な影響は、健康と言えるベラルーシの子どもはわずか2割だということです。つまり、8割のベラルーシの子ども達は、チェルノブイリ事故以前のデータと比べると健康でない状態だということです。医学的に健康でないだけでなく知的にも標準以下となってしまっているのです。
Q,知的能力の低下と放射能の関係について教えてください。
妊婦たちが食べる物の汚染については、きちんと知らされていない場合が多かったようです。または汚染されていない食べ物が手に入らなかったんです。妊娠中に放射性同位体が体内に入ると母体を通じて胎児に届き、心臓、肺、甲状腺、脳とすべての細胞、免疫系統にもダメージを与えたのです。こうした子どもたちは未熟児で生まれつき健康状態が悪く、死産の率も非常に高く、これは被曝がもたらした結果です。人間の文化に起こりうる最悪の悲劇です。
Q,チェルノブイリの原発事故後、旧ソ連の穀倉地帯であるウクライナのチェルノブイリ原発では3機の原子炉が今でも運転中です。そこでとれた食べ物はあちらこちらへと出荷されました。
はい。これは、きわめて深刻な問題です。数百年間も土壌汚染が続く中、どの様にして食料を人々に賄っていけばよいのでしょうか?しかも小麦やライ麦などの穀物だけでなく、マッシュルームも汚染されています。重要な食料と思えないかもしれませんが、この地域では広く流通する食材で、非常に高濃度で汚染されています。
Q,本は医学的データに基づき、死者数は98万5千人と結論づけました。けれども、このデータは1986年から2004年までのもので、番組のはじめに「100万人の犠牲者」という言葉を使いましたが、やはりチェルノブイリの犠牲者の数はその位になりますでしょうか?
そう思います。やがてその莫大な規模が知られることでしょう。例えば「清算人」と呼ばれた人たちがいました。近隣諸国から主に軍より召集された若き男女でした。火災を消火し、問題の原子炉を封印する仕事をさせられました。その15%が死亡しています。この人達は18~30歳位の若い男女だったのです。
Q,原子炉から放出された放射性物質の数量ですが、これにつきましても本が記す数値と公式発表された数値に大幅な違いがありますね?
まったくです。もし放出されたのが少量だったならば、低レベルの放射性物質は極めて危険ということですし、もしそれが大量に放出されたのだったらその甚大な被害の規模をみなければなりません。しかし私達はいまだに真相を知らないのです。なぜなら、原子炉に残されているものは何か、地下水に漏れ出しているものは何かを実際に現場へ行って確かめる事ができないからです。
Q,原子力の安全性はどういうことになりますか?
原子力産業、原子力関係の組織は大抵、政府系の機関だったりするもので原子力「ルネサンス」の再興を押しまくり原発をもっと建設しようとしていますね。
Q,チェルノブイリ原発事故の教訓は?
私が思う教訓とは、技術を促進する前に慎重に考えることだと思います。例えば、BP社によるメキシコ湾の石油採掘については何の問題もないと私たちは聞かされていました。一つの問題として、技術者たちは技術に関する事については分かりますが、彼らは生物学をよく理解していません。彼らは設備周辺にある生物生命に与える影響を理解していません。チェルノブイリ事故の最大の教訓は、汚染されたすべての生物に影響を与えたことです。例外はないのです。
Q,具体的にどの様な遺伝子損傷のことですか?
脳や心臓、肺への影響、腕のない子供、水頭症の赤ちゃんです。鳥の場合は、羽毛とくちばしの変化、脳の大きさなどがあります。これらの鳥はあまり利口ではなく、汚染されていない鳥に比べそれほどよく生きていません。植物も永久的に変ったのも分かっています。難しいことではないのです。放射性同位体の行き先は明らかです。
ヨウ素は甲状腺に、ストロンチウムは骨や歯に蓄積します。特に胎児に影響が及ばれます。セシウム137は心臓と筋肉に蓄積されます。これを知っている為、どんな悪影響がでるのかを予測できます。そして、結果はまさに予測通りであり、それを本で証明しました。
Q,「チェルノブイリ事故による犠牲者はわずか数千人」とよく引用されて聞きますが、これは史上最大の嘘の一つですよね。
はい。追及もされずに逃れています。私たちはWHOと国連に圧力をかけねばなりません。WHOとIAEAを分離させることです。
Q,WHOとIAEAのみならずここ米国の原子力規制委員会もまた、放射性物質の影響を過小評価しようとしていますね。
全くその通りです。私は、原子力規制委員会の前身であった原子力委員会(AEC)で働いていました。それはカリフォルニア大学内で、1952年のことでした。新卒で働いていました。当時の私の限られた教育と経験でも他の人が思っているより放射能は危険とわかっていました。
放射能のもたらす害については米国民に対しても何十年間に渡り、秘密と嘘が貫かれました。隠蔽及びデータの書き換えが行われ、多少の放射能なんか大丈夫と吹聴されました。しかし、デービスベッセ 原発所ではメンテナンス不足の為、炉心が格納容器の中で溶けだすところだったことがわかっています。米国でなくとも世界のどこかで再び原発事故が起こるのは時間の問題だと信じています。
Q,なぜ嘘やごまかしが起こるのでしょうか?
それには複合的な要因があるでしょう。金や原子力を促進する企業による支配もそうですが、米国の人々はあまりにも原子力について無知です。みんな生物学をまったく理解していません。放射能の害についての教育を考えると米国はあまりにお粗末です。
Q,チェルノブイリの犠牲者が100万人というとき、テクノロジーの歴史や、その現場にとって何を意味しますか?
技術だけに頼るのは間違いだということです。それを設計・操作する人間にも頼るべきでもない。なぜなら、最終的にチェルノブイリ事件の様なミスを起こすのは人間だからです。
Q,健康への影響は大規模ですね。
そのとおりです。北半球全域にわたります。放射性物質の降下地点で人々は死んでいます。死ななければ、子どもたちは知的・医学的障害をもって生まれてきています。これがいまだに続いており、まだ終りではないのです。人々が真実を知ることがとても重要だと思います。
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●収録を行ったのは2011年3月5日でした。日本の福島原発大惨事がはじまる6日前です。チェルノブイリそしてこの日本の悲劇の教訓は、すべての原発を停止するべきだということです。原発は明らかに地球上の生命に危険をもたらしています。二度と新たな原発の建設をすべきではありません。
原子力への税金を使った補助金をやめにすべきです。効率のよいエネルギー政策にただちに転換し、すでにある風力・地熱・太陽光など安全でクリーンな技術をフルに回転させるべきでしょう。死を招く原子力は完全に不必要なものです。