原発と国家  「電力」の覇権 人事も盾に官僚操縦

西日本新聞 8月31日朝刊(P35)
原発と国家 第4部 「電力」の覇権<2>から抜粋

人事も盾に官僚操縦

「夕方に発表があります。あんた異動ですわ」。2004年夏の昼下がり、経済産業省の幹部官僚に電話してきた電気事業連合会(電事連)の男は信じ難いことを口にした。その時点で事務次官か官房長しか知らないはずの「人事異動表」を持っているという。「送ってあげまひょか」。官僚は、卓上のファクスに送信されてくる紙を屈辱的な思いで見つめた。

明らかな左遷。電力10社でつくる業界団体、電事連の意向による”電力辞令”だった。官僚は直前に、核燃料サイクル事業の問題点を指摘する文書の作成に関わった。「国民に知らせるべきだ」と確信しての行動だったが、業界には不都合な文書に電事連は猛反発、警告を発した。「政治家は業界の味方。パーティー券を大量に処理してやっているから。派手に動くと痛い目に遭うぞ」

官僚は一蹴したが、自らの異動に直面し「まさかここまでの力とは。紙を渡したのは電事連の意向を受けた大臣だろう」と思った。別の官僚は「電力ににらまれると出世できない。監視しているなんて幻想で、電力が経産省を操っている」とぶちまける。

アメも駆使する。電事連の10社が経産省や前身の通商産業省から受け入れた天下りは過去50年で54人。電力社員を役所に出向させる。”天上がり”で労働力を提供する。東京電力は00年以降、内閣官房や文部科学省などへ23人を送り込んだ。前資源エネルギー庁長官の石田徹(58)は今年1月に批判を浴びながら東電顧問に就任、原発事故後の4月に退職した。

停止中の原発の再稼動問題をめぐり、監督官庁と業界の力関係、事故後に生じた亀裂を端的に示したのが、中部電力による経産省原子力安全・保安院の「やらせ依頼」の7月の暴露だった。

関係者によると、社長の水野明久(58)を含めた幹部は公表の是非をめぐり議論を重ねた。国と一体で進めた原子力政策に風当たりが強まる中、「もたれ合い」との批判が中部電に集中することを恐れ、保安院を”刺す”ことを選んだ。記者会見で中部電側は「保安院の依頼にもかかわらず、やらせを防止できた。コンプライアンス上、高く評価できる」と自賛した。

大規模事業の計画段階から、自然への影響調査などを事業者に義務付ける「戦略的環境影響評価(アセスメント)」をめぐる国の論議ではもっとあからさまだった。07年の指針策定時、電事連の反対で、あっさりと発電所は対象から除外された。ある官僚は「拒否権を持つみたいだ」と嘆く。

電事連の中で東電はずぬけた存在だ。西日本の電力会社社員は「中部、関西も発言力はあるが、東電は別格。東電の意思が電力の意思だ」と語る。

電事連に詰める各社東京支社の社員の仕事は、経産省よりも東電との縁を結ぶことが主。通したい意見がある場合は「会議で東電の人に『そうだね』と同意してもらえるよう、根回しすることが重要」という。
(後略)

(写真)電気事業連合会が入る経団連会館=東京・大手町

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