「利益よりも人命優先で」
「原発の是非を問う国民投票を実施すべきだ」 俳優・菅原文太
2011年9月6日 西日本新聞朝刊(1面)から抜粋
考・原発 「フクシマ」半年(1)
俳優 菅原文太氏 すがわら・ぶんた
映画「仁義なき戦い」や「トラック野郎」シリーズなどに出演。俳優業の傍ら、山梨県北杜市で農業に取り組む。仙台市出身。78歳。
NPO法人顧問として、東日本大震災の被災者に長期避難や移住のための自治体情報を提供する活動に携わる。この活動を伝える記者会見で、イタリアに倣い日本でも原発の是非を問う国民投票を実施すべきだと訴えた。芸能人が原発反対を公言するのは珍しい。
「原発を落とされていないドイツやイタリアが、福島第1原発の事故を教訓に、原発をやめると言っている。それなのに、世界で唯一原爆を落とされた日本がなぜ、原発に対してあいまいな態度のままでいるのか理解できない。原発の問題は、人命に関わることだ。過去にも、原発で働いていた人が後に放射線の影響で亡くなったと聞いたことがあるし、福島でも作業員の方が亡くなった。人命に関する情報が隠されているのではないか」
「おれだって10年も20年も前から脱原発と言ってきたわけじゃない。原子物理学をやってきた大学の先生たちが『大丈夫です』『安心です』と言ってきたのだから、一般の人がそう思うのも無理はない。国民全体がのんきだったし、多くのメディアも原発の安全神話を問題視してこなかった」
政官財が一体となって原発を推進してきた日本。発電電力量の30%を占めていた原発なしでは経済活動が停滞し、産業空洞化や生活水準低下を心配する声もある。
「原発がないと電力が不足し経済に悪影響を与えるというのは、一部の財界人や、原発によって利益を得てきた人たちによる一種の風評じゃないのか。原発がなかった時代、日本人の懐はそんなに豊かじゃなかったかもしれないが、電力が不足し、毎日停電になるなんてことはなかった。原発推進は、それで莫大な利益が上がる人たちの問題だったんじゃないの。電力会社を含めて」
「どんどん電力を消費するように仕向け、われわれ国民も言われるがままに2台目、3台目のテレビやたくさんの家電製品を買ってきた。もう、これが豊かな生活です、という掛け声に踊ることなく、電力大量消費のライフスタイルを見直す時期を迎えている」
2日の就任会見で「脱原発依存」を進めると表明した野田佳彦首相。しかし原発ゼロを目指すのか、肝心の部分はあいまいだ。
「おれだって、今すぐ全部の原発を止めろとは言っていない。どうしても原発に頼らざるを得ないのであれば当面はやむを得ない。ただ、政治家は、いつまでに原発をやめるのか、それに代わる自然エネルギーをどう育てるか、その際にどんな支障が予想されるのかをはっきり示すべきだ。そうすれば、国民も納得するはずだ。なぜはっきり言わないのか。裏に、何か利害があるのではないか、と疑いたくなる」
「新しい閣僚からも、原発はない方がいいですよね、その方向に行きましょう、というあいまいな言葉しか聞こえない。この体質を改めないと、同じことが繰り返されるのではないか。『喉元過ぎれば』なんて、のんきなことを言ってられる事態じゃないよな」