原子力学会:「脱原発依存」 専攻の学生にも広がる
(毎日新聞 2011年9月23日10時35分)
将来の日本の原子力産業や研究をリードすることが期待される原子力専攻の学生にも、「脱原発依存」が広がっていることが分かった。北九州市で19~22日に開かれた日本原子力学会に参加した学生に毎日新聞がアンケートしたところ、原子力政策について「原発への依存度を下げていくべきだ」と考えている割合が半数近くで、原発推進を望む学生を上回った。
アンケートは、同学会に参加した230人の学生から無作為に選んだ50人に聞き取りなどで実施。「東京電力福島第1原発事故を受け、今後の原発をどうすべきか」の問いに対しては「時間かけ原発への依存度を下げるべきだ」との答えが24人で最多。「現状維持か増設」は21人、「その他」は5人だった。「なるべく早く全廃」はいなかった。
「依存度の低減」を選んだ理由としては「再生可能エネルギーの割合を増やしていくべきだ」との意見が多かった。大阪大の男子学生(修士2年)は「原発新設は住民の理解を得るのが難しい」と指摘する。
これに対し、東京大の女子学生(修士1年)は「古い原発は減らすべきだが、より安全な新しい炉に代えるべきだ」と現状維持を支持。京都大の男子学生(修士2年)は「原子力関係の企業に内定したので維持の方がありがたい」と語った。維持もしくは増設を望む学生は、経済水準の維持や資源の乏しさを重視した。
進路についても質問。1割強の学生が原子力業界(産業界・学界)への就職や進学を見直すなど、事故の影響がうかがえた。澤田隆・同学会副会長(三菱重工業)は、「一時的に原発に逆風が吹いている状況を反映していると思う」と述べた。【比嘉洋、阿部周一、西嶋正法】
◇学会、人材確保に危機感
日本原子力学会に参加した学生の多くは、地球温暖化対策の一環として原発の評価が高まった「原子力ルネサンス」と呼ばれる00年代後半に原子力を専攻した世代だ。しかし、原発事故は学生たちの考え方を少なからず変え、学会側も人材確保の面で危機感を募らせている。今後、原発の数が減っていくことになっても、放射性廃棄物の処理や除染、廃炉などの専門家の需要はむしろ高まるからだ。
学生50人を対象にしたアンケートでは、6人が「進路を変更する」と答えた。九州大の男子学生(修士2年)は「授業では『安全』と繰り返し教えられてきたので失望した」と異業種への就職を決めた。学会では学生同士が原子力の将来を話し合うセッションもあり、「原子力に携わるモチベーションが保てない」といった不安の声が相次いだ。
一方で31人は「原子力業界に進む気持ちは変わらない」と回答した。学会の教育担当理事を務める百々(どど)隆・日本原子力技術協会専務理事は「既に専攻している学生より、これから専攻する学生をどう確保するかが問題になるだろう」と指摘する。学会には、学生たちの信頼を得るためにも、安全性を強調する従来の姿勢を改め、リスクに関する正確な情報を発信する努力が求められる。【比嘉洋】
毎日新聞 2011年9月23日 10時35分(最終更新 9月23日 10時46分)