米国で医療被ばくを減らす動き CT検査被ばく線量を記録

世界でも突出して多い日本の医療被ばくを低減するために活動している高木学校の医療被ばく問題研究グループが、米国での「低線量被ばく」を少なくしようとする動きを紹介しています。

CT検査被ばく線量を記録して加算 – 米国の大病院ではじまる
(2009年10月17日 高木学校)

 2009年10月6日付けワシントンポスト記事より抜粋

米国最大の国立病院であるNIH臨床センターでは、今年8月から患者がCT検査を受けた場合に、その被ばく線量を記録するようにした。NIHセンターは米国の病院(数としては少ないが)及び全米の外来患者画像センターと協力してCT検査が行われると自動的に線量データが患者のカルテに転送されるようにする。

ハーバード大学医学部の関連病院であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院では来年から病院で行われる全てのCT検査及び過去22年間に行われた検査の線量を患者の記録に残す。その結果、CT検査のオーダーが出される毎にファイルから過去に行われた検査の回数、それによるがんのリスクが打ち出されるようになる。

ニューヨークのコロンビア大学医学センターでなされ、2007年に、New England Journal of Medicineに発表された研究(1)によると、米国のがん患者の2%はCT検査からの被ばくによると推定している。

米国におけるCT検査の急速な増加には驚くべきものがある。1980年に300万件であった検査は2008年には6,200万件にものぼっている。

米国放射線学校議長、マサチューセツ一般病院の放射線科医長のThrall J.H.は多くの病院が画像検査のデータを自動的に患者記録に送れるようになるのは数年先になるだろうと述べている。その間、線量を心配する患者は,患者自身とその家族の情報すなわち検査の種類、検査の日付、検査の場所をウェブからダウンロードできるカードが利用できる。しかし、このカードは子供の情報を知りたい親のために作られたにもかかわらず、大人に対してのみ有効だという。

CT機器からでる線量はそれぞれ異なり、また患者のサイズによっても吸収される線量は異なる。しかし、ジョージワシントン大学病院放射線科医長のZeman R.は、検査のタイプがわかればだいたいの線量がわかるので、患者は医師ないしは技師に線量を記録してもらうよう薦めている。

低線量でも繰り返し検査を受ければ線量は加算されるため、記録をつけることが大切なのだとThrallは言う。例えば抜歯をするときに、口腔外科医が記録を見て歯科X線撮影が最近行われていることを知れば、もう一度撮影することを避けることもあり得るだろう。

ワシントン病院センター放射線科医長のJelinekは一般の人々に画像診断の記録と情報を記録し、家族でお互いにそのデータを知っておくよう助言している。そうすればもし誰かが診療を受けるときとか救急室に入ったときにその記録を持って行くことができる。

CT検査は結果を非常に早く得られるので、特に救急室で使用頻度が高まっている。しかし、もし以前に何回かCT検査を受けていれば、本人も家族もCTが最良の選択肢かどうか考えるだろう。“もし医師があなたの命は結果が迅速に得られるCT検査次第であると言ったとしても、CTに替わるものを選びなさい”とZemanは言う。

【紹介者コメント】

 このニュースはこれまで高木学校が放射線検査を受けた場合に「市民版医療被ばく記録手帳」に線量を記録すように広めてきた活動と一致する。これを医療被ばくが日本の1/4である米国(2)で、大病院が医療者の側から率先してシステマティックにやり始めたのだ。

放射線被ばくは低線量であっても線量に応じたリスクがあり、それが蓄積するため、検査を受けるたびに線量を記録して加算し、その積算線量に基づいてリスクを推定する。これは当然のことであるのに日本の医療界は、認めようとしない。

 権利意識が米国ほど高くない日本では、患者が線量を聞いて記録するのはとても敷居が高い作業である。検査をオーダーする側がこれを記録し積算線量を知り、リスクを考えれば、MRIや超音波など放射線を使わない検査方法を選択することも可能である。日本の病院でも是非このような制度を採用して欲しい。(崎山比早子)

参考文献:
 米国における医療被ばくの実態に付いては「医療被ばくは職業被ばくの年間制限線量をも上回る」を参照。

1)Brenner DJ et al. Computed tomography – An increasing source of radiation exposure. The New England Jpounal of Medicine, 357, 2277-2284 2007.
2) Berrington A.G. & Darby S. Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimate for the UK and 14 other countries. The Lancet, 363, 345-351, 2004.



医療被ばくは職業被ばくの年間制限線量をも上回るから抜粋
(2009年10月06日 高木学校)

 米国の医学雑誌、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)にFazel R.等による「低線量電離放射線による医療被ばく」(1)と題する論文が発表され、2009年8月26日付のNew York Timesにも紹介された。

 米国では電離放射線を使う画像診断の増加によって、一般大衆の低線量被ばくが増えている。その線量を調べるために米国の代表的な保険会社5社で2005年から2007年の3年間に画像診断を受けた18歳から64歳までの952,420人についての蓄積実効線量を、性別、年齢別に推定した。

 この3年の調査期間中に655,613人(68.8%)は少なくとも1回の被ばくを伴う画像診断を受けていた。これを年齢別に見ると18歳から34歳まででは49.5%であるのに対し60歳から65歳まででは85.9%であった。

被ばく線量別に見ると、中程度の被ばく(年間3mSv~20mSv)を受けているのは1000人あたり193.8人、高い線量(20mSv~50mSv)は1000人当たり18.6人、非常に高い線量(>50mSv)は1000人あたり9人であり、平均値は一人あたり年間2.4mSvとなる。

この結果を米国の18歳から64歳までの人口に当てはめると、約400万人が年間20mSv を超える被ばくをしていることになる。職業被ばくの年間被ばく線量限度は、1年間に50mSvを超えず、5年間で100mSvを超えてはならないと決められている。この基準と比べると医療被ばくの大きさが理解できる。

 この論文自体ではこの被ばくによって何人ががんになるのか推定はしていない。しかし、ニューヨークタイムスによると、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のRedberg R. 教授は数万人ががんになると計算している。

画像解析方法別被ばく線量と全被ばく線量に占める割合

 参考までにこの論文で採用した検査毎の実効線量の表を示しておく。
画像撮影20種類について被ばく線量と全被ばく線量に占める割合を方法毎に示したのが表である。心筋環流画像のみで全体の被ばく線量の22%を占め、腹部、骨盤、胸のCTでは約38%を占めている。CTと核医学検査を合わせると頻度としては21%であるが、線量は全体の75.4%に昇る。単純撮影は頻度では71.4%であるが線量にすると僅か10.6%となる。

注意すべきは年間 20mSvを超える被ばくを受けている50歳以下の割合は男性で30%、女性で40%に達するということである。これは若年者や女性の方が,がんリスクが高いことを考えると注意を要する。

 米国のある健康保険会社の調査によると、CTの使用ががんのリスクを高めることを知っていたのは、放射線科医の50%以下、緊急治療室の医師の9%以下であった。医療被ばくを低減するためにはリスクに対する教育が必要であると結論している。

【紹介者コメント】

 この論文に示された調査結果は限られた保険会社に入っている人を対象にしている。映画「シッコ」によると米国では保険に入れる人は経済的に恵まれている階層であり、保険が効くことによって医師も高額な検査を薦める傾向にあるという。従って、この論文に示す結果が必ずしもそのまま全米に敷衍できるとは限らないし、実行線量は個別に測ったわけではなく、平均的な値を使用したものであるので、正確とはいえないかもしれない。それでもこのような調査が行われることは、医療被ばくの現状を捕らえるために必要である。

 2004年にイギリスの医学雑誌The Lancetに掲載されたBerrington A等の論文(2)によればCT検査の線量を加味した米国の医療被ばくは日本の約1/4以下である。2004年の段階でも世界にあるCT機器の1/3が日本に集中しており、日本人の医療被ばく線量は突出して多かった。

 論文が発表されてショックを受けた日本の医療界の対応は、どのように被ばくを減らすかという議論には向かわず、「低線量は害がない、安心です」と市民を説得する努力に向けられたし、その傾向は今も変わっていない。そのため、Berrington等の論文発表以後医療被ばくは増えこそすれ減ってはいないと想像される。

あれから5年以上、CTやマンモグラフィーの台数が増加したと考えられる今、日本人の医療被ばくはどの程度になっているのだろうか?日本でこそ、この論文のような調査が強く望まれるのである。(崎山比早子)

文献:
1) Fazel Reza et al. Exposure to low-dose ionizing radiation from medical imaging procedures. The New England Journal of Medicine, 361, 849-857, 2009.
2) Berrington A.G. & Darby S. Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimate for the UK and 14 other countries. The Lancet, 363, 345-351, 2004.

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