「100ミリシーベルト以下の被曝量なら安心」はウソ

近藤誠・慶大医学部講師 「100ミリシーベルト以下の被曝量なら安心」 は ウソっぱち!(2011年4月7日 日刊ゲンダイ)

専門家なら「低線量被曝でも発がんの可能性あり」と明言すべき

 福島第1原発事故に関し、マスコミに登場する放射線専門家は安全を強調するが、本当なのか?日刊ゲンダイ本紙で「やっぱり、がんと闘うな!」を連載中の慶応大学医学部講師(放射線治療科)の近藤誠氏は、「ウソやごまかしが多すぎる」と断じる。

● 数百万人が低線量被曝すれば、数万人ががん死するかもしれない
 私はどんな患者さんにも、がん告知をします。患者さんは事実を知ったうえで、その後の行動を選択する自由があるからです。
 人心を安定させるため、政治家は時に事実を隠すことがあるのでしょうが、それは医師や科学者の“仕事”ではありません。
 そんな私が“これはひどい”と思うのは「1年間の被曝(ひばく)量100ミリシーベルト(mSv)以下なら安全」という放射線専門家たちの発言です。
 これはまったくのウソっぱちです。

 たとえ原子力推進派であっても専門家ならせめて「100mSv以上の被曝と発がんは明確な相関関係にあるが、100mSv以下の低線量被曝のデータは少なく、いまのところ発がんリスクはゼロでなく、正確に分からない」と言うべきです。

 放射線による健康被害は、被曝後数週間以内に症状が表れる「急性障害」と、数カ月あるいは数十年先に表れる「晩発性障害」があります。
 低線量被曝による健康被害は、「晩発性障害」を引き起こしやすく、短期の追跡調査では表れにくい。しかも、線量計で被曝線量を測定する人はまずいないので、データはほとんどありません。だからといって安全というのはウソです。

そもそも100mSv以下の低線量被曝による発がんリスクには、2つの有力な仮説があります。すなわち、(1)被曝線量が100mSv以下だと発がんリスクはほとんどないが、それを超えると急上昇する「しきい値仮説」、(2)100mSv以下でも被曝線量と発がんリスクが増大する「直線仮説」です。

 (1)は放射線の毒性を軽く見せたい原発やがんCT検診の推進派が、(2)はその反対派や中間派がそれぞれ支持してきました。ところが、いまは国際的に権威のある、米国科学アカデミーの委員会(BEIR)や国際放射線防護委員会(ICRP)らが支持するなど、「直線仮説」が有力です。米国は1950年から広島や長崎の被爆者9万人(近距離被爆者5万人、遠距離被爆者4万人)と非被爆者3万人を対象に寿命調査をしていますが、1980年代に入り、低線量被曝であってもがんになる確率が高くなることが分かったからです。

 しかも05年に英国の有力医学雑誌に掲載された15カ国の原発労働者40万人を追跡調査したリポートでは、50mSv以下の被曝線量であっても発がんリスクが高まると報告されたのです。
 それでも「しきい値仮説」を支持する人は、「人間には放射線被曝による傷を治す能力がある」「低被曝は細胞を刺激し、かえって健康になる」などと主張しますが、それを信じる専門家は少数です。放射線の専門家は当然、こうした事実を知っています。「低線量被曝でも発がんの危険性はある」と明言すべきなのです。

 なかには低線量被曝の危険を認めながらも、「100人の死者のうち被曝によるがん死が1人増える程度」と、被害を軽く見せようと発言する放射線の専門家がいます。しかし、低線量の被曝者が数百万人に上ると、数万人ががん死するかもしれないのです。いまこそ、放射線の専門家は低線量被曝のリスクを明らかにし、しっかりした対策を講じるべきではないでしょうか?


「人体への影響100ミリシーベルトが目安」「喫煙や飲酒のほうが心配」 東大放射線科・中川恵一准教授
「広島・長崎のデータでも、100ミリシーベルト以下で発がんが増えたというデータはない」

ウクライナ「年間1ミリシーベルト以下」 山下教授「100ミリまで安全」


内部被ばく 生涯3ミリシーベルト考
(10/23 東京新聞こちら特報部)

 福島県が20日に発表した県民の内部被ばく調査で、双葉町の4~7歳の男児2人の被ばく線量が生涯で3ミリシーベルトと推定されるとされた。

県は「健康に影響が及ぶ数値ではない」と説明。だが、男児がどこでどのように被ばくしたのかなど重要な情報は伏せたままだ。「生涯に3ミリシーベルト」という耳慣れない数字は、本当に安全を意味するかという疑問も残る。(小国智宏、小倉貞俊)

 県の内部被ばく調査は、計画的避難区域など比較的線量の高い13市町村の住民を対象に、6月27日から始まった。

9月30日までに検査した4463人のうち、
男児2人が3ミリシーベルト、
2ミリシーベルトが8人、
1ミリシーベルトが6人。
残りの4447人が1ミリシーベルト未満だった。

 各市町村が子どもや妊婦を優先に抽出し、順次、検査を行っている。

 放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構で、内部被ばくの検査機器ホールボディーカウンター(WBC)を使って行う。

体内に残存しているセシウム137とセシウム134を測定。生涯被ばく量は、福島第一1号機が水素爆発した3月12日に1回で体内に取り込んだと仮定して、成人で50年間、子どもで70歳までの間の累積線量に換算して算出する。

 ただ、8歳未満の子どもはセシウムを体外に排出するのが大人より早いため、今後は検出されない可能性がある。この場合は、3月12日に行動をともにしていた大人の測定値をもとに推定するという。

 生涯の被ばく線量をめぐっては、内閣府の食品安全委員会が7月下旬、外部被ばくと内部被ばくを合わせ規制値を「累積被ばく線量100ミリシーベルト」とする評価案をまとめている。

 県地域医療課は「生涯で3ミリシーベルトという値は、この規制値100ミリシーベルトと比べてもかなり低い。検査機関からも健康には影響は及ばないとの回答を得ている」と説明する。

 だが『放射線規制値のウソ』(緑風出版)を著した九州大の長山淳哉准教授は、「そもそも100ミリシーベルトという数値がうなずけない。発がんなどには、『これ以下ならがんにならない』というしきい値はなく、リスクは存在する」と強調する。

 また「3ミリシーベルトはあくまでも現時点で計った値から推定していることを忘れてはいけない。食品などによる内部被ばくは今も続いており、汚染が長引けばどんどん蓄積されることになる」と話す。

 食品安全委は10月中にも厚労省に最終的な評価結果を答申し、食品の新たな規制値作りへの議論が始まる。長山氏は「牛肉などでは1キロ当たり500ベクレルとなっている今の暫定規制値を10分の1以下にすることで、生涯被ばく線量を減らさなければならない」と力を込める。

 内部被ばくに詳しい沢田昭二名古屋大名誉教授も「3ミリシーベルトという数字だけで安心と判断するのは早計だ」と指摘する。

 WBCはガンマ線しか検出できない。「セシウム137はベータ崩壊するが、この際に放出されるベータ線は検出することができない。ガンマ線よりもベータ線の方が射程が短いため、絶えず近くの遺伝子に当たり傷つけやすい」という。

 「WBCで測定した値には、半減期が短いヨウ素や検出されないベータ線の影響が考慮されていない。これでは科学的に被ばく量を見ることはできない。当時の行動なども含めた総合的で丁寧な判断が大事だ」とする。「継続的に検査をするなど長期にわたって健康管理を続けるべきだ。がんや甲状腺異常などの疾患も早期に発見できれば、治癒する確率が高くなる」

 「そもそも生涯被ばく線量を算出すること自体が疑問だ」と話すのは、矢ケ崎克馬・琉球大名誉教授だ。

 矢ケ崎氏は半減期が8日と短いヨウ素の影響について危惧する。チェルノブイリ事故では、ヨウ素が原因とみられる子どもの甲状腺の病気が事故後5、6年後から急増していた。

 「ヨウ素による遺伝子の損壊などは表面に出てこない。いわば正確ではない検査で『安全だ』と訴えるのは、市民への目くらましではないか

 実際に長野県松本市の認定NPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」と信州大病院が福島県内の子ども130人を対象に実施した健康調査では、甲状腺ホルモンが基準値を下回るなど10人の甲状腺機能に変化が見られた

 ところで、生涯の年間被ばく線量を、ベクレル(放射能の強さや量を表す単位)に換算するとどうなるのだろうか。

 福島県地域医療課によると、国際放射線防護委員会(ICRP)の報告に基づき、年齢ごとに係数で変換している。

 今回の検査で3ミリシーベルトと推定された男児を7歳児と仮定して換算してみると、セシウム134、137を合わせて1260ベクレルになるという。7歳児の平均体重(24キロ)で割ると、1キロ当たり52ベクレルとなる計算だ。

 ところが、この値に首をひねるのは、NPO法人「チェルノブイリへのかけはし」の野呂美加代表だ。野呂氏は約20年にわたり、チェルノブイリ原発事故で被ばくしたベラルーシなどの子どもの支援活動に取り組んでいる。

 野呂氏はWBCで彼らの被ばく状態を計ってきたといい、「体重1キロ当たり20~50ベクレルなら何らかの病気の前段階がみられ、50ベクレルを超えたら発症するケースがほとんどだった。今回の値は健康に影響がないのだろうか」と心配する。

 今回の福島県の検査について「シーベルトに変換することで、危険性を感じにくい人も多いのでは。影響を少なく見せているわけではないのなら、分かりやすいデータを示してほしい」と訴えた。

 また「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」の辺見妙子さんは「内部被ばくは、線量の問題ではないと思う。わずかな線量であっても、絶えず遺伝子が傷つけられていると思うと、安心できない」と不安を口にした。


社説:食品の放射能 説明と測定を徹底せよ
(毎日新聞 2011年10月29日 2時30分)

 食品から受ける内部被ばくの影響を検討してきた食品安全委員会が、評価書をまとめ厚生労働省に答申した。「自然放射線などを除いた生涯の累積線量が、おおよそ100ミリシーベルトを超えると健康に影響がある」という内容だ。

 この評価を基に厚労省が食品ごとの新たな規制値を決めるが、わかりにくいのはこの100ミリシーベルトの位置づけだ。

 7月に評価案が示された時には、「外部被ばくと内部被ばくを合わせた線量」と説明された。ところが、答申では「食品から受ける内部被ばく」に限定された。

 では、外部被ばくが高くても食品の基準は100ミリシーベルトなのか、それともその分低いのか。食品安全委は「厚労省などしかるべき管理機関が考えること」として判断を避けた。

 食品安全委の使命は食品のリスク評価をすることだという理屈だが、1人の人は内部被ばくと外部被ばくの影響をあわせて受ける。知りたいのは全体の影響だ。政府は、こうした縦割りをやめ、被ばく全体のリスク評価をすべきではないか

 現在の食品の規制値は放射性セシウムによる被ばく線量の上限を年5ミリシーベルトとしている。これはあくまで事故直後の暫定値であり、厚労省はより厳しい新基準を早急に決める必要がある。その際には、国民が納得できるよう、外部被ばくや100ミリシーベルト以下の影響まで含めた基準値の根拠についてよく説明してもらいたい

 答申は、子どもの方が放射線に対する感受性が大人より高い可能性があることも指摘した。食品の規制値を大人と子どもで分けることは現実的ではなく、子どもに合わせた規制が必要になる。

 ただ、規制値が新たに決まっても、実際に食品からどれだけ被ばくしているかがわからなければ、消費者の不安は解消されない。国や自治体が実施しているサンプル調査だけでは不十分だ

 健康を守り、不安やストレスを減らすために、もっときめ細かい測定を進めてほしい。今後、生物濃縮によって魚介類などの汚染が新たにわかってくる可能性もあり、幅広く実施すべきだ。

 東大の早野龍五教授は実際に子どもたちが食べる給食1食分の放射性セシウムの量を測り数値を毎日公表することを提案している。同大の児玉龍彦教授は米袋などをそのまま測るベルトコンベヤー式の計測機器による全品検査を提案している。流通業界や市民が食品を独自に計測する動きも出てきている。

 政府や自治体にはこうした動きも後押ししてもらいたい。このままでは、たとえ現実の線量が低くても、消費者の不安は収まらない

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