今、読み返したい記事 『IPPNW「チェルノブイリ健康被害」新報告と、首相官邸資料「チェルノブイリ事故との比較」との驚くべき相違 』

今、読み返したい記事です。

IPPNW「チェルノブイリ健康被害」新報告と、首相官邸資料「チェルノブイリ事故との比較」との驚くべき相違
(Peace Philosophy Centre Monday, April 18, 2011)

松崎道幸「福島とチェルノブイリの原発事故の比較に関する首相官邸ホームページ専門家グループ解説の医学的疑問点」も併せてお読みください。)

IPPNW(核戦争防止国際医師会議―1985年ノーベル平和賞受賞)のドイツ支部がまとめたチェルノブイリ原発事故25年の研究調査報告が4月8日に発表されました。英語サイトはここです。 レポートのリンクはここです。論文の中でも特に重要である、5~11ページの「論文要旨」、「WHOとIAEAにより発表された公式データの信頼性欠如に関する注記事項」、「核戦争防止国際医師会議と放射線防護協会は要請する」の和訳をここに紹介します。チェルノブイリ事故25年、その人体と環境に対する夥しい被害の全容がこの研究により明らかになっています。そして、首相官邸のホームページで公開された、日本政府のチェルノブイリ事故への見解がこういった最新の見解と大きく相違することを指摘します。

論文要旨

「原子力産業はチェルノブイリ並みの破局を毎年繰り返す恐れがある」
ハンス・ブリックス(1986年、IAEA国際原子力機関当時事務局長)

この論文はチェルノブイリの惨事にもたらされた健康被害で妥当と思われる指摘を含んでいる研究論文を評価しています。この論文の著者たちは、方法論的に正確であり、理解可能な分析を選ぶことに重点を置きました。すでに述べた方法論的な困難があるので、この論文の目的は、明らかに間違っているIAEAの統計と対比して「正しい」統計を示すことではありません。「正しい」統計など見つけるのは無理だからです。これらの研究結果は、私たちがチェルノブイリの健康被害を論じるときに、どれぐらい幅広く多様な健康被害を扱わなければいけないかという指標を提供することしかできないのです。

チェルノブイリの惨事により特に放射線に被ばくした集団は、

a.事故後除染に関わった人たち(除染作業労働者liquidators, 「リクビダートル」と呼ばれる)83万人(ヤブロコフ、2010年)

b.30キロ圏と他地域で高度な汚染があった場所から避難した人たち 35万4千人(ヤブロコフ、2010年)

c.ロシア、ベラルーシ、ウクライナの高放射線地域の人々 830万人(ヤブロコフ、2010年)

d.ヨーロッパ全土の比較的低度の被ばくをした人たち 6億人(フェアリー、2007年)

チェルノブイリによる追加被ばくの結果として予想される病気、健康被害として

a.ガン。ただし、多くのガンは25~30年の潜伏期があることを注記しなければいけない。今のところ、甲状腺ガン、乳ガン、脳腫瘍しか見られていない。しかし除染作業労働者たちは他のさまざまな臓器にもガンを発生させている:前立腺ガン、胃がん、血液のガン、甲状腺ガン。

b.先天性異常:奇形、死産、子どもの数の減少。

c.癌性でない病気。多くの臓器が影響を受ける:脳障害、老化の加速、心理的障害。

研究結果要旨

1. 低レベル放射線(0~500 mSv)の影響は体系的に監視、調査された。特に、遺伝的影響はチェルノブイリ以前には不明確であった。この研究は、細胞ならびに細胞内の分子構造に関する研究によって補強されている。にもかかわらず、ICRPは100 mSv を胎児の奇形をおこす限界線量として規定し続けている。この主張は多くの研究で無効性が明らかになっている。

2.遺伝子の不安定性や巻き添え効果(放射線に直接影響されていない細胞の遺伝子の変化)などの予期せぬ影響が見いだされた。

3. 放射線レベルが低いほど、癌の急激な増加が起きる前の潜伏期間が長くなる(2000年までにPierce と Prestonにより放射線影響研究所RERF 研究の中で確認された)。

4. 遺伝子の不安定性は遺伝子により受け継がれ、世代を経るごとにねずみ算式に増加してゆく。除染作業労働者と放射線被ばくのない女性の間に生まれた子どもたちの染色体異常を示す多くの研究結果が、被害を受けた3つ全ての共和国の研究センター(モスクワ、ミンスク、キエフ)で入手できる。蓄積効果の最初の兆候は、被曝した親から生まれた子供に発生する甲状腺癌であろう。しかしながら、これはまだ確実とはいえない。

5. 癌以外の疾患の発症が増加していることが見出された。それは主に心臓血管系と胃の疾患であり、神経・精神疾患の症例は低線量被曝の身体的影響であることが見いだされた。後者は主として除染作業労働者とその子供たちの研究において見いだされた。

6.ロシア当局の調査によると、除染作業労働者のうち90%は病気になっている。すなわち、少なくとも74万人が重い病気にかかっている。彼らは老化が早く、平均より多くの数々のガン、白血病、身体上、そして神経・精神的な病気を患っている。多くの人が白内障になった。潜伏期間が長いため、今後、ガンの発生率が高くなると予想される。

7.独立した研究によると、11万2千人から12万5千人の除染作業労働者が2005年までに死亡している。

8.現存する(複数の)調査によると、チェルノブイリによる乳児の死亡は約5千である。

9. 遺伝的および催奇形障害(奇形の発生)も、直接の被害を受けた3国にとどまらずヨーロッパ諸国でも著しく増加した。バイエルン州だけでも、チェルノブイリ後になって先天的奇形が1000から3000人増加したことが見出された。恐らく、ヨーロッパで1万人以上の重篤な奇形が放射能によって起こされた可能性がある。チェルノブイリ事故の結果として西ヨーロッパで10万から20万件の妊娠中絶があったとIAEAが結論づけているが、報告に上らない症例の推定数はさらに多い。

10.UNSCEAR(国連原子放射線影響科学委員会)によると、チェルノブイリ近辺で1万2千人から8万3千人の子どもが先天奇形を持って生れており、世界全体では3万人から20万7千人の遺伝子障害を持った子が生まれている。予測される被害全体のうち10%のみが、被ばく一世代目に見られる。

11.チェルノブイリ事故後、ヨーロッパで死産や奇形が増えただけでなく、女児と男児の胎芽の比率が変わってきている。1986年以降、生まれてくる女子の数が男子に比べ有為的に少ない。

Kristina Voigt とHagen Scherbの論文によると、1968以降の統計で、チェルノブイリ以降、ヨーロッパで生まれて来る子どもの数が予測に比べて80万人も少ない。この論文では全ての国を対象にしていなかったため、 チェルノブイリ以降「生まれてこなかった」子どもの数は約100万人と、Scherb は予測している。大気圏核実験後もこのような影響が見られた。

12.ベラルーシだけでも、事故以降1万2千人以上が甲状腺ガンを患っている(Pavel Bespalchuck, 2007)。WHOの予測では、ベラルーシのゴメリ地域だけで、5万人の子どもたちが生存中に甲状腺ガンを患うであろうということである。全部の年齢集団を合わせたら、ゴメリ地域だけで10万の甲状腺ガンという計算になる。

13. ベラルーシとウクライナで調査された甲状腺癌の症例に基づいて、Malko (2007)は将来の発症数を推定し、これに放射線の因子を加算した。彼の計算では1986年から2056年までの間に92,627人が甲状腺癌になる。この計算は除染作業労働者の甲状腺癌を含んでいない。

14.チェルノブイリ以降、1976年から2006年までの推移の中で、チェルノブイリ以降、スエーデン、フィンランド、ノルウェイの新生児死亡率は15.8%増加している。Alfred Korblein の計算では、1987年から1992年の間に、新生児死亡は1209人増加している(95%信頼区間:875人から1556人)。

15. ドイツでは、チェルノブイリ事故直後の9ヶ月間に、新生児の染色体異常であるトリソミー21(ダウン症候群)に著しい増加があったことを科学者たちは見出した。この傾向は特に西ベルリンと南ドイツで顕著であった。

16.Orlov と Shaversky は、ウクライナの3歳以下の子どもたちの間で、脳腫瘍が188例見られたと報告した。チェルノブイリ以前(1981から1985)では9例だった―1年平均にしてみてると2例にもならない。1986年から2002年の間に179人が脳腫瘍の診断を受けている?1年平均で10人以上である。

17. 南ドイツのより強く汚染された地域では、神経芽細胞腫と呼ばれる非常にまれな型の腫瘍を発症した子供の特異な集団が見出された。

18. ウクライナのチェルノブイリ省によって発表された論文は、各種疾患症例の何倍もの増加を記録した。1987年から1992年で、内分泌系の疾患は25倍、神経系6倍、循環器系44倍、消化器60倍、皮膚および皮下50倍、筋骨格系および精神的変調53倍であった。避難者の内健康な人の数は1987年から1996年の間に59%から18%にまで低下した。汚染地域の集団では52%から21%に、そして特に悲惨なのは、高レベルの放射線に曝された親から生まれた子供たちで、チェルノブイリ事故からの放射性降下物の直接の影響は受けていないにもかかわらず、健康な子供の比率は81%だったものが1996年には30%に低下した。

19.数年間、タイプ1糖尿病(インシュリンに依存する糖尿病)が子どもと青年層に急激に増えた。

20.白血病やガンといった目立つ症例よりも、癌性ではない疾病数がはるかに上回っている。

チェルノブイリ地域における被災者全体の健康状態の変化の全貌は、残念ながら現在に至るまで確実に総括されていない。北半球の全住民にとってこの惨事が何であったのか総括されていないことはいうまでもない。この論文で言及した数値は、一面では恐ろしく高く、別の面ではかなり低く見えるかも知れない。しかしここに集められた研究のほぼ全てが比較的少人数の集団を対象にしたものであったことを考慮しなければならない。発症率にほんのわずかな変化があったとしても、より多人数の集団に当てはめた場合、それは広範囲に及ぶ深刻な健康被害の前兆であるかも知れない。

結論

大規模で独立した長期にわたる研究がなされていないので現在の状況の全体像を示すことはできないが、いくつかの傾向を指摘することができる。高い放射線レベルに曝されたリクビダートルのような人々の間では、高い死亡率とほぼ100 %の罹患率が見られる。原子炉の事故から25年後になって、癌その他の疾患が、長い潜伏期間のせいで、事故直後には想像もできなかった規模で発生した。

癌以外の疾病の発症数は、以前に想像されていたよりもずっと劇的なものである。除染作業労働者の早期の老化のような「新しい」症状は、研究では未だに答えを出すことができない疑問を呈している。

2050年までに、さらに何千もの患者がチェルノブイリ原子力事故の影響として診断されることだろう。原因と、顕在化した身体症状との間には長い時間差があるので、油断はできない。チェルノブイリは終わっていない。

特に悲惨なのは、死産したり、幼くして死んだり、奇形や遺伝病を持って生まれたり、通常ならば決して発症することのない病気を抱えながら生きることを余儀なくされた、何千人もの子供たちの運命である。

チェルノブイリによって起こされた遺伝的欠陥は全世界を今後長期間にわたり苦しめ続けるだろう。多くの影響は、二世・三世の世代にならないと明らかにならないだろう。

健康被害の程度は未だに明らかではないとしても、福島の原子力事故によってもたらされる苦難は、同等の規模であり、将来的にも同様の展開となることは予測できる。

(翻訳 酒井泰幸、乗松聡子)

WHO と IAEAにより発表された公式データの信頼性欠如に関する注記事項 (報告8ページ)

国際原子力機関(IAEA)と世界保健機関(WHO)により2005年9月に組織された「国連チェルノブイリ・フォーラム」 において、発表されたチェルノブイリの影響に関する研究結果は、きわめて首尾一貫性の無いものだった。たとえば、WHO と IAEAの報道発表は、最も深刻な影響を受ける集団では、癌と白血病により今後最大4000人が死亡する可能性があるとしている。しかしながら、この論文の根拠としたWHO の報告では、実際の死者数を8,930としている。これら死者数はどの新聞記事にも取り上げられることはなかった。WHO 報告書の引用元を調べると、癌と白血病による死者数の増加として1万~2万5千人という数字に行き当たる。

 これが本当ならば、IAEAと WHOの公式声明はデータを改ざんしていると合理的に結論づけることができる。IAEAと WHOによるチェルノブイリの影響に関する説明は実際に起こっていることとはほとんど無関係である。

 チェルノブイリ・フォーラム もまた、「原子放射線による影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)でさえも旧ソ連以外のヨーロッパ地域での合計線量(放射線障害の一般的尺度)はチェルノブイリ地域での対応するデータよりも高いと推定したことを考慮に入れていない。核惨事からの合計線量は、その53%がヨーロッパに、36% がソ連の被災地域に、8% がアジアに、2 %がアフリカに、0.3%がアメリカに、それぞれ飛散し分布した。

 S. Pflugbeil は、報道発表と、WHO 報告書、その引用元(Cardis ら)の間に不一致があったことを、2005年に既に指摘した。現在まで、チェルノブイリ ・フォーラムと、IAEA、WHO のいずれも、自らの団体の分析結果が、癌 と 白血病による死者数が公式発表した数より2?5倍も多くなる可能性があるなどとは、一般に知らせるべきではないと考えている,

 およそ5年が過ぎて2011年になっても、どの 国連機関もこれらの数値を訂正していない。チェルノブイリの健康被害に関する最新の UNSCEAR 出版物は、チェルノブイリの影響に関して被害を受けた3カ国で発表された多数の研究結果をどれ一つ反映していない。小児と若年者の甲状腺 癌、除染作業労働者の白血病と白内障が6,000 例あったことだけが、最新情報として報道発表に唯一追加された数字である。そして、2011年に UNSCEAR 委員会は以下のように宣言した。「以前の UNSCEAR 報告書も含む過去20年の研究を元に、チェルノブイリ 事故の影響で深刻な健康リスクが発生することを大多数の人々が恐れる理由は何もないと、UNSCEARは結論づけた。唯一の例外が、小児期あるいは若年期に放射性ヨウ素に被曝した人々と、高い線量の放射線に被曝した結果より高い放射線起因のリスクを算定しなければならない除染作業労働者である。」(翻訳 酒井泰幸)

核戦争防止国際医師会議と放射線防護学会は要請する(報告10?11ページ)

1. 西側諸国政府と国際原子力機関(IAEA)は、チェルノブイリ地域の事故の影響に関するデータを収集中である。彼らは、放射線被ばくの影響を解明するために病人を利用しておきながら、この全ての想像をはるかに超越する規模の大災害の犠牲者に医療的援助をほとんど提供していない。医師として、この事態を許すことはできない。

したがって、われわれは、ドイツ連邦政府および他の欧州諸国政府と国連に対して、チェルノブイリ地域の被ばく者に有効かつ長期的な援助の実行を求める。

2. チェルノブイリ惨害の経過とその後の長期的な健康影響に関する基本的重要データは公にされていない。西側諸国でも東側諸国でも秘密扱いとされている。このことによりチェルノブイリ事故の影響を公平かつ科学的に解明することが極めて困難となっている。IAEAなど核開発を是とする国連の諸機関は、科学的妥当性の疑われる手法でチェルノブイリのデータを不適切に利用し、この惨害の影響を出来るだけ少なく見せかける企てを進めている。科学的見地からこのような事態は許し難い。

したがって、われわれは、ドイツ連邦政府ならびに他のヨーロッパ諸国の政府、国連に対し、科学者と諸団体ならびにこの問題に関心を持つ市民がチェルノブイリの惨害に関するデータに自由にアクセスすることを認めるべきであると要請する。

さらに、われわれは、ドイツ連邦政府ならびに他のヨーロッパ諸国の政府、国連が、原爆被爆者に関する広島研究にならい、チェルノブイリ事故の健康影響の推移に関する広範な疫学的比較調査を継続するよう要請する。その際には、乳幼児期、小児期および出生前にチェルノブイリ事故に遭遇した集団に特別の注意を払った調査を行う必要がある。

3. チェルノブイリの惨害、米国ハリスバーグの原子炉(訳注:スリーマイル島原発事故のこと)における炉心溶融、そして特に今回の福島の原発惨害(current nuclear catastrophe in Fukushima)、およびこれまでに東西世界で起きた事故寸前の多数のトラブルは、いつでもどこでも重大な原子炉事故が発生する危険があることを示している。

原子力発電に依存する多くの国々は人口密度が高い。例えば日本の人口密度はチェルノブイリ地域の15倍である。福島事故の健康被害の大きさは、その大災害の進展経過に左右される。数年あるいは数十年経たなければ被害の全貌は明らかにならないだろう。もしドイツのビブリスの原子力発電所で大事故が起きたなら、ライン・マイン地方の人口密度が高いことにより、人的、経済的被害はチェルノブイリより一桁大きいものとなるだろう。核エネルギーの利用は、基本的に無責任で償いようのない行為であると言える。

したがって、われわれは、ドイツ連邦政府ならびに他のヨーロッパ諸国の政府に対し、出来るだけ速やかにすべての原子力発電所の閉鎖を実行するよう要請する。

さらに、IAEAはその憲章で核エネルギー利用の推進をうたっている。(訳注:IAEA憲章第2条(目的):[IAEA]は、全世界における平和、保健及び繁栄に対する原子力の貢献を促進し、及び増大するように努力しなければならない)しかしながら、福島の核災害が発生した今、IAEAは、その設立目的を見直すことを真剣に考慮すべきである。

電離放射線の健康影響に関して、WHOは1959年にIAEAと締結した拘束力のある取決め*を廃棄すべきである。WHOの第一の目的は人々の健康でなければならない。

*訳注:IAEAの合意なしにはWHOが核の健康被害についての研究結果等を発表できないとする世界保健総会決議12?40に対する批判については下記参照https://en.wikipedia.org/wiki/World_Health_Organization#IAEA_-_Agreement_WHA_12-40 

「真実を知らぬ者はただ愚かなだけだが、
真実を知っているのにそれを偽りだと声高に叫ぶのは罪である」
ブレヒト著「ガリレオ・ガリレイ」より

(翻訳 松崎道幸)

以上で、IPPNWレポート5?11ページの訳を終えます。翻訳にご協力いただいた酒井さんと松崎さんに感謝いたします。

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次に、首相官邸のホームページにあった「チェルノブイリ事故との比較」を見てください(下に引用)。これによると、チェルノブイリ事故で放射線が原因で亡くなったとされる数は、28名の作業員と、小児甲状腺ガンで15名だけ、合計43名のみです。この人たちと、6000人の小児甲状腺ガン以外は放射線被害はなし、としています。官邸資料が言う「20年目のWHO,IAEAなど8つの国際機関と被害を受けた3共和国の合同発表」とは、「チェルノブイリフォーラム」のことです。対象集団が60万人しかなく、過小評価と批判されるこの報告でさえ、「放射線被ばくにともなう死者の数は、将来ガンで亡くなる人を含めて4000人である」と言っているのです。この報告に準拠していることになっているこの官邸の資料はそれに触れていません。そしてこの「フォーラム」報告自体が、それが準拠しているWHOの報告の内容と矛盾しているというのが上記のWHO,IAEA公式データ「信頼性欠如」の注記で指摘されています。

2006年のWHO報告では死者は9千件(対象集団は740万人)、IARC(国際ガン研究機関)論文では1万6千件(対象集団はヨーロッパ全域5.7億人)と報告されています。(参照:京大・今中哲二論文「チェルノブイリ事故による死者の数」)他にも多数公的・民間機関の研究結果はありますが、ここでは、数ある研究の中でも被害を低く見積もっているといわれる公的機関の研究結果の重要部分でさえ、官邸資料は無視しているということを強調しておきます。また、この官邸資料は英語に翻訳して、国際社会に対し「これが日本の見解である」と発表する予定があるのかを問いたいです。

また、このサイトの「原発問題ビデオ集」(このページの上部からリンク)と、「必見 チェルノブイリ被害」で、チェルノブイリ関連のビデオ(日本語字幕つき)を紹介しているのでご覧ください。

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以下、官邸ホームページより。(4月23日追記:当初掲載されたものと、その後、脚注をつけて差し替えられたもの両方を引用します。)

チェルノブイリ事故との比較
https://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html 
平成23年4月15日

チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど8つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表し、25年目の今年は国連科学委員会がまとめを発表した。これらの国際機関の発表と福島原発事故を比較する。

原発内で被ばくした方
*チェルノブイリでは、134名の急性放射線傷害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。
*福島では、原発作業者に急性放射線傷害はゼロ、あるいは、足の皮膚障害が1名。

事故後、清掃作業に従事した方
*チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。
*福島では、この部分はまだ該当者なし。

周辺住民
*チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル/キログラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、問題ない。

*福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。

一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかである。

長瀧重信 長崎大学名誉教授
    (元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)
佐々木康人(社)日本アイソトープ協会 常務理事
     (前 放射線医学総合研究所 理事長)

(4月23日追記:いつ更新されたか不明ですが上記官邸資料が差し替えられています。更新版を下に貼り付けます)

チェルノブイリ事故との比較

平成23年4月15日

チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど8つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表(注1)し、25年目の今年は国連科学委員会がまとめを発表(注2)した。これらの国際機関の発表と福島原発事故を比較する。

原発内で被ばくした方
*チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。
*福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ(注3)。

事故後、清掃作業に従事した方
*チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。
*福島では、この部分はまだ該当者なし。

周辺住民
*チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10?20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル/キログラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、問題ない。

*福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。

一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかである。

長瀧 重信 長崎大学名誉教授
    (元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)
佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事
     (前 放射線医学総合研究所 理事長)
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原典は以下の通り。
[注1]. Health effect of the Chernobyl accident : an overview Fact sheet303 April 2006 (2006年公表)
https://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html 

[注2]. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATION UNSCEAR 2008 Report: Sources, Report to the General Assembly Scientific Annexes VOLUME? Scientific Annex D HEALTH EFFECTS DUE TO RADIATION FROM THE CHERNOBYL ACCIDENT ?. GENERAL CONCLUSIONS (2008年原題/2011年公表) P64?
https://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf 

[注3]. (独)放射線医学総合研究所プレスリリース「3月24日に被ばくした作業員が経過観察で放医研を受診」2011.4.11
https://www.nirs.go.jp/data/pdf/110411.pdf 

(官邸資料更新版引用おわり)

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