発育不全は、チェルノブイリでも起きている。チェルノブイリでは、「原子力村」の人々が「ストレス」などの心理的要因を過大評価し、放射線の被ばくを過小評価してきた。福島での出来事も「ストレス」だけが原因と決めつけない方がいいだろう。
園児の体重の増え方 4分の1に
(11月7日 19時40分 動画あり NHK)
福島県郡山市の幼稚園児240人余りについて、ことし6月までの1年間の体重の増え方を調べたところ、去年の同じ年齢層の4分の1程度にとどまっていたことが分かり、調査した小児科医は「原発事故で外遊びができず、食事の量が減るなどしたのではないか」として、追跡調査の必要性を指摘しています。
郡山市の小児科医、菊池信太郎医師は、市内の2つの幼稚園の4歳児と5歳児のクラスに通う245人の体重の増え方を調べました。その結果、ことし6月までの1年間に増加した体重は平均で0.81キロで、去年、同じ年齢層で測定した増加幅、平均3.1キロの26%にとどまったことが分かりました。このうち、5歳児クラスの体重増加の平均は0.84キロで、厚生労働省が去年、全国で行った発育調査の平均の1.8キロを大きく下回っていました。菊池医師によりますと、調査は原発事故の3か月後のものですが、幼稚園でも家庭でも外遊びができない状況が続き、ほかに要因が見当たらないことから、事故が影響して、体重の増加幅の減少につながった可能性があるということです。菊池医師は「外遊びができずに運動量が減り、食欲がわかなくなって食事の量が減ったり、我慢を強いられる生活にストレスを感じ、成長ホルモンの分泌に変化が起きたりしたのではないか。一時的なものであれば回復すると考えられるが、成長の停滞が長引かないよう、追跡調査を行って対策を講じるべきだ」と指摘しています。また、幼稚園の赤沼順子主任教諭は、「子どもたちは一見元気そうですが、ストレスを心の奥に押し込めて、実は、体は悲鳴を上げているということかと思いました。子どもたちが思い切り遊べるような場を地域に作ってほしいです」と話していました。子どもの発育や発達に詳しい、山梨大学教育人間科学部の中村和彦教授は、「事故から3か月の期間であっても、子どもたちの発育への影響は大きいと思う。幼少期には体の運動能力と認知的な能力、それに情緒や社会性といった能力が互いに関わりあいながら成長している。このため、体重の停滞が長く続くと、体の発育だけでなく機能の発達にも影響が出るおそれがある。さらに詳しいデータを集めて現状を分析し、子どもたちにどんな環境を整えればいいのか、早急に検討すべきだ」と話しています。
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『チェルノブイリ 大惨事が人と環境に与えた影響』から抜粋
(筆頭著者アレクセイ・V・ヤブロコフ博士)
9. 事故から23年後のチェルノブイリ汚染区域の住民(特に子ども)にみられる健康状態の低下は、心理的ストレスや放射線恐怖症によるものでも、再定住によるものでもなく、ほとんどが主として被ばくによるものである。1986年の強烈な第一波のあとも、低線量・低線量率の放射線から慢性的に被ばくし続けているのである。
10. 心理的要因(「放射線恐怖症」)が決定要因だったことは断じてあり得ない。事故後の数年間、放射能への懸念が薄れる一方で、疾病率は上がり続けたのである。それに、同じような健康障害が現れ、突然変異率も上がった野ネズミ、ツバメ、カエル、松の木の放射線恐怖症はどのくらいだったというのだろうか。疑問の余地はない。しかし社会的・経済的要因は確かに放射能に侵された人々を切迫している。病気、子どもの奇形や障害、家族や友人の死、住居や大事な財産の喪失、失業、転居は金銭的・精神的に深刻なストレスとなっている。
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周辺住民の急性放射線障害とさまざまな情報から抜粋
アラ・ヤロシンスカヤ
ヤロシンスカヤ・チャリティ基金(ロシア)
被災地住民の健康状態から抜粋
キエフの小学校1年生583人の子供たちを検査したところ,1982年に比べて1992年には身体の発育が著しく遅れていることがわかった.発育不全は女子の方により多く見られた.
レポートはまた,1980-1985年と1986-1991年の期間におけるチェルノブイリ原発ゾーンに隣接するウクライナ住民のガン死率を分析し,乳腺,泌尿器系および前立腺ガンによる死亡が明らかに増加していることを確認している.
ゴメリ州ブラーギン,ホイニキ,およびナローヴリャの各地区における902人の子供たちの検査では,218人が貧血症と診断された.貧血の子供たちのうち,第1度の甲状腺腫が女子の68.3%と男子の52.6%,第2度の甲状腺腫がそれぞれ24%と18.2%,第3度が子供全体の1.4%に認められた.汚染管理地域の子供たちには,血液と造血器,内分泌系,呼吸器系,消化器系の疾患,および腫瘍の増加が見られた.
チェルノブイリの核爆発から11年が経過した.しかし,地球上で起きた人類最悪の事故から数週間あるいは数カ月間に,汚染地域の住民が受けた実際の被曝量に関して,いまだ人々は信頼すべき情報を得ていない.まずなによりも,原子力に関与している世界の科学者集団,あるいはそれに準ずる集団が,この問題に責任を負うべきであるが,彼らは現在,世界の政治的組織に奉仕しており,真実を明らかにしようとしない.この真実を明らかにすれば,世界のエネルギーシステムにおける原子力の役割に,根本的な変化をもたらすだろう.これまでは,全世界の人々の利益より「金袋」つまり核ロビーの利益の方が優先されてきたことが明らかになった.しかしながら,いつまでもそうであっていいのだろうか.