◆45年で10兆円投入 核燃サイクル事業めどなく
(2012年1月5日 東京新聞)
原発から出る使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」事業に、この45年間で少なくとも10兆円が投じられたことが本紙の調べで分かった。税金や電気料金として支払ったお金が、関連施設の建設費や研究費に使われてきたが、事業が軌道に乗るめどは立っていない。計画の延期を繰り返しても、国策として進めてきたことから費用が膨れ上がった。国は総費用を集計していない。
福島第一原発事故を受け、政府はエネルギー・環境会議でエネルギー政策の見直しを進めている。今夏、方向性を決める予定だが、今後も膨大な費用が見込まれる核燃料サイクルを続けるのかどうかが大きな焦点だ。
本紙は、経済産業、文部科学両省や電力事業者などへの取材により、高速増殖炉の開発が国家プロジェクトに指定された1966年からこれまでの間、核燃料サイクルに投じられた金額を集計した。その結果、判明分だけで累計9兆9900億円余に上った。低レベル放射性廃棄物の処分など使用済み核燃料を再利用する、しないにかかわらず、必要になるとみられる費用は除いている。
核燃料サイクルで使うプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料の製造費用は「非公表」(東京電力)のため、集計に含まない。過去の金額は現在の貨幣価値に換算しておらず、これらの点も考慮すると、実質的な事業費はさらに膨らむことになる。
両省が投じた予算の主な財源は、電気料金に上乗せされる電源開発促進税。電力会社が払った資金の大半も、原資は同税とは別に電気料金に上乗せされ、いずれも消費者が間接的に負担している。核燃料サイクルをめぐっては、国が主に負担してきた高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の建設費などで1兆円、電力会社が負担してきた再処理工場(青森県六ケ所村)の建設費で2兆円の計3兆円が事業総額であるかのような印象を与えてきた。
しかし、このほかにも電力会社は使用済み核燃料を再処理する費用として、電気料金に上乗せする形で既に2兆4400億円を積み立て。再処理後に出る高レベル放射性廃棄物の処分費用8200億円の積み立てや、高速増殖炉の研究費6400億円など、関連費用も膨大な額に上る。内閣府原子力委員会の事務局は「核燃料サイクルの事業費の累計について、これまで聞かれたことがないので集計していない」と説明している。
◆核燃料サイクル 金食い虫 悪循環
(2012年1月5日 東京新聞)
核燃料の再利用によって、資源の少ない日本がエネルギーの自給自足を目指してきた核燃料サイクル事業。半世紀にわたり、10兆円という途方もない資金がつぎ込まれてきたことが本紙の集計で判明した。実用化にはほど遠いのが現状で、これまでのお金はあきらめるのか、さらにいばらの道を歩むのか。そろそろ決断する時期といえそうだ。(原発取材班)
*二つの輪
核燃料サイクルには二つの輪がある。「プルサーマル」と呼ばれる通常の原発を起点とする輪と、高速増殖炉を起点とする輪だ。この事業が本来的に目指したのは、より核燃料を有効活用できるとされる高速増殖炉の輪だ。原発ではまず、ウラン濃縮工場でつくったウラン燃料を使う。使った後の使用済み核燃料は再処理工場に運ばれ、再利用できるプルトニウムとウランを取り出す。
取り出したプルトニウムとウランは、別の工場に運ばれ、混合して新たな核燃料に生まれ変わる。これがMOX燃料で、貴重なウランを節約できるとされている。ただし、日本では、MOX燃料工場も再処理工場も完成していない。日本は海外に再処理やMOX燃料の製造を委託している。その意味では、二つの輪は完成どころか、まだ点と点にすぎない。
*計画遅れ
高速増殖炉を中心とする核燃料サイクルの開発計画は半世紀以上前、日本に原発が導入されるのとほぼ同時に始まった。1956年に原子力委員会が初めて作った原子力利用開発長期計画(現在の原子力政策大綱)には、すでに核燃料サイクルの推進がうたわれている。日本初の商業用原発となる東海原発が着工される4年前のことだ。高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)は運転開始が94年。原子力委の当初計画から20年近く遅れた。建設費は原子炉の設置許可が出た段階で約四千億円だったが、電力会社などの負担を含め5800億円余りに膨らんだ。
本格的な再処理工場は93年、青森県六ヶ所村で建設が始まる。当初は建設費が7600億円とされたが、国から再処理事業の指定を受けた後の96年には、1兆8800億円に膨らむ。建設はトラブル続きで、現在の建設費は2兆1900億円と、当初予定の3倍に上っている。もんじゅはナトリウム漏れ事故もあり、この17年間でわずか250日間しか運転できていない。再処理工場も完成時期の延期を繰り返し、本格運転は今年中の予定だ。
*膨らむ費用
二つの輪のごく一部のため10兆円がかかった。当然、輪を完成させようとすれば、さらなる費用が必要だ。「もんじゅ」は研究開発段階の高速増殖炉で、次の実証炉をどうするかという研究が続いてきた。だが、もんじゅより大型になるため、建設費はさらに膨らむ。建設場所も未定だ。実用化は実証炉の先の段階。2050年ごろの予定だが、どれくらい先になるかわからないのが現状だ。
そもそももんじゅ自体、止まっていても年間175億円の維持費(来年度の政府予算案)がかかる。再処理工場では、プルトニウムとウランを取り出した後に、極めて強い放射線を出す核のゴミ、高レベル放射性廃棄物が出る。これは六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで一時貯蔵した後、最終処分場で長期間にわたり保管するが、最終処分場の場所も未定だ。六ヶ所村の再処理工場では、試験的に通常の原発で使うプルトニウムを取り出しているが、高速増殖炉用の取り出しはできない。専用の再処理工場が必要になる。MOX燃料工場も別に必要になるが、なんら具体化していない。
一方、他の先進国では技術的な問題と開発費用高騰により、撤退が相次いでいる。
高速増殖炉の開発が進んでいたフランスは、原型炉より進んだ実証炉を86年に完成させたが、トラブルが相次ぎ98年に閉鎖を決定。米国も実験炉を建設したが、90年代までにほぼ開発が止まった。英、ドイツでも高速増殖炉計画を中止している。