がれき防潮堤で溝 宮城県、慎重姿勢 県議会は推進議連
(2012年06月12日 河北新報)
東日本大震災で発生したがれきを防潮堤整備に活用する「いのちを守る森の防潮堤」構想をめぐり、宮城県議会と県の温度差が目立ってきた。議員連盟を結成し、全会一致で推進する議会に対し、県は法規制などを理由に慎重姿勢を崩さない。構想が動きだせば、がれき処理の工程や広域処理の行方にも影響を及ぼすだけに、15日開会の6月定例会では論戦の焦点に浮上しそうだ。
「時間的にも法的にも制約があり、(実現は)物理的に不可能だ」
村井嘉浩知事は11日、同構想の実現に厳しい認識を示した。発言の相手は、がれきの受け入れ検討のため県庁を訪れた北橋健治北九州市長。「魅力的な構想だが、議論はどの程度進んでいるのか」という問いに答えた。
村井知事は廃棄物処理法で木質がれきの埋め立てが禁じられていることや、構想実現には法改正が必要で2013年度末の処理期限に間に合わなくなる点を指摘した。
村井知事はこの日の定例記者会見でも「県の独断で進められない。国と話し合いを進めなければならない」と慎重な言い回しに終始した。
知事と市長の会談の約1時間後、議連は県議会棟で、構想に賛同する県選出国会議員との意見交換会を開いた。会合では県側の対応をいぶかる意見が続出。「そもそも、なぜ県は広域処理にこだわるのか」など県方針への異論が相次いだ。
議連の相沢光哉会長(自民党・県民会議)は「がれき量の精査の結果、がれきは県内でも十分処理できる量になった。国に広域処理を依頼した手前、後に引けないのだろう」と推し量った。
議連も引くに引けない状況にある。5月下旬には岩沼市で実証実験に着手。当日は1000人のボランティアが参加し、苗6000本を植えた。
この日の会合では「構想を進めるよう県に求める」とし、6月定例会で県の対応をただしていく姿勢をあらためて打ち出した。
2012年06月12日火曜日
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みやぎ・この人に聞きたい:宮脇昭さん /宮城
(毎日新聞 2012年06月10日 地方版)
◇宮脇昭さん(84)
東日本大震災で発生した災害廃棄物(がれき)などを混ぜた盛り土に植樹して造る「森の防潮堤」構想に賛同する県議会の全59議員が、超党派による推進議員連盟を発足させた。構想はがれきの有効な処理方法の一つになり得るのか。構想を提唱する植物生態学者の宮脇昭・横浜国立大名誉教授(84)に聞いた。【聞き手・影山哲也】
◇Q なぜ「森の防潮堤」を提唱?
◇A がれき焼かず資源に活用
−−県議会が議連を発足させた背景には県内や広域での焼却処理が思うように進まない危機感があります。
◆一番困ってらっしゃるのは現場の被災者の皆さん。がれきはエコロジカルな地球資源なんです。環境省は「焼かなきゃいけない」と言っているけど、亡くなった方の思い出や生き残った方の生活のすべてが残っている。それを安易に焼くんじゃなしに、使えるものは使う。これまでの松にこだわらず、土地本来のタブノキやシイの木などの苗をそこに植える。3年たったら管理はいらない。
あと2、3年たったらがれきは焼かれてしまうので、今すぐやらなきゃ駄目です。
−−木質がれきを埋めた場合、メタンガス発生や陥没の危険性も指摘されていますが。
◆幅100メートル、高さ22メートル、南北300キロの防潮堤を造れば、がれきは全体の4・8%にしかならないんですよ。土と混ぜて同じようにやれば、陥没するとの指摘はバカなことです。木質が大事で、これは栄養のかたまりですから。
−−木質の方が埋め立てに適していると。
◆有機肥料ですから、森を作るのに最高ではないでしょうか。木質の資源がゆっくり分解され、隙間(すきま)ができて、根から酸素が入る。もし危ないと思うなら、やりながら考えてください。やりもしないで、過去の法律・条例にこだわって引き算ばかり。やめてほしい。
−−防潮堤は国土交通省、防災林は農林水産省、がれきは環境省。所管が3省にまたがっています。どう突破しますか。
◆新しいことはトップダウンじゃないとできない。部下に任せると縦割りの中で自分のことしか考えないから。今こそトップの先見性や決断力や実行力が問われる時代。危機はチャンスなんです。日本の官僚機構は素晴らしかったけれども、危機には機能しない。トップが自分の責任において総合的に判断すべきです。
−−3月に細川護熙元首相とともに野田佳彦首相と会い、構想の推進を要請しました。
◆細川元首相とは熊本県知事時代に森を作る運動をやっていたんですよ。電話をかけたら「協力する」と言ってくれました。私は野田首相に「消費税でがたがたしている、そんなことは5年、10年で終わってしまうけど、命を守る森は今の首相や知事にしかできないんですよ」と言いました。首相は「すぐやる」とはおっしゃらなかったけど、十分ご理解いただいたかと思います。だんだんと前向きに動き出しています。県や仙台市の主導でこの仙台平野で一つ例を作り、全東北の海岸に広げたいです。
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◆聞いて一言
◇「焼却は愚策」が印象的
がれきを「資源」ととらえる宮脇氏が、プラントを新たに建設しての焼却処理を「愚策」と切って捨てていたのが印象的だった。
がれきに関しては、細野豪志環境相が仙台平野で埋め立て・再利用して防災林を整備する方針を示している。ただ、主に埋め立てに使うのはコンクリート片で、宮脇氏が主張する木質系については、細かく砕いてチップ状にして使う方針だ。木質系の利用を拡大できるのか、宮脇氏らの今後の活動を注視したい。
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■人物略歴
◇みやわき・あきら
1928年、岡山県生まれ。横浜国立大名誉教授。地球環境戦略研究機関国際生態学センター長。国内外でその土地本来の樹種を使った独自の方法による森作りを指導している。