原発再稼動 「これほど政治と国民がかけ離れた民主国家はない」

「こんな民主国家はない」
(2012年6月17日 西日本新聞 政治’12考)

官邸前や経済産業省前で毎日のように繰り返される再稼動反対を訴える人たちの集会。ノーベル賞作家の大江健三郎さんは15日に600万人以上の署名を添えて官邸に出向き、再稼動反対の意思を伝えた。市民だけではない。与党民主党の100人を超える国会議員も、再稼動に慎重な判断を求めている。

それでも野田佳彦首相は16日に再稼動を決断した。実際は、ずっと前から決めていた。「これほど政治と国民の望みが懸け離れた民主国家は、世界のどの時代にもない」。経済評論家の内橋克人さんは激しく憤る。

政府内には、脱原発の訴えを「ただの感情論」と切り捨てる向きもある。しかし福島第1原発事故を目の当たりにし、避難誘導や情報発信で全くあてにならなかった政府の対応を見て、「自分にも起こり得る現実的なリスク」と考える人たちがいるのは当然だ。国民の安心安全を守るのは、政府の責務のはずだ。

福島事故から時間がたつにつれ、経済界を中心に「原発ゼロでは火力発電所の燃料費がかさんで電気料金上昇し、企業の国外移転など産業空洞化が進む」などと経済の視点で再稼動を求める声が強くなってきた。福井県の西川一誠知事も16日の野田首相との面談で「(原発は)地場産業の柱」と語るなど、立地自治体にとって地方財政や地元雇用など地域経済への危機感が再稼動容認の本質といえる。

政府はこうした経済的側面からの要求に応える形で、目先の再稼動を急いだ。それどころか、8日の記者会見で野田首相は「国の重要課題であるエネルギー安全保障という視点から原発は重要な電源」と踏み込み、福島事故後に決めた「脱原発依存」の旗印さえも揺らいでいる。

「(原子力ムラは)半年や1年では壊れない」。枝野幸男経産相はこう語る。地域、制度、経済社会と、この国のありとあらゆる所に毛細管のように張りめぐらされた原発の経済的恩恵や利権。その力をそぎ、社会構造の転換を図るには、大きな胆力と知恵がいるのは確かで、民主党政権はその壁の前にたじろいでいるように見える。国家存続の危機に陥る可能性すらあった福島事故から何も学ばない政府に多くの市民は失望し、この国の民主主義に疑問を抱き始めている。
(吉田賢治)


大飯原発が再稼働へ 私たちの望む未来は
(2012年6月17日 中日新聞社説)

 政府は、大飯原発3、4号機の再稼働を決めた。だが、私たちは日本の未来をあきらめない。原発に頼らない社会を目指そう。節電の夏にも挑もう。

 「福井県の決断に感謝したい」と、野田佳彦首相は言った。まさか、危険を背負い続けてくれることへの感謝ではあるまい。

 東日本大震災のあと、私たちはこの国を変えようとしてきたはずである。何よりも命を貴び、災害に強い地域をつくる。そのために私たち一人一人も変わろうとしてきたはずだ。

安全の根拠はどこに

 原発の再稼働を、このような形で今許すのは、間違いだ。新しい日本が遠ざかってしまう。

 第一に、福島の事故原因がわかっていない。まだ誰も責任を取っていない。誰もきちんと謝ってはいない。そういうあいまいさの中での再稼働なのだ。

 政府はまるでピンポンのように、「責任」というボールを地元に投げ付けて、最終的には、野田首相、枝野幸男経済産業相ら関係閣僚の協議で決めた。

 最後が政治判断というのは、間違いではない。だが、それには大方の国民が納得できる科学的根拠が欠かせない。

 政治判断のそもそもの根拠にされた安全基準は、経産省の原子力安全・保安院がたった二日で作った即席だ。福島第一原発事故の張本人で、間もなく解体される予定の保安院が作った安全基準を、国民として信じられるはずもない。新たな原子力規制機関の設置法は、まだ成立していない。原発の安全をはかる物差しが、今この国には存在しないのだ。

 ところが、関西電力が一方的に主張する「この夏14・9%の電力不足」という予測だけを前提に、流れ作業のように再稼働へと判断が進んでいった。

 非常時の指揮所になる免震棟と放射性物質のフィルターがついたベント(排気)設備は、それぞれ四年後、防潮堤のかさ上げは二年後にしか完成しない。地表がずれて原子炉を損傷させる恐れがあると専門家が指摘する、原発直下の断層に至っては、再調査の予定もないという。

 後ずさりする政治をよそに、私たちは、今も変わろうと願っている。政府がなすべきことは、綿密な節電計画を立てて、国民によく説明し、協力を求めることだったのではないだろうか。私たちは喜んで受け入れた。

世界はグリーン経済へ

 太陽光パネルや家庭用燃料電池を取り付ける家が増えている。装いは涼しく、エアコンは、ほどほどに。打ち水をし、風鈴を軒に下げてみるのもいい。際限なき電力依存から抜け出そう。

 モニターの数字を見ながら、ゲーム感覚で節電を楽しむ家庭も増えた。

 多くの企業は、直接の経費節減につながり、ビジネスチャンスの宝庫でもある省エネへの取り組みをやめるはずがない。

 二十日からブラジル・リオデジャネイロで始まる「国連持続可能な開発会議」もテーマに掲げたように、世界の潮流は、省エネ、省資源のグリーン経済だ。

 経済の繁栄は、原発ではなく持続可能性の上に立つ。技術立国日本こそ、グリーン経済移行の先頭に躍り出るべきなのだ。

 そのためには、原発の寿命を最大でも四十年と厳しく定め、この間に風力や太陽光、太陽熱の効率利用に磨きをかける。

 移行期間は水力や火力でつなぐ。クリーン・コール(有害排出物の少ない石炭燃焼)技術などを駆使した小規模な発電所を、可能な限り地域に分散配置して、高度な通信技術で需給の管理を図るエネルギーの地産地消が望ましい。

 廃熱を利用し、蓄電技術に磨きをかけ、国内に豊富な地熱や森林(バイオマス)などの資源も、もっと活用すべきである。

 日本経済の未来をひらいてくれるのは、原発ではなく、積み上げてきた省エネ技術なのである。

 国民は原発の立地地域にも、深い理解を寄せている。原発の危険と隣り合わせに生きてきた地元の痛みを感じている。

 原発マネーが支える暮らしは永続しない。電力への依存をお互いに改めて、この国全体の体質改善を目指したい。

なし崩しは許さない

 大飯原発3、4号機は、動きだす。しかし、例えば四国の伊方原発、北海道の泊原発と、再稼働がなし崩しに進むのを、私たちは恐れる。安全と安心は立地自治体はもちろん、日本全体が求めてやまないものだから。

 福島の教訓を教訓以上の成果にするため、私たちは立ち止まらない。福島に報いることでもある。原発推進、反対の立場を超えて、持続可能な新しい日本を築く。

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