日本全国、どんな工場でも、昔は「安全第一」が当たり前だった。いつから「経済」が「いのち」よりも優先されるようになったのか。
【大飯原発の再稼動】非常時の指揮所になる免震棟と放射性物質のフィルターがついたベント(排気)設備は、それぞれ四年後、防潮堤のかさ上げは二年後にしか完成しない。地表がずれて原子炉を損傷させる恐れがあると専門家が指摘する「原発直下の断層」に至っては、再調査の予定もない。大飯原発のアクセス道路は1本しかなく、土砂崩れなどが起き、道路が封鎖されれば孤立する恐れが高い。原発事故の際の防災重点地域も半径30キロに拡大されるが、住民の避難など防災対策はまだ立てられていない。
大飯再稼働決定 8市町「事故対応ムリ」
(2012年6月17日 東京新聞朝刊)
関西電力大飯(おおい)原発3、4号機(福井県おおい町)の半径三十キロ圏内の十市町のうち、過半数を大きく上回る8市町が原発事故への対応に不安を抱えていることが本紙の調べで分かった。十分な対策を取れるとの回答はゼロで、避難ルートや移動手段の確保など住民の避難対策が不十分なまま、政府は再稼働に踏みきった。
本紙は地元の福井県おおい町、小浜市、高浜町、美浜町、若狭町、滋賀県高島市、京都府舞鶴市、綾部市、南丹市、京丹波町を対象に書面でアンケートを実施。三十キロ圏内に一部が含まれる京都市左京区は住民がいないため対象外とした。圏内に住む住民は計十四万三千人ほど。
事故対応で、小浜市をはじめ5市3町が「対応できない」「どちらかといえばできない」と回答。「地震と原発の複合災害による避難では混乱が予想される」(高浜町)など、複数の自治体が移動手段やルート確保の難しさを理由に挙げた。
「対応できる」との回答はゼロで「どちらかといえば対応できる」と回答したのは、おおい町と京丹波町のみ。おおい町の担当者は「市町や府県をまたぐ避難が必要な場合は限界がある」とし、福島第一原発事故と同じ大規模な放射能漏れ事故では、対応は難しいとの認識を示した。
住民避難計画の策定で、おおい町以外の9市町が高齢者や入院患者の移送対策を「未定」と回答。舞鶴市は「高齢者や重症患者の避難中の健康管理が困難」と懸念を示した。
甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤の配備では、全員分を近くに備蓄していると答えたのは舞鶴市と高島市だけ。多くの市町は、県や府が準備するのを待っている状態という。
大飯原発の再稼働に伴う特別監視体制で「安全性が確保できる」と評価したのは、おおいと高浜、美浜の三町にとどまった。
福島事故を受け、国は原子力防災指針を見直し、これまで原発から半径八?十キロだった重点地域を拡大、三十キロ圏を緊急防護措置区域(UPZ)として原発事故への備えが必要としている。
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「脱原発」首長73人、大飯再稼働に抗議 政権を批判
(2012/06/19 風の便り)から抜粋
全国35都道府県の市区町村長ら73人でつくる「脱原発をめざす首長会議」は17日、関西電力大飯原発の再稼働決定に抗議する声明文を発表した。周辺自治体の住民の合意が十分に得られていない、などと指摘した。
世話人の村上達也・茨城県東海村長は「政府は脱原発依存を掲げているが、おおい町など立地自治体が転換できるような道筋を政府が示せない。どこに脱原発の安全基準やプロセスがあるのか、まったく不明。再稼働ありきの茶番劇だ」と語気を強めた。
三上元・静岡県湖西市長は「大飯原発には排気のベントや活断層への対策がゼロ。政府と関西電力は、万一原発事故が起きた時の保険をかけてから再開してほしい」
上原元国立市長は「福島の事故では想定外ということで責任を回避したが、今度事故が起きたら言い逃れができない。経済優先の決定で、命の視点が欠け落ちている」
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大飯原発が再稼働へ 私たちの望む未来は
(2012年6月17日 中日新聞)社説から抜粋
政府は、大飯原発3、4号機の再稼働を決めた。だが、私たちは日本の未来をあきらめない。原発に頼らない社会を目指そう。節電の夏にも挑もう。
東日本大震災のあと、私たちはこの国を変えようとしてきたはずである。何よりも命を貴び、災害に強い地域をつくる。そのために私たち一人一人も変わろうとしてきたはずだ。
安全の根拠はどこに
原発の再稼働を、このような形で今許すのは、間違いだ。新しい日本が遠ざかってしまう。
第一に、福島の事故原因がわかっていない。まだ誰も責任を取っていない。誰もきちんと謝ってはいない。そういうあいまいさの中での再稼働なのだ。
政治判断のそもそもの根拠にされた安全基準は、経産省の原子力安全・保安院がたった二日で作った即席だ。福島第一原発事故の張本人で、間もなく解体される予定の保安院が作った安全基準を、国民として信じられるはずもない。新たな原子力規制機関の設置法は、まだ成立していない。原発の安全をはかる物差しが、今この国には存在しないのだ。
ところが、関西電力が一方的に主張する「この夏14・9%の電力不足」という予測だけを前提に、流れ作業のように再稼働へと判断が進んでいった。
非常時の指揮所になる免震棟と放射性物質のフィルターがついたベント(排気)設備は、それぞれ四年後、防潮堤のかさ上げは二年後にしか完成しない。地表がずれて原子炉を損傷させる恐れがあると専門家が指摘する、原発直下の断層に至っては、再調査の予定もないという。