一人の力 未来は変わる 再稼働反対デモ (6月23日 東京新聞)

「民意からかけ離れた政治」と同様に「民意からかけ離れた報道」が多い中で、今、最も民意に寄り添った報道を続ける東京新聞に拍手を送りたい。

一人の力 未来は変わる 再稼働反対デモ
(2012年6月23日 07時25分 東京新聞)

 民意からかけ離れた政治に、声を上げ続ける人がいる。関西電力大飯(おおい)原発(福井県おおい町)の再稼働に抗議し、二十二日夜も大勢の人が国会周辺に集まった。今いる「ここ」から、未来は変えられる。一票という力を持つ人たちの思いを国会前で聞いた。 (比護正史、鬼木洋一)

■当事者意識で生きる アーティスト・鹿嶋 隆文さん(34)

 今までは、上から与えられた情報で生きてきた。なぜ今のような事態になったかと考えると、子どもの未来が想像できなかったから。今ならまだ間に合うかもしれないと、ここに来ました。

 東日本大震災の二日前、勤めていた東京都内のそば店を辞めました。隣近所の人の顔も知らなければ、周りの人とつながることもなかった。孤独感とストレスでいっぱいでした。

 震災から約一カ月後、原発事故による放射能への恐怖もあり、海外に逃げました。一年間、タイやオーストラリアなどを回りました。オーストラリアのある町のコミュニティーセンターは、若い人々の交流の場になっていた。地域がつながっている感じがいいなと思いました。

 もともと絵を描いていたので三月に帰国後、地元の神奈川県葉山町などでアートで町おこしをする複数の市民団体に加わりました。地域に根差して、当事者意識を持って生きようと考えたからです。

 震災後はみんな心に寂しさを抱えていた。催しを企画すると、知らなかった人々が集まって自然とつながっていきます。こういうつながりをもっと広げたいです。

■情報集め判断する 主婦・梅沢千津子さん(60)

 脱原発のデモや集会に参加するようになったのは今年四月から。事故が起きるまで興味も知識もなくて、今振り返ると、そういう自分がいやになります。自分で情報を集め、最終的に自分で判断できるようになるため、フェイスブックやツイッターを始めました。

 当初は一人でデモに行くことに抵抗感があり、ツイッターで「心細い」とつぶやいたりしていました。知らない人たちからの「大丈夫。個人で来ている人が多いから」との反応が励みになりました。

 バイオリンの趣味を生かし、八年前から福祉施設や病院などで演奏するボランティアを続けています。震災後はショックで数カ月楽器を触る気にもならなかった。やむなく人前で演奏する機会があったときに、聴いてくれた人から「元気をもらいました」と言われ、立ち直れた。

 自分でできることをと考え、NPO法人の仲介で昨年十一月、岩手県大船渡市のスーパーで相棒の女性ピアニストと演奏しました。都内に移住した岩手県大槌町の被災者と知り合いになり今秋、ミニコンサートを開く計画を進めています。

■学生と思いを共有 大学講師・筒井 史緒さん(35)

 大声を出すとか、主義主張を声高に話すのは苦手でした。でも、誰かがやってくれるだろうという人ばかりだったら何も動かない。一人でも変われば、何かが変わると信じて知人と一緒に来ました。

 帝京大学で、宗教文化論や英語を教えています。以前は授業で自分の個人的な思いを語るのは、押しつけにつながると意識的に控えていました。震災後は、教師というより一人の人間として、授業の合間に「自分はこう思うけどみんなはどう?」と、学生に投げ掛けるようにしています。

 震災と原発事故で、命には限りがあることを、あらためて思い知らされたのがきっかけです。自分も突然、命を失うかもしれない。日本だって今の状況なら、いつどうなるかも分からない。授業は学生たちと思いをシェア(共有)できる場なんだと、今は強く感じます。

 私たちは、自分では作り出せない自然に生かされてきた。それなのに使えるものは使い尽くし、勝手に変えてしまっていいんだと傲慢(ごうまん)に考え、今のような状況を招いたのではないでしょうか。

(東京新聞)

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