◆福島県 子どもの放射能 尿検査せず
秘密裏に「困難」結論?
(2012年10月25日 東京新聞 こちら特報部)から抜粋
福島原発事故を受けた県民健康管理調査で、子どもの内部被ばくを把握できる尿検査が行われていない。専門家でつくる公開の検討委員会でも検査の是非がほとんど議論されてこなかった。
ところが今月に入り事前の「秘密会」の開催が公となり、尿検査をめぐる議論の不透明さも判明。検査を求めてきた保護者らは不信を募らせている。 (中山洋子、林啓太)
「また、だまされたんだ」。伊達市の菅野美成子さん(40)が諦めきった様子でつぶやいた。今月初めに新聞報道で検討委の委員と県側が、開催前に議論をすり合わせる「秘密会」を開いていたことが発覚。事前に会議の「進行表」が配られ、検討委に”出来レース”の疑いが浮上した。
県側は秘密会について調査し、8日にまとめた報告書で、議論を深めるための「準備会」だったと強調。内密の開催が不信感を招き不適切としながらも、「発言の抑制や議論の誘導などはなく、個人情報保護などが目的だった」と結論づけた。
だが、その説明に納得する県民は少ない。事故後、内部被ばく検査を求める声に、国や県の対応は後手に回り、今回明るみに出た進行表は、公開の検討委をないがしろにして、十分な議論や説明もないままに、検査を切り捨てた姿を浮き彫りにしたからだ。
健康調査の検討委「議論ない」 親ら不信
昨年7月の第3回検討委の事前の進行表では、浪江町、飯舘村、川俣町、山木屋地区で計120人に行った内部被ばく調査の結果について、検討前から「相当に低い」とする発言予定が記載。
さらに「WBCの今後の普及とGe半導体の逼迫(ひっぱく)状況(牛肉等)を考えると、尿検査でWBCを代替えするのは困難ではないか」とあった。
WBCはホールボディーカウンターの略で、体内にある放射性セシウムから発せられるガンマ線を測る装置。じっとできない幼児は受けられず、体が小さい子どもの検査には不向きとされる。
尿検査の方が子供の被ばくを正確に測ることができるが、検査できる精度の高いGe(ゲルマニウム)半導体検出器が、牛肉などの食品検査を優先して不足しており、尿を検査するのは無理という意味だ。
当初公開されていた議事録では、第3回の検討委で山下俊一座長が「今後、尿検査をする意味はあるのか」と発言。これに答えて、放射線医学総合研究所(放医研)理事の明石真言委員が「今回の尿検査では極めて微量しか検出されなかった。検証にもう少し時間をいただきたい」と話したとされている。
第3回から検討委は公開されているが、県の調査でメモをまとめた議事録も「不適切」とされ、現在、作り直している。
明石委員の発言も修正される可能性はあるが、明石委員は取材に「1回分の尿から体内のセシウム濃度を推定すると、濃淡の差があり科学的な数値とは言えない。(尿検査は)どう転んでもあいまい。それならばWBCでいい」と説明する。
だが内部被ばくに詳しい矢ケ崎克馬琉球大名誉教授は「WBCはガンマ線のみなど内部被ばくを正しくつかむことはできない。尿検査を導入するべきだ」と異を唱える。
被ばくの切り捨て
尿検査なら検出人数は大幅増
矢ケ崎氏によると、1リットルあたりの尿からセシウムが検出された場合、体内には約150倍のセシウムがあると推定され、「尿に混じって排出されるほかに、セシウムは臓器や筋肉に蓄積される」と言う。
不透明な経緯そのものが不信感を広げている。
尿検査の導入を訴えてきた「福島老朽原発を考える会(フクロウの会)」の青木一政事務局長は「この第3回検討委の後、尿検査が議論された形跡はない。ろくな議論もないままに秘密裏に『尿検査は困難』という合意が形成されたとしたら問題。現に進行表が疑問視した尿検査は実施されていない」と批判する。
同会は昨年5月、福島市内の子ども10人から採取した尿をフランスの民間検査機関「アクロ」に送り分析。全員からセシウムが検出され、保護者らの危機感が高まった。
その後も県内外の子ども102人を検査。これまでに岩手、宮城、千葉県など幅広い範囲でセシウムが検出されている。
全身測定器不検出「でも安心できない」
前出の菅野さんも、昨年9月に当時4歳の長女の尿検査を受けた。自宅は特定避難勧奨地点に指定され、同7月に家族で同じ伊達市内の低線量地区に避難した。小学3年生の長男(9つ)を頭に子どもは3人いる。
「心配でいてもたってもいられないのに、行政は全く検査してくれなかった」と憤る。父母のネットワークに登録して駆け込んだ同会の調査で、1リットル当たり1.1~0.42ベクレルが検出された。
「事故後から4月まで横浜に避難し、食べ物にも気をつけた。たとえ放射能を吸い込んでいても、もう残っていないだろうと期待もあった。ショックで眠れなかった」
その後、長男が通う小学校でWBC検査があったが、11月に渡された結果は「検出せず」。だが「WBCでは子どもの被ばくが分からない。とても安心できる結果ではない」 尿検査の結果については「ここから歩き出せた。親が声を上げなければ、学校も行政も動いてくれない」と話す。
県内の保護者の疲弊は増す一方だという。「子どもの食べ物の心配をして、週末には他県に避難して、仕事でも抱えていたらもういっぱいいっぱい。きちんと検査をしてほしいのはどの親も同じのはず」
同会ではほかの団体と共同でゲルマニウム半導体検出器の購入を予定。来年の指導を目指す。
検出器の大半が輸入品で、1台2千万円近くに高騰するなか、安価で実用化する動きもある。放射線測定器メーカー「シンメトリックス」(茨城県つくば市)が350万円で11月にも商品化する。
ゲルマニウム半導体検出器は1~2リットルの尿を半日以上かけて計測するのに対し、同社の測定器は放射線の検出にヨウ化セシウムの結晶を使用。100ccと少ない尿を、数時間でセシウム1ベクレル単位で測定する。
野中修二社長は「被災者の方々のためにも、何としても商品化にこぎつけたい」と語る。
矢ケ崎氏は「内部被ばくの検査で一番大切なのは、たとえ少量でも被ばくしたかどうかを確認すること」と続ける。
「WBCは検出に限界があり、尿検査はWBCの40倍から50倍精度が良く、確認される人数で2桁も3桁も多い」と指摘して、こう訴える。
「より多くに、早期の予防や治療を施せる体制が大事。WBCにこだわる国や県は、潜在的な被ばく者の大半を切り捨てようとしているとしか思えない」
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◆山下俊一氏は、福島県民の健康より 国家財政を重視から抜粋
福島県放射線健康リスク管理アドバイザーを務める山下俊一氏の発言
「100ミリシーベルト以下の健康リスクは明らかには証明されていない、または非常に小さいというのが科学者の国際的合意だ」「日本という国が崩壊しないよう導きたい。チェルノブイリ事故後、ウクライナでは健康影響を巡る訴訟が多発し、補償費用が国家予算を圧迫した。そうなった時の最終的な被害者は国民だ」
ノーベル平和賞の「社会的責任を果たすための医師団」が警告
米国科学アカデミーによれば、安全な放射能の線量というものはない。過去数十年にわたる研究から、放射線はどんなに少ない線量でも、個々人の発がんリスクを高めることがはっきりと示されている。
日本で危機が続く中、人に発がんの危険が生じるのは最低100ミリシーベルト被曝したときだという報道が様々なメディアでますます多くなされるようになっている。これまでの研究で確立された知見に照らしてみると、この主張は誤りであることがわかる。100ミリシーベルトの線量を受けたときの発がんリスクは100人に1人、10ミリシーベルトでは1000人に1人、そして1ミリシーベルトでも1万人に1人である。