福島の地にとどまり続けることがどうして危険か 

福島「甲状腺検査結果」を受けて、緊急記者会見ひらかれる
(2012年9月20日 JanJanBlog 三上英次)から抜粋

 9月11日に福島県から発表になった「健康管理調査」について、19日、「ふくしま集団疎開裁判」の柳原弁護士、同裁判で意見書を書いている矢ケ崎琉球大学名誉教授らにより緊急の記者会見が行われた。そこで同弁護士らは、「最新の健康調査から見ても、福島の子どもたちの疎開は緊急の最重要課題である」「まったなしだ」と強く訴えた。

 柳原弁護士らがおこしている「ふくしま集団疎開裁判」は、「福島の子どもたちが被ばくの危険性の無い安全な場所で教育を受けられるようにすること」を求めるものだが、「福島の地にとどまり続けることがどうして危険か」について、矢ケ崎名誉教授が今年2月に仙台高裁に提出した〔意見書(4)〕で極めて明快に説明している。以下にその内容を簡単に紹介する。
      

  ◇◆◇〔意見書(4)〕で指摘される重大な事実◇◆◇

 〔意見書(4)〕が書かれたのは、今年2月29日。ここで矢ケ崎氏は、検査した約30%の子どもたちにしこりとのう胞が発見された、2012年1月25日発表の「東電福島原子炉周辺の4市町村の子どもの検査結果」をもとに意見を述べているが、その基本的なスタンスは現在も変わらない。

 同氏は、チェルノブイリ原発事故(1986)以後、ベラルーシで「おとなも子どもも事故後1年目に発がん率の増加が認められていること」を挙げて、次のように書く。

 「これらのデータからは、東電福島原発事故後に現れた甲状腺のしこりや嚢胞はこれから現れるであろう発がん等の健康被害を暗示しております。このことは、子どもの健康保護を具体的に急がなければならないことを示しているのです。特に、子どもの教育を安全な場所で展開する必要に迫られていて、すぐさまの疎開が求められることを示しています。」(同意見書P3〕

 今回(9月11日福島県発表)、3回目の検査として42000人の子どもたちのうち43%もの高率で甲状腺に「しこり」や「のう胞」が見つかったことを考えると、上記矢ケ崎氏の訴えはまったく杞憂ではない。そうではなく、同氏の懸念がますます現実的になっていることを今回発表の検査結果は示している。

 〔意見書(4)〕の中でも、矢ケ崎氏は、しこりやのう胞について「原発の影響とみられる異常ではない」とする意見に反論している。同氏があげるひとつの反論材料は、「甲状腺ガンは、ベラルーシではチェルノブイリ原発事故以前は10万人に0.1人(すなわち100万人に1人)であるのに対して、事故後はチェルノブイリ周辺では、1000人中に10人以上の規模で、子どもの甲状腺がんが観測されている」という事実である。(同意見書P6)

 矢ケ崎氏によれば、日本では、子どもの甲状腺にどの程度の割合で、結節(しこり)やのう胞が現れるかは、まだ統計的なデータはないという。しかし、だからと言って、福島でのいくつかの症例は、「安心していれる状態」とは言い難く、むしろ「子どもの健康管理にとって、大きな警鐘を鳴らしていると見るべき」と同名誉教授は説く。(同上)

 同意見書P10に載せられたチェルノブイリでの甲状腺がん発生統計表を見れば、福島の子どもたちが置かれている危機的状況は素人(しろうと)でもわかるはずだ。

 その統計表は、1986年チェルノブイリ事故の前後8年ずつのチェルノブイリ近郊での甲状腺発がん数をまとめたものだ。それによれば、子どもの甲状腺がんの発生件数は、1986年に2件、1987年に4件、以後5件(1988)、7件(1989)と微増していくが、事故後4年で「29件」と激増する。そして、その後も59件(1991)、66件(1992)、79件(1993)、82件(1994)と増加はとどまるところを知らないかのようである。

 そして、この事実は、文科省前の集会で、井戸弁護士が甲状腺異常を安全視する意見に対して述べた次の言葉とぴたりと符合する。

 「この『チェルノブイリ事故でさえ…最短で4年』というのは、大ウソです。正確には、『チェルノブイリで急激に増加し始めたのが4年後』であって、チェルノブイリでも翌年から子どもたちの甲状腺の異常は見つかっているのです」
     

  ◇◆◇記者会見での矢ケ崎氏の訴え◇◆◇

 19日の会見で、上記意見書の内容もふまえた上で、「被ばくに関する科学」が「真理探究の内実をもって執行されていない」つまり、「被ばくが生命に対してどのような影響があるか、どういう害悪をもたらすか」が明らかにされてこなかったと、矢ケ崎氏は過去をふりかえる。

 「被ばくに関する科学がきちんとしていれば、原発関連企業が徹底的に打撃を受けるのです。国際的にも、ICRPが長く内部被ばくを研究させないというようなことをやって来ました。歴史的に見て、いかに内部被ばくの被害に関する研究が隠されてきたかということです。今でも、被ばくからいのちを守らなければいけないというグループが少数派になっているのです。被ばくについては色々と議論の分かれるところですが、その議論が、いのちを守ろうとする人たちによるものか、あるいは核推進の立場にある者の言動かを、判断の基礎に置いてほしいです。」

 「たとえ年間1ミリシーベルトを基準にするとしても、これは人体に安全であるはずがないのです。それを子どもたちに年間20ミリシーベルトまで許容させるなんてことはとんでもないことです。この〈20ミリシーベルト〉を、マスコミはあまりにも冷静に書き過ぎです。

 ICRPの基準は、原発を擁護するものです。基準を厳しくすればするほど原発企業は経営が成り立たなくなります。ですから、ある種の功利主義に立って、みんなのためなら被ばくもやむを得ないだろうという…その折り合いが1ミリシーベルトなのです。ですから、たとえどんなに低線量の被ばくでも害はあるのです」

意見を述べる高橋氏「原発作業員と同じ被ばく基準、年間20ミリシーベルトを一般の県民や子どもたちに強いるのは、いくら何でも無茶です。年1ミリシーベルトを超える地域については、〈避難する権利〉を住民に与えるべきです

 「福島県立医科大学の山下副学長らのグループは、『甲状腺がんは100万人にひとりのもので、今回の検査結果も原発事故の影響ではない』などと言っていますが、この検査結果を見れば、子どもたちを最大級の警戒体制で見守らなければいけないのは明らかです」

 矢ケ崎氏が〔意見書(4)〕に書くこと――、

 「政府は放射線の被害を『直ちには健康に被害は無い』とだけ言い、現在健康被害が現れる恐れに対して〈無料健康診断〉や〈医療費無料化制度〉など、何ら具体化はしていないのが現状です。子どもの命を大切にし、健康被害を防止する立場からは、あらゆる健康被害の気配を察知し、即刻万全の備えをすることを願うものです。日本国憲法で〈個〉の尊厳が謳われ、第25条健康で文化的に生きる権利が保障され、国は誠実にそれを実施しなければならないとされています。この主権者が望む当たり前の願いは、被曝防護としては集団疎開であり、無料の医療検診、治療制度を確立することから始めるべきだと思います。」(P11)

 これらの実行に向けて、いったいどんな難しさがあるというのだろうか。あるいは、これらよりも優先させなくてはいけない、ほかのことがらが何かほかにあるだろうか。

 26年前にチェルノブイリで起きた悪夢が、日本で今後起きないとは誰も言い難い。むしろ、過去3回にわたる甲状腺の「健康管理調査」は、その予兆を示しているし、今後、政府が子どもたちに何の救いの手も差しのべず、子どもたちが被ばくするに任せていたら、どうなるか――。それは「福島は、チェルノブイリ原発周辺地域の12~15倍もの人口密度がある」と柳原弁護士が警告するように、チェルノブイリの比ではない悲劇が、4年ないし5年後といった近い将来に引き起こされることはまちがいない。

内部被ばくの危険性について語る矢ケ崎氏(右)。矢ケ崎氏らの立ち上げた「市民と科学者の内部被曝問題研究会」はそのメンバーも活動内容もすばらしいものだ。下記《関連サイト》参照

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