低線量汚染地域からの報告―チェルノブイリ 26年後の健康被害

『低線量汚染地域からの報告―チェルノブイリ 26年後の健康被害』
馬場 朝子 (著), 山内 太郎 (著)

内容紹介
いまなお続く放射能汚染による健康被害

昨年4月、ウクライナ政府はチェルノブイリ原発事故後の、国民の健康への影響を詳細に調べた報告書を公表した。低線量汚染地域に居住してきた人々への定点調査では、甲状腺がんや心臓疾患、白内障といった疾病や慢性疾患の増加という実態が浮かび上がってきた。四半世紀を経てなお続く原発事故の「後遺症」を綴る。

(レビューから)
★5つ星のうち 5.0 今読むべき本! これから数十年価値を持つ本!!
2012/10/6 By zawa

 今年(2012年)9月にNHKで放送されたドキュメンタリー番組の書籍版。番組を見た人でも買って読む価値がある。

 昨年ウクライナで出されたチェルノブイリによる健康被害の報告書を巡る話とチェルノブイリから140キロ離れた低濃度汚染地帯の都市コロステンに暮らす市民の苦悩が取り上げられている。

 汚染地域で診療してきた医師達が直面している「現実」に基づいた報告書は、放射能との関連の「科学」的証明が不十分として国際的な共通認識を得られていない。日本でもウクライナの「現実」を無視することで避難の基準を年20ミリシーベルトにするという政策が採られている(ウクライナは年1ミリシーベルト以上は移住権利地域、5ミリシーベルト以上は移住地域)。学者は本来であれば「科学」的に証明できない「現実」があれば「科学」の限界に思い至り謙虚になるべきだと思うのだが、日本の(御用)学者は「科学」的に証明されていないものは「現実」にも存在しないかのように傲慢に振る舞うようだ。

 コロステンの市内は、年0・5~1ミリシーベルトの放射線管理区域と年1~5ミリシーベルトの移住権利区域が半分ずつ占めている。日本でも同程度の汚染地域は広く分布しており、おそらく数百万人が暮らしている。年0・5ミリシーベルト以上の汚染地域ならば1千万人以上が暮らしているだろう。チェルノブイリから26年後のコロステンの現状は、目をそらすことなく凝視すべきだろう。

 しかし、子供たちの75%以上が何らかの疾患を抱えているという「現実」はあまりにも重すぎる。
 著者二人の姿勢は公平である。誰かを糾弾するでもなく、不安を煽るでもなく、とても誠実に書かれている。私自身は、こんな惨禍を招きながら未だに誰も責任を取らない状況は異常なので、個人名をあげて告発する事は絶対に必要だと考えている。しかし、報道の良心に従い、必要と思われる事実を丁寧に書き記した本書からは多くの事を教えられた。信頼するに足る良書である。

★5つ星のうち 5.0 関東のわが市も全く同じ状況の兆しが。
2012/10/20 By 高橋享子

 この本を読んで衝撃的でした。現在私の住むN市はチェルノブイリ事故の低線量被ばく地域であるコレステンと状況がよく似ている。確かに26年たったという差はありますが、民間団体の土壌検査の結果、移住権利地域が6分の1程度、それ以外ほとんどが放射能管理地域です。

空間線量は、安全な住宅街で0,15高いところは0,23以上森は0,3以上なのです。このまま除染をしなければ25年でこの地域のもコレステンと同じ被ばく量になります。コレステンでは森の食べ物は絶対食べてはいけないといっているのに、わが市では野生の栗などを検査しても大丈夫として売っている。

25年後の未来の子供たちに誰も責任はとれないのです。関東も含めて低線量被ばく地域に住む放射能被害を気にする人々、子どもを持つ親たち、そして若者もこの本を読んで将来起こるかもしれない現実を知ってほしい。読みやすく素晴らしい本だと思います。

★ チェルノブイリの痛切な経験から日本人に警告する
2012/10/25 By つくしん坊 トップ500レビュアー

原子力関連の国際機関(たとえば国連科学委員会)によれば、チェルノブイリ事故による放射線障害は、事故直後に放射性ヨウ素を被曝した子供たちの甲状腺がんと、高線量被曝をした事故処理作業員の白血病と白内障だけである。しかし、チェルノブイリ事故で大きな影響を受けたウクライナの各地を取材した本書によれば、実態は全く異なる。

子供の甲状腺がんはもちろん、大人や子供を問わず、循環器系疾患をはじめ、消化器系、神経系・感覚器系、および呼吸器系疾患などあらゆる病気が、事故後顕著に増えている。特に、健康な子供たちがほとんどいないという驚くべき事実には、心が痛む。本書は、低線量被曝でも健康に大きな影響を及ぼしうる、というチェルノブイリの痛切な経験から日本人への警告の書である。

ウクライナでは、年間5ミリシーベルト以上が強制移住、1ないし5ミリシーベルト未満が移住勧告地域である。重要な点は、福島では居住が認められている年間20ミリシーベルト以下でも、ウクライナでは顕著な健康被害が認められている点である。しかし、国際機関は科学的な根拠が不十分として、ウクライナの低線量被曝による健康被害を認めておらず、日本も同様である。これから日本で起こりうる悲劇を考えると心配でならない。

今のところ、日本の国や行政機関が年間20ミリシーベルト以下の低線量被曝に対して、何らかの対策を打つ気配がない。本書は、われわれ日本人が、チェルノブイリ事故とその後の長期的な放射線被曝から何を学ぶべきかを教えてくれる、貴重な内容である。

 

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