『避難の権利』 福島に

◆『避難の権利』 福島に
(2012年5月26日 東京新聞 こちら特報部)

■ロシア技師、経験訴え 被災者自身が暮らし方決定

福島原発の事故で、日本政府の情報開示や対応は後手に回った。「言語道断だ! チェルノブイリ事故の直後、子どもたちにヨウ素剤を配ったポーランドでは、健康を守ることができた」とフェルネクス氏。

今回、福島県郡山市や広島市、さいたま市などで講演した。23日に新宿で開いた講演会では、来場した双葉街の井戸川町長から「今福島はまるで核実験場のようなところ。住み続けるべきか、避難するべきか」との質問も出た。

あらためてフェルネクス氏に聞くと、「汚染度の高いところは避難すべきだ。それ以外で住み続けるのなら、内部被ばくの防止を徹底する必要がある」。放射能のない食べ物の他、体内の放射性セシウムの排出に効果的なペクチンが含まれる海藻やりんご、抗酸化物質として作用するビタミン類やカロチノイドがある人参など色つき野菜の摂取を提言した。

福島では今後、年間の積算被ばく線量が高い20ミリシーベルト以下でも帰還はできるとし、政府は除染を進めていく考えだが、被災者の悩みは深まるばかりだ。

■事故5年で支援法制定

被災者を支援する実効性の高い法律の制定が急務となる中、国会で与野党それぞれが被災者の支援法案を提出し、協議を重ねている。

その手本として注目されているのが、チェルノブイリ事故後に、ロシアで制定された『 チェルノブイリ法 』だ。「福島を支援する法律を作るため、参考にしてほしい。」法の制定に力を尽くしたロシアの「チェルノブイリ同盟」吹く代表で、科学技術者のアレクサンドル・ベリキン氏は、17日、東京永田町の議員会館での集会で訴えた。
被ばくで健康被害を受けた労働者らを国が支援する仕組みがなかったことから、「自分たちの権利を守ろう」と同盟を結成。事故から5年を経て、法制化につなげた。

今回、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」など三つの市民団体の招きで来日した。ベリキン氏は、「この法律の良いところは、被災した住民自身が今後の暮らし方を決められる点です。」と説明する。

年間積算被曝量が5ミリシーベルト以上になる区域を「移住義務ゾーン」、1ミリシーベルト以上5ミリシーベルト未満の区域を「移住権利ゾーン」と設定。被災者は支援を得て汚染地域で暮らすのか非汚染地域へ移住するかを選ぶことができる。両ゾーンでは国家の負担による健康診断や薬剤の無償提供、年金の割り増しなどの社会的な保護を受けられる。移住を選んだ場合でも、国は住民が失うことになる家屋などの財産について、現物または金銭での補償をすることになっている。

同氏は、「残留者、避難者とも支援する先進的な内容。どんな国でも、快くお金を支払ってくれる政府などない。人の権利を守る法律を制定するには、住民が声をあげることこそが大事」と呼びかけた。

■正確な情報  十分な補償

福島では自主避難者も賠償対象に入ることになったものの、避難せずに残った住民の低線量被ばくは続く。協議中の法案は避難指示解除準備区域などを対象に住宅確保や修学を支援する内容だが、チェルノブイリ法のような「避難の権利」などには踏み込んでいない。

同ネットの共同代表を務める河崎弁護士は、「政府はまず、被災者にも健康影響も含めた正確な情報を開示すべきだ。その上で、20ミリシーベルトに拘らずに移住か、残留かの選択権を持たせ、十分な補償を受けられる仕組みをつくってほしい」と話している。

【デスクメモ】
「終わりのない惨劇(緑風出版)」の出版を機に来日したフェルネクス氏。講演会で自ら登場するWHO報告会などの記録映画も上映された。ロシアの科学省は、「賠償金を払いたくないだけだ。だから事故の影響が深刻なものを示す研究成果は排斥する!」と叫ぶ。11年後の福島事故後の姿も変わらない。

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