憲法9条と核兵器廃絶の初志忘れずに   河野洋平・元衆議院議長

◆憲法9条と核兵器廃絶の初志忘れずに 
 河野洋平・元衆議院議長
(2012年12月24日 毎日新聞)

先の衆院選では、尖閣諸島を巡る日中関係の悪化、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発などを背景に、日本の核武装を考えるべきだとの意見が一部にあった。集団的自衛権の行使の憲法解釈を変えるべきだ、憲法を改正して自衛隊を国防軍とすべきだという主張もある。しかし、わが国には核攻撃の惨禍に見舞われた経験を世界の人々に知らせる歴史的使命があり、核兵器廃絶を先頭に立って訴えるという初志を忘れるべきではないと考える。

オバマ米大統領は09年プラハで「核兵器のない世界」を目指すという目標を掲げた。最初に核兵器を使用し、最大の核保有国である米国トップの意思表明は、世界の主流が核軍縮に向いつつあることを示している。

日本でも冷戦期や冷戦後に核武装する「核オプション」の是非が何度か検討されたと危機及んでいるが、日本の国益に資するものではないという結論だったという。

国際社会における「発言力」は、核兵器の保持によってのみ生まれてくるものではない。歴史に対する洞察を持ち、弱い立場の国々の側に立ち、ビジョンを示すソフトパワーを軽視してはならない。憲法で「戦争放棄」を明確にしていることは、わが国のソフトパワーの重要な源の一つだ。

「憲法が集団的自衛権の行使を認めていない」と表明することは、安全保障のパートナーである国の戦争には参加しないという態度表明として各国に受け止められてきた。

スイスやノルウェーは核兵器の使用を非合法化するための努力を各国に求めている。わが国も積極的に加わるべきだ。広島・長崎を経験したわが国は核兵器の使用が市民にとっては非人道的な行為だと知っている。昨年の福島第一原発事故では放射性物質の拡散が環境問題としていかに深刻か身にしみてわかった。

領土など中国との摩擦から勢い余って核武装論を言うことは百害あって一利なしだ。中国の軍拡派を勢いづかせて東アジアの軍拡競争を加速させるだけだ。次の首相には、対立をあおらず、憲法9条を指針として、
長期的にアジアをより少ない軍備で平和で安定した地域に向かわせる知恵が求められている」とも記した。 (寄稿)


*写真

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