◆ウクライナの「チェルノブイリ法」―チェルノブイリ事故に関する基本法
(ウクライナ科学アカデミー オレグ・ナスビット,京大原子炉実験所 今中哲二)から抜粋
チェルノブイリ事故が人々の健康にもたらす影響を軽減するための基本概念として,1991年2月27日,ウクライナSSR最高会議によって採択された.この概念の基本目標は,最も影響をうけやすい人々,つまり1986年に生まれた子供たちに対するチェルノブイリ事故による被曝量を,どのような環境のもとでも年間1ミリシーベルト以下に,言い換えれば一生の被曝量を70ミリシーベルト以下に抑える,というものである.
基本概念文書によると,「放射能汚染地域の現状は,人々への健康影響を軽減するためにとられている対策の有効性が小さいことを示している.」それゆえ,「これらの汚染地域から人々を移住させることが最も重要である.」
事故影響軽減のための基本法
法の第1条は,チェルノブイリ事故による放射能汚染地域をつぎのように定義している.「事故前に比べた現在の環境中放射性物質の増加が…住民に年間1ミリシーベルト以上の被曝をもたらし得る」領域が汚染地域である.こうした地域では,住民に対し放射能防護と正常な生活を保障するための対策が実施されねばならない.
第1条では,被曝量が年間1ミリシーベルトを越える可能性のある領域が汚染地域と定義されているが,第2条のゾーン区分では,年間1ミリシーベルト以下の領域が(0.5ミリシーベルト以上の)放射能管理強化の第4ゾーンに含まれている.
住民の健康確保という観点からは,疾病の危険性を軽減するための対策が重要である.法に従い,政府は以下の方策を実施せねばならない.
汚染地域住民の毎年の健康診断と早期の病気予防,
住民への十分な量の,医薬品,飲料水,クリーンな食料の供給,
(その他は省略)
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◆「年1ミリシーベルト」で避難の権利 ロシアのチェルノブイリ法
(2012/05/24 みんな楽しくHappyがいい)から抜粋
「チェルノブイリ法」では、年間被ばく線量が0.5ミリシーベルト(土壌汚染が37kベクレル/m2)以上の地域で、医療政策を含む防護対策が行われる。1ミリシーベルト以上であれば、避難の権利があり、5ミリシーベルト以上の地域は、移住の義務がある。
【一つ目は疎外ゾーン】
日本でいう警戒区域にあたる地域。ここは立ち入りが禁止されている。
【二つ目は退去対象地域】
住民が受ける平均実効線量が年間5ミリシーベルトを超える可能性がある地域で、住民は移住すべきとされている。ここに住んでいた住民は被害補償や社会的な支援を受ける権利がある。
【三つ目が移住権付居住地域】
住民が受ける平均実効線量は年間1ミリシーベルトから5ミリシーベルトの地域に当たる。避難するかどうかは住民自身が判断する。
【四つ目は特恵的社会経済ステータス付居住地域】
年間0.5ミリから1ミリシーベルトの地域で、医療政策を含む防護対策が行われ、保証金も支払われる。
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◆「安全基準は年間1ミリシーベルト、0・19マイクロシーベルト/時です」
(2011年06月27日 週刊現代)
日本の政府は、福島原発事故の後、一般人の年間被曝限度量を、1ミリシーベルトから一気に20ミリシーベルトに引き上げた。常識で考えて、安全基準が20倍も変わることなどありえない。
「年間20ミリシーベルト、それを基に算出した3・8マイクロシーベルト/時という数値は、ICRP(国際放射線防護委員会)が緊急事故後の復旧時を想定して決めた値です。それが一般生活者の基準になるわけがない。一般人の安全基準はあくまで年間1ミリシーベルト、0・19マイクロシーベルト/時です」(元放射線医学総合研究所主任研究官・崎山比早子氏)
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◆日本でも法案提出―避難の権利を確立するチェルノブイリ法
(2012年5月25日 田中龍作ジャーナル)
ロシアでは「チェルノブイリ法」により、年1ミリシーベルト以上の被ばく量地域を「移住(避難)の権利地域」と定め、在留者・避難者それぞれに仕事、住居、薬、食料の支援をしている。
※年1ミリシーベルト地域(0.23マイクロシーベルト毎時)
自然からの線量0.04シーベルトと原発事故による追加被ばく線量0.19シーベルトを足し合わせた。屋外で8時間、木造家屋で16時間過ごすと仮定すると、1年で1ミリシーベルトを超える。(環境省HPより)
チェルノブイリ法が定める移住の権利地域の住民は、次のような補償を受ける―
1、国家の負担による追加医療保障(毎年の健康診断、薬剤の無料供与など)
2、非汚染地帯でのサナトリウム治療(保養)と追加の休暇
3、妊婦に対する居住地域外での延長休暇
4、月に100米ドル相当の支払い(健康増進用、追加食品用)
5、年金の30%割り増し
「当時、“移住の権利地域”の年間線量については激しい議論が行われた。基準を年5ミリシーベルト以上にしようとする原発推進派と闘い、年1ミリシーベルト以上を勝ち取った」
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(出典www.toyokeizai.net)
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◆「チェルノブイリ法」の地図は、外部被ばくと内部被ばくの合計で作成
(地球の子ども新聞 2012年11月号)チェルノブイリ基準に基づく区分
(地球の子ども新聞2012年11月号の解説から抜粋)
チェルノブイリの汚染マップは、測定結果だけでなく、「チェルノブイリ住民保護法(1991)」で定めた被災者保護の区分を示した汚染防護マップです。住民の健康保護を目的として、年間被曝線量0.5ミリシーベルト以上を汚染地と定義し、年間1ミリシーベルト以上を「移住の権利」、「移住の義務」、「強制避難」のゾーンに区分しています。被曝線量は、住民調査の平均値から外部被曝と内部被曝の比率を「6:4」としています。例えば、空間線量が3ミリシーベルトのとき、被曝線量は内部被曝を加え5ミリシーベルトになります。
【IAEA(国際原子力機関)、WHO(世界保健機関)を超えて】
年間1ミリシーベルトを提唱したミハイル・マリコ博士(ベラルーシ科学アカデミー)
「チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは市民の声で実現されました。核事故の歴史は関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束して事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも、早急な防護基準の見直しが必要です」
◆衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書
(1) ウクライナ
1.チェルノブイリ原子力発電所視察
2.放射性廃棄物保管場「ブリャコフカ」及び予定地「ヴェクトル」視察
3.チェルノブイリ博物館視察
資料『チェルノブイリの長い影―チェルノブイリ核事故の健康被害』
<研究結果の要約:2006年最新版
6.非常事態省チェルノブイリ立入禁止区域管理庁長官等との懇談
資料・チェルノブイリ原子力発電所事故により放射性物質で汚染された地域の法制度に関するウクライナ国家法(1991年)
・チェルノブイリ原発事故被災者の状況とその社会的保護に関するウクライナ国法(1991年)(概要及び本文)
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(参考記事)
◆【放射能汚染マップ】放射能汚染の分かるマップをまとめ(NAVERまとめ)