放射能汚染地の子どもたちに病気が急増している

子どもの日に、多くの人に伝えたいこと
今こそ、皆で協力して放射能から子どもたちを守ろう!

福島原発事故のあと、子どもたちの病気が増えています。
1990年からチェルノブイリ医療支援活動に関わり、ベラルーシやウクライナの放射能汚染地と病院を何度も訪問してきました。

現地で出会ったお医者さんや研究者のほとんどが、「さまざまな病気が増えている」と言い、ベラルーシの「低レベル」汚染地域にある子ども病院では、病気が増えている具体的なデータをもらいました。

その病院では、原発事故前年と事故から9年後を比べると、急性白血病が2.4倍、ぜんそく2.7倍、糖尿病2.9倍、血液の病気3.0倍、先天性障害5.7倍、ガンが11.7倍、そして、消化器系の病気が20.9倍にも増えていました。

モズイリ子ども病院データ

そうした状況を実際に見聞きしてきた経験から、福島原発事故以後の日本の状況をとても心配しています。2011年3月の原発事故発生から2年が過ぎ(今も放射能放出が続いている)、東北や関東を中心に病気が増えています。特に甲状腺異常や心臓病が急増しています。

トリミング:甲状腺がん 新たに2人

甲状腺異常の内容を詳しく見ると、以下のようになっています。

2011年3万8千人186人二次検査 甲状腺がん3人疑い7人 12年9.5万.人中549人二次検査jpg
     
子どもの甲状腺異常は、2011年度に検診した3万8000人の内「2次検査必要」が186人。その内「3人が甲状腺ガン+7人がガンの疑い」と福島県から発表されました。毎日新聞によれば、「疑いのある人を含めた10人の内訳は男性3人、女性7人で平均年齢15歳。甲状腺がんと判明した3人は手術を終え、7人は細胞検査により約8割の確率で甲状腺がんの可能性があるという。7人の確定診断は今後の手術後などになるため、最大10人に増える可能性がある」

こうした状況の中で、調査をした福島県の「県民健康管理調査」検討委員会は、情報の隠ぺいや「秘密会」の開催などで、市民からの信頼をなくしています。

福島健康調査:「秘密会」で見解すり合わせ
(毎日新聞2012年10月3日)

<福島健康調査>「秘密会」で見解すり合わせ

福島健康調査「秘密会」 県、出席者に口止め

また、健康管理調査検討委員会の座長である山下俊一氏は、原発事故が起きた2011年3月、福島県の健康管理アドバイザーという立場で講演してまわり、「今の放射能測定値で外出しても問題はないのか?」との質問に対して、「環境の汚染の濃度が、100マイクロシーベルト/hを超さなければ、まったく健康に影響を及ぼしません。ですから、5とか10とか20とかいうレベルで、外へ出ていいかどうかということは明確です。昨日も、いわき市で答えました。『今、いわき市で、外で遊んでいいですか?』と聞かれました。『どんどん遊んでいい』と答えました。福島も同じです。心配することはありません」と答えています。

こうした講演は、市政だよりなどで広く広報されました。福島県民の中には、山下教授の発言を信じ、100マイクロシーベルト/hまで安全、一度に100ミリシーベルト浴びなければ大丈夫だと、放射線量が高いときにマスクもさせずに子どもたちを外で遊ばせてきた親がたくさんいます。ふとんも洗濯物も外に干してかまわない、雨に多少ぬれても問題ない、といった山下発言を信じた人もたくさんいます。

そうした山下氏の言動に対し、福島県民の被ばく量を増やしたとして、市民や研究者などが告訴しています。

その山下氏が今年3月11日、アメリカの米国放射線防護・測定審議会で講演し、「福島県の子ども3万8000人のうち10人が甲状腺がん」と発表しています。広く知らせて、早急に対策を立てるべき日本国内では未発表のまま、米国では発表しているのです。(以下は、講演で使われた資料)

山下俊一・米国講演・小児甲状腺がんグラフ

この「3万8000人のうち10人が小児甲状腺がん」という情報は、日本のマスコミではほとんど報道されていません。山下氏が発表した数字は、通常の小児甲状腺がん発生率「100万人に1人か2人」の約130~260倍に相当します。さらに心配なのが、2011年度より2012年度の方が2次検査が必要な比率が高くなっていることです。

福島の小児甲状腺がん 増える人数

2011年度 38,000人―186人(2次検査必要)=0.489%
2012年度 95,000人―549人(2次検査必要)=0.577% 

もし、2011年度の「186人のうち10人がガン」だった比率(10/186=5.376%)と2012年度の2次検査が必要な549人が同じ比率でガンだった場合、約30人の子どもが甲状腺ガンになります。「9万5000人で30人」というのは、通常の「100万人で1人か2人」の157~315倍になります。

しかも、福島県の検査は、短時間で精密さに欠けるという指摘があります。

福島、子どもの甲状腺検査 高まる県民の不信(毎日新聞)

福島県二本松市の主婦は昨秋、長男(6)の検査に付き添った。検査技師はモニターを見つめて何かを測っている様子だったが、結果について何も話さず、2分ほどで終了した。不安になり、一般の病院で改めて検査を受けさせた。10分ほどかかった検査で、7ミリの結節が見つかった。県の判定基準では2次検査が必要な「B」に当たる。だが、約1カ月後に県から届いた通知は、経過観察にとどまる「A2」だった。検査画像とリポートの情報公開を請求した。約3週間後に開示されたリポートには1・6ミリののう胞があると記されていたが、結節は「なし」だった。

チェルノブイリの場合、子どもの甲状腺がん患者のうち6人に1人が肺に転移しています。私たちが、ベラルーシで出会ったナターシャさんの息子さんも9歳で被ばくし、甲状腺ガンが肺に転移して、21歳の若さで亡くなっています

ナターシャとオレグ

その後、ナターシャさんは、2人いた子どものもう一人の娘さんまでガン(胃ガンが全身に転移)によって失っています。放射線は年齢が低いほど大きな被害を受けるということ。「親よりも子どもが先に亡くなっていく」ということが放射能の最も怖いことの一つだと思います。

政府は、早急に検査体制を増強して、福島と宮城、栃木、群馬、茨城、千葉などの高汚染地域でも迅速で丁寧な検診を実施すべきです。

1996年から、ベラルーシの国立甲状腺がんセンターにて、小児甲状腺癌の外科治療を中心に医療支援活動に従事した菅谷昭さんは、次のように語っています。

「チェルノブイリでは、国立甲状腺がんセンターだけで子どもの手術をしましたので、データが非常にしっかり残っています。それによると、子どもの甲状腺がん患者のうち6人に1人が肺に転移しているんですね。ですから、甲状腺がんの疑いがあるのだったら早く手術をした方がいいと思うんです」

そして、子どもたちの「疎開」に言及されています。

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◆心臓病も急増
問題は、甲状腺だけではありません。今、全国で心臓病が急増しています。私たちは、チェルノブイリの経験から学ぶことがたくさんあります。チェルノブイリ原発事故後、放射能汚染地の住民に心臓病が激増していきました。原発事故から22年が過ぎた2008年に、ベラルーシで亡くなった人の半数以上(52.7%)が心臓や血管などの循環器系疾患でした。

2008年のベラルーシの死因 52.7%心臓病

チェルノブイリ原発事故後のベラルーシで、元ゴメリ医科大学学長のユーリ・バンダジェフスキー博士が病気で亡くなった人を解剖して分かったことは、心臓病の多くは、放射性セシウムが心筋(心臓の壁を構成する筋肉)に蓄積して起こったということです。

福島原発事故の後、日本でも心不全や心筋梗塞など心臓病が増加しています。第76回日本循環器学会の発表で、2011年2月11日~3月10日では123件だった心不全が、同年3月11日~4月7日には220件 に増加。心不全の増加は、過去の大震災疫学調査では報告例がありません。

また、2012年12月26日の東京新聞によると、茨城県取手市(放射能汚染地=ホットスポット)の小中学生に心臓病が急増しています。一次検診を受けた小中学生1655人のうち73人が要精密検査と診断され、11年度の28人から2.6倍になっています。中学生だけで見ると、17人→ 55人と3倍強に増えています。

取手市 心臓病の増加

心臓に何らかの既往症が認められる児童・生徒も10年度9人から11年度21人、12年度24人と推移。突然死の危険性が指摘される「QT延長症候群」とその疑いのある診断結果が、10年度の1人、11年度の2人から8人へと急増しています。


児童、生徒の心電図異常増加…茨城
(2013年1月4日 読売新聞)から抜粋

 茨城県取手市の市立小中学校の学校検診で、心電図に異常がみられる児童、生徒の数が、昨年度から増加していることが、生活クラブ生協取手支部など市内3団体の調査でわかった。検査は小中学校の1年生に実施し、毎年度5月に1600~1700人が受診。精密検査が必要とされた子供は、2010年度までは最高で1・79%だったのが、11年度は2・38%、12年度は5・26%になった。

 また、精密検査で疾患や異常が見つかった子供は、10年度までは最高0・71%だったが、11年度は1・28%、12年度は1・45%だった。ただし、12年度は「要精密検査」とされながらも、公表時点で受診していない子供が3分の1以上おり、3団体は「受診者が増えれば数値が上がる可能性がある」とみている。


また、心疾患死亡に関する人口統計において、福島県の心疾患死亡率が2011年度の全国1位になっています。(秋田県が公開したデータ)

◆2011年度 心疾患死亡率は、福島が全国一位
福島は、2010年度の8位から2011年度は1位に、岩手が6位から4位になっています。

【福島と周辺県の心疾患死亡率が増加】

     2010年度  2011年度  増加率   
福島   197.6   226.0   14.4%  
宮城   141.3   160.0   13.2%  
茨城   150.1   165.9   10.5%  
岩手   202.6   219.3    8.2%  

全国平均 149.7  154.4    3.1%  

心疾患死亡率 2011年と2012年度の比較

*バンダジェフスキー博士(元ゴメリ医科大学学長)は、子どもの体重1kgあたり、セシウム137が10ベクレル(5kgの子どもなら50ベクレル)蓄積するだけで、遺伝子に影響を与え、不整脈を引き起こす可能性があると警告していまます。 (不整脈は、心臓病につながります)

体重5kgの幼児が、セシウム137を毎日0.32ベクレル摂取し続けると体内10ベクレル/kgになります

ドイツ放射線防護協会「日本における放射線リスク最小化のための提言」では、『評価の根拠に不確実性があるため、乳児、子ども、青少年に対しては、1kgあたり4 ベクレル以上のセシウム137 を含む飲食物を与えないよう推奨されるべきである。成人は、1kg あたり8Bq 以上のセシウム137 を含む飲食物を摂取しないことが推奨される』と提言している。

今、日本の政府は、最優先で守るべき「子どもの命」より「目先の経済」を優先しているため、「チェルノブイリ法」の避難基準であれば、避難しなければならない地域に多くの子どもたちが住み続けて「外部被ばく」を増やし、飲食を通して「内部被ばく」を増加させています。

検出限界値 福島県庁食堂『1ベクレル』 学校給食『10ベクレル』

福島市・学校給食の検出限界値は 『10ベクレル』
福島県庁にある食堂の検出限界値は 『1ベクレル』
この2つの数字を見ると、子どもたちよりも県職員の方が安全を確保されているようです。さらに、佐藤雄平知事は、学校給食での福島県産米や野菜の積極的な利用を呼びかけています。

福島学校給食に県内産米 佐藤知事

福島県知事と県職員の皆さん
長年、放射能の人体への影響を研究してきたジョン・ゴフマン博士の名著として知られている『人間と放射線 ― 医療用X線から原発まで―』によれば、0歳の乳児は30歳の約4倍、さらに55歳以上と比べると300倍以上の大きな影響を受けることになります。

皆さんがやっていることは、逆ではありませんか?
これ以上、子どもたちを危険な状況に追い込むことはやめて下さい。

ゴフマン 年齢別がん死者数グラフ

大人は、「年齢が低い子どもほど放射線の影響を大きく受ける」という事実を肝に銘じる必要があります。

ウクライナで5万人の子どもを診察したエフゲーニャ・ステパノワ博士は、病気予防対策の一番目に「汚染されていない食べ物をとること」と日本人にアドバイスしています。加えて、充分なビタミンをとること。体力増進に努めること。汚染地域を離れて保養施設などで休むこと(最低でも4週間)も重要だと話しています。

ステパノヴァ医師「汚染地の子ども病気になりやすい」

また、ウクライナの子どもたちは1年に1回、小児科、血液科、内分泌科、神経科、咽頭科など専門医のもとで、血液検査と尿検査、甲状腺超音波検査など総合的な健康診断を受けています。

ところが、日本では、血液検査や尿検査さえ実施されていません

福島県、尿検査せず

日本は、ウクライナに比べ、子どもたちを守ろうとする意志も、原発事故被害者(特に農業者、漁業者、市民)への補償もまったく不足しています。

原発を再稼動させたり、被害補償を少なくしたい勢力は、できるだけ不利なデータを取らず(あるいは、隠して)被害を過小評価しようとします。そうした勢力は、国内の「原子力ムラ」だけでなく、国際的にも存在します。

チェルノブイリ事故の被害をめぐっては、原発を推進しているIAEA(国際原子力機関)やIAEAと協定を結んでいるWHO(世界保健機構)などにより「直接的な死者は50人、最終的な死者は4000人」とか「最大で9000人」といった過小評価が公式化されてきました。その数字の元になったのは、350の論文に基づき英文で公開されている資料だけでしたが、2009年にヤブロコフ博士らがまとめた報告書『チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響』は、5000以上の論文(英語だけでなくロシア、ウクライナ、ベラルーシの言語も含む)を元にまとめられたもので、その犠牲者数少なくとも98万5000人と見積もっています。

この報告書の翻訳本調査報告 チェルノブイリ被害の全貌が4月26日に岩波書店から出版されました。本の帯には、こう書かれています。「1986年4月、たった1つの原子炉が爆発し、今日、汚染地域の健康な子どもは20%に満たない

チェルノブイリの放射能汚染地をまわったとき、「この村には、健康な子どもはほとんどいません」「この町の多くの子どもは、複数の病気を抱えています」といった話をあちこちで聞いた私にとって、『健康な子どもは20%に満たない』というのは、驚く話ではありません。

今、福島をはじめ東北や関東の汚染数値が高い地域に住む子どもたちは、非常に危険な状況の中で生きています。国も、自治体も「子どもを守ろうとしない」状況がこのまま続けば、チェルノブイリ以上の被害が出るのではないかと、私は恐れています。

重要な放射能汚染地図

「チェルノブイリ法」の地図は、外部被ばくと内部被ばくの合計で作成
(地球の子ども新聞 2012年11月号)チェルノブイリ基準に基づく区分

地球の子ども新聞:チェルと日本の汚染地図比較

トリミング:汚染地図・移住権利・義務ゾーン

地球の子ども新聞2012年11月号の解説から抜粋)

チェルノブイリの汚染マップは、測定結果だけでなく「チェルノブイリ住民保護法(1991)」で定めた被災者保護の区分を示した汚染防護マップです。住民の健康保護を目的として、年間被曝線量0.5ミリシーベルト以上を汚染地と定義し、年間1ミリシーベルト以上を「移住の権利」、「移住の義務」、「強制避難」のゾーンに区分しています。被曝線量は、住民調査の平均値から外部被曝と内部被曝の比率を「6:4」としています。例えば、空間線量が3ミリシーベルトのとき、被曝線量は内部被曝を加え5ミリシーベルトになります。

今、政府は、原発事故などなかったかのような態度で、原発再稼動に向けて動いており、原発事故の被害者などいないかのような態度で、被害者への補償を怠り、「原発事故 子ども・被災者支援法」さえ放置しています。

こうした政府の姿勢を変えさせることができるかどうかは、最終的には市民が「放射能から子どもたちを守ろう」という「国民運動」を起こせるかどうかにかかっていると思います。

最後に、ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士の言葉をかみ締めたいと思います。
チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは市民の声で実現されました。核事故の歴史は関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束して事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも、早急な防護基準の見直しが必要です

今こそ、みんなで協力して、知恵と力を寄せ合って、子どもたちを守りましょう!

2013年5月5日 子どもの日に
中村隆市


<関連情報>
国連報告書「福島県健康調査は不十分」(5月30日)
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