衆議院 2013年5月8日 震災復興特別委員会参考人
南相馬市立総合病院:副院長 及川友好(脳神経外科)
「私自身は脳神経科医でありますので、脳卒中の発症率をいま、東京大学の国際衛生学教室と一緒になってデータを集めているところなんですが、これはまだ暫定的なデータで確定的なものではないんですが、ただし恐ろしいデータが出ています。われわれの地域での脳卒中発症率が65歳以上で約1.4倍。それどころか35歳から64歳の壮年層で3.4倍まで上がっています。非常に恐ろしいデータが今、出てきています。これらのデータをきちっと解析しながら発表していくこともわれわれの仕事だと思っているんです。」
・
◆放射能汚染地の子どもたちに病気が急増している
(2013/05/05 風の便り)から抜粋
2011年3月の原発事故発生から2年が過ぎ(今も放射能放出が続いている)、東北や関東を中心に病気が増えています。特に甲状腺異常や心臓病が急増しています。
甲状腺異常の内容を詳しく見ると、以下のようになっています。
子どもの甲状腺異常は、2011年度に検診した3万8000人の内「2次検査必要」が186人。その内「3人が甲状腺ガン+7人がガンの疑い」と福島県から発表されました。毎日新聞によれば、「疑いのある人を含めた10人の内訳は男性3人、女性7人で平均年齢15歳。甲状腺がんと判明した3人は手術を終え、7人は細胞検査により約8割の確率で甲状腺がんの可能性があるという。7人の確定診断は今後の手術後などになるため、最大10人に増える可能性がある」
この検査をした健康管理調査検討委員会の座長である山下俊一氏は、今年3月11日、アメリカの米国放射線防護・測定審議会で講演し、「福島県の子ども3万8000人のうち10人が甲状腺がん」と発表しています。(以下は、講演で使われた資料)
この「3万8000人のうち10人が小児甲状腺がん」という数字は、通常の小児甲状腺がん発生率「100万人に1人か2人」の約130~260倍に相当します。さらに心配なのが、2011年度より2012年度の方が2次検査が必要な比率が高くなっていることです。
2011年度 38,000人―186人(2次検査必要)=0.489%
2012年度 95,000人―549人(2次検査必要)=0.577%
もし、2011年度の「186人のうち10人がガン」だった比率(10/186=5.376%)と2012年度の2次検査が必要な549人が同じ比率でガンだった場合、約30人の子どもが甲状腺ガンになります。
チェルノブイリの場合、子どもの甲状腺がん患者のうち6人に1人が肺に転移しています。1996年から、ベラルーシの国立甲状腺がんセンターにて、小児甲状腺癌の外科治療を中心に医療支援活動に従事した菅谷昭さんは、次のように語っています。
「チェルノブイリでは、国立甲状腺がんセンターだけで子どもの手術をしましたので、データが非常にしっかり残っています。それによると、子どもの甲状腺がん患者のうち6人に1人が肺に転移しているんですね。ですから、甲状腺がんの疑いがあるのだったら早く手術をした方がいいと思うんです」
そして、子どもたちの「疎開」に言及されています。
・
◆心臓病も急増
問題は、甲状腺だけではありません。今、全国で心臓病が急増しています。私たちは、チェルノブイリの経験から学ぶことがたくさんあります。チェルノブイリ原発事故後、放射能汚染地の住民に心臓病が激増していきました。原発事故から22年が過ぎた2008年に、ベラルーシで亡くなった人の半数以上(52.7%)が心臓病でした。
チェルノブイリ原発事故の後、バンダジェフスキー博士が病気で亡くなった人を解剖して分かったことは、心臓病の多くは、放射性セシウムが心筋(心臓の壁を構成する筋肉)に蓄積して起こったということです。
福島原発事故の後、日本でも心不全や心筋梗塞など心臓病が増加しています。第76回日本循環器学会の発表で、2011年2月11日~3月10日では123件だった心不全が、同年3月11日~4月7日には220件 に増加。心不全の増加は、過去の大震災疫学調査では報告例がありません。
また、2012年12月26日の東京新聞によると、茨城県取手市(放射能汚染地=ホットスポット)の小中学生に心臓病が急増しています。一次検診を受けた小中学生1655人のうち73人が要精密検査と診断され、11年度の28人から2.6倍になっています。中学生だけで見てみると、17人→ 55人と3倍以上に増えています。
心臓に何らかの既往症が認められる児童・生徒も10年度9人から11年度21人、12年度24人と推移。突然死の危険性が指摘される「QT延長症候群」とその疑いのある診断結果が、10年度の1人、11年度の2人から8人へと急増しています。
また、秋田県が公開した心疾患死亡に関する人口統計において、福島県の心疾患死亡率が2011年度の全国一位になっています。
◆2011年度 心疾患死亡率は、福島が全国一位
福島は、2010年度の8位から2011年度は1位に、岩手が6位から4位になっています。
今、日本の政府は、最優先で守るべき「子どもの命」より「目先の経済」を優先しているため、「チェルノブイリ法」の避難基準であれば、避難しなければならない地域に多くの子どもたちが住み続けて「外部被ばく」を増やし、飲食を通して「内部被ばく」を増加させています。
◆検出限界値 福島県庁食堂『1ベクレル』 学校給食『10ベクレル』
福島市・学校給食の検出限界値は 『10ベクレル』
福島県庁にある食堂の検出限界値は 『1ベクレル』
この2つの数字を見ると、子どもたちよりも県職員の方が安全を確保されているようです。さらに、佐藤雄平知事は、学校給食での福島県産米や野菜の積極的な利用を呼びかけています。
長年、放射能の人体への影響を研究してきたジョン・ゴフマン博士の名著として知られている『人間と放射線 ― 医療用X線から原発まで―』によれば、0歳の乳児は30歳の約4倍、さらに55歳以上と比べると300倍以上の大きな影響を受けることになります。
チェルノブイリで起こったこともそのことを示しています。
ウクライナで5万人の子どもを診察したエフゲーニャ・ステパノワ博士は、病気予防対策の一番目に「汚染されていない食べ物をとること」と日本人にアドバイスしています。加えて、充分なビタミンをとること。体力増進に努めること。汚染地域を離れて保養施設などで休むこと(最低でも4週間)も重要だと話しています。また、ウクライナの子どもたちは1年に1回、小児科、血液科、内分泌科、神経科、咽頭科など専門医のもとで、血液検査と尿検査、甲状腺超音波検査など総合的な健康診断を受けています。
ところが、日本では、血液検査や尿検査さえ実施されていません。
チェルノブイリ事故の被害をめぐっては、原発を推進しているIAEA(国際原子力機関)やWHO(世界保健機構)などにより「直接的な死者は50人、最終的な死者は4000人」とか「最大で9000人」といった過小評価が公式化されてきました。その数字の元になったのは、350の論文に基づき英文で公開されている資料だけでしたが、2009年にヤブロコフ博士らがまとめた報告書『チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響』は、5000以上の論文(英語だけでなくロシア、ウクライナ、ベラルーシの言語も含む)を元にまとめられたもので、その犠牲者数を少なくとも98万5000人と見積もっています。
この報告書の翻訳本『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』が4月26日に岩波書店から出版されました。本の帯には、こう書かれています。「1986年4月、たった1つの原子炉が爆発し、今日、汚染地域の健康な子どもは20%に満たない」
今、福島をはじめ東北や関東の汚染数値が高い地域に住む子どもたちは、非常に危険な状況の中で生きています。国も、自治体も「子どもを守ろうとしない」状況がこのまま続けば、チェルノブイリ以上の被害が出るのではないかと、私は恐れています。
今、政府は、原発事故などなかったかのような態度で、海外に原発を売りつけ、原発再稼動に向けて動き、原発事故の被害者などいないかのような態度で、被害者への補償を怠り、「原発事故 子ども・被災者支援法」さえ放置しています。
こうした政府の姿勢を変えさせることができるかどうかは、最終的には市民が「放射能から子どもたちを守ろう」という「国民運動」を起こせるかどうかにかかっていると思います。
最後に、ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士の言葉をかみ締めたいと思います。
「チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは市民の声で実現されました。核事故の歴史は関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束して事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも、早急な防護基準の見直しが必要です」
今こそ、みんなで協力して、知恵と力を寄せ合って、子どもたちを守りましょう!
2013年5月5日 子どもの日に
中村隆市
◆国連報告書「福島県健康調査は不十分」
(2013/05/30 風の便り)