7月12日に、福岡で開催されたユーリ・バンダジェフスキー博士の講演会報告と、博士を取材した重要な報道番組を紹介します。
放射能汚染に対する政府の対応は、国によって大きく違いますが、チェルノブイリ原発事故で最も大きな被害を受けたといわれているベラルーシは、安全キャンペーンを進めている日本にとてもよく似ています。
<心臓では、体内の放射性セシウム137が多いほど心電図異常が見られ、放射性物質が心筋細胞のミトコンドリアを損傷すると考えられる。動物実験では、ゴールデンハムスターに家畜のエサとして許されているレベルの放射性物質(セシウム137)を含むカラスムギを与えたところ、胎児の40%以上に先天性異常が出現している・・・できるだけ放射性物質を体内に入れない方がいい。>
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◆ 「放射能と妥協して生きることはできない」バンダジェフスキー氏が講演
(2013年7月16日 ネットIBニュース)
チェルノブイリ原発事故後、ベラルーシで放射性物質による健康被害を研究した医師バンダジェフスキー氏の講演会が7月12日、福岡市で開かれた(バンダジェフスキー講演プロジェクト主催、放射能防御プロジェクトなど共催)。約400人が参加した。
バンダジェフスキー氏は、ベラルーシ国内で最大の被害を受けたゴメリ州の州都にあるゴメリ医科大学の学長を務め、子どもたちの健康調査、動物実験、死亡者の解剖を通して放射性物質による健康被害について研究。現在はウクライナで活動している。講演では、汚染地での事例を示して、「さまざまな健康被害が起きている。放射性物質の危険を知ってもらいたい。放射性物質と妥協して生きることはできない。安全な量というものはない」と訴えた。
また、バンダジェフスキー氏は、心臓、腎臓、肝臓などの異常や、女性のホルモン異常や胎児への影響、血液異常などの調査結果を紹介。心臓では、体内の放射性セシウム137が多いほど心電図異常が見られ、放射性物質が心筋細胞のミトコンドリアを損傷すると考えられると述べた。
動物実験では、ゴールデンハムスターに家畜のエサとして許されているレベルの放射性物質(セシウム137)を含むカラスムギを与えたところ、胎児の40%以上に先天性異常が出現したと紹介。「事故から約25年がたち、農業が認められた土地でつくられた作物でも、健康被害を与えるファクターを持っている」と警鐘を鳴らした。
さらに同氏は、「放射性物質の人体への影響を考える際、重要なのはまず(人体が取り込んだ)放射線の量を測ることだ。原子力産業と密接な関係にある政府は、放射線量を厳密に測定することを望んでいないのではないか。被災地にいる人々はどれだけ放射性物質を取り込んだかわからず、体に起きた疾病が放射性物質の影響だと言うことができない。ベラルーシはその顕著な例だ。日本政府の態度は、旧ソ連の対応と似ている。ぜひ人体に蓄積した放射性物質の測定を実施してほしい」と指摘している。
同氏は、EUの援助を受けて、チェルノブイリ原発事故被災地の居住者の健康を守る総合的なプログラムとして、人体と食品の放射能測定、子ども全員の健康調査を実施していると紹介。「このプログラムを日本からぜひ見に来てほしい。ウクライナでやるよりも日本でやる方が意味がある。というのは、ウクライナではすでにたくさんの人が死んでしまったので、予防という意味では日本の方が意味があるからだ」と述べ、「(ベラルーシやウクライナと)同じことが日本のような文明国で起こらないでほしい」と呼びかけた。
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バンダジェフスキー博士を取り上げた報道番組
◆『特命報道記者X 2011』
(2011年12月18日放送 フジテレビ)
番組紹介
“1000年に一度”と言われる未曾有の被害をもたらした「東日本大震災」。原発事故で苦しむ福島については、楽観論から悲観論まで、ありとあらゆる解説がなされる。実際のところ福島の25年後の姿はどうなっているのか?
事故から25年目のチェルノブイリ、汚染区域内外に暮らす人々の食と健康、生活の現状を徹底取材。福島復活への課題を明らかにすると共に、今後どのように原子力と向かい合っていくべきかを考える。
■ウクライナ・ベラルーシ/チェルノブイリ「食と健康」
ベラルーシの汚染地域の畜産農家は、未だに汚染された牛乳の対応に追われていた。また、この一家の大好物である乾燥キノコも、取材班が検査場に持ち込むと、基準を9倍上回る汚染が判明。こうした汚染による内部被曝の影響を調べるため、ベラルーシ政府が手配する病院に向かうが、全員が徹底して「今はもう健康に影響しない」と答える。そこで監視の目を盗んで市内の病院を取材すると、健康被害に関して隠されてきた実態を知ることに…。国家ぐるみの、原子力にまつわる情報統制を目の当たりにする。
ウクライナでは、汚染地出身の孤児が受ける、困難な心臓の手術に密着する。
【動画12:30から 文字おこし】(ブログ「風の谷」より 一部抜粋)
ナレーター:病院を取材したいと言うと、ベラルーシ政府はある病院を手配してくれた。その名も「全国放射線医学人間環境科学実用センター」とものものしい。迎えてくれた医師は、不思議な言葉を口にした。
医師:「この全国放射線医学人間環境科学実用センターは、2002年に新しく建てられました。みな、大統領のおかげです。」
ナレーター:汚染地に住むという患者に話を聞いた。
患者:「私は事故直後の1986年に現場の近くで働いていました。住民が避難した場所で水や植物にどれだけ放射性物質が入っているかチェックしていたんです。」
取材班:具体的にはどこが辛い状況ですか?
患者:「虚血性の心臓疾患と血圧も高く、そして非常に足が痛いんです。」
しかし、医師は
医師:「それらの病気は放射線とは関係ありません。事故の後、彼らにかかった大きなストレスが原因でしょう。」
ナレーター:意外なことに案内してくれる患者のどの症状も放射線とは関係ないという。別の医師に聞いても、
取材班:「ここは放射線病院って看板にも書いてありましたけど、今、放射線とは関係のない病気の人たちばかりなんですね」
医師:「はい、放射線に直接関係はありません。普通の病院と一緒です。」
ナレーター:それは、もはやこの国に、放射線による健康被害はないということなのか。私たちはベラルーシで放射線が体に与える影響について論文(チェルノブイリの子供の食物摂取におけるセシウム137と心臓血管疾患の関係性)を書いている女性医師に聞いてみることにした。
ウクライナ人のコーディネーターに電話をしてもらうと、
女性医師(電話):「事故の後、心臓障害は2倍から2.5倍に増えました。考えられる原因は結局食べ物に含まれるセシウム137のせいなんです。月曜日は午後の勤務なので午前中ならあなたに会えます。ぜひあなたに会って本当のことをお話したい。」
ナレーター:病院で聞いた話とは正反対だった。この女性医師と会い、詳しい話を聞く必要がある。しかし、この時私たちは大きなミスを犯していた。先ほどの電話を、ベラルーシ政府の職員である彼(アンドレイ氏)に聞かれていたのだ。翌朝、再び女性医師に連絡を取ると、
女性医師(電話):「取材は受けられません。」
ナレーター:この国で何が起きているのか。
コーディネーター(電話):「会えないんですか?」
女性医師(電話):「理解できないかもしれないけど、あなたは取材して帰るだけ、私はここで生活しなければ・・・。その代わりウクライナにいる私の夫バンダジェフスキーに聞いてください。夫なら真実を話せます。」
ナレーター:私は無理だが、夫なら会えると告げ、電話は切れた。何かがおかしい。私たちは監視役の運転手をホテルに残したまま、ゴメリ市内の産科病院に飛び込んだ。すると、
セルゲイ医師:「病院を案内します。ここには赤ちゃんの集中治療用の保育器が9個あるんです。」
ナレーター:このセルゲイという医師が案内してくれるという。9つの保育器は全身を管につながれた赤ちゃんでいっぱいだった。
セルゲイ医師:「ここには州全体から先天性障害のある新生児が送られてきます。つまり、このような重病の赤ちゃんが一番多いんです。この子は重大な先天性肺炎と肺出血があります。この子は溶血病があります。」
ナレーター:電話の女性医師は心臓障害が増えていると言っていたが・・
セルゲイ医師:「いますよ、あちらです。」
ナレーター:別室に案内された。
セルゲイ医師:「この子は心房中隔欠損です。今すぐ手術の必要はありませんが心臓の音が異常です。」
ナレーター:先天的に右心房と左心房の間の壁がない重い心臓の病。取材班のコーディネーターが、心臓の音を聞いた。
セルゲイ医師:「心臓がシキシキと打っているのが聞こえるでしょう?そういう欠陥なんです。」
取材班:「どうだった?」
コーディネーター:「変な音がしました。ドキドキと打ってますが、はっきりしていない感じ」
ナレーター:それでも懸命に鼓動を打ち続ける小さな命。
取材班:「多いんですか?こういう人は?」
セルゲイ医師:この病院だけで1年に5人から10人。うち2~3人が手術を受けます。」
女性医師(上司)「そんなの、世界平均と変わらないでしょう!」
ナレーター:突然口をはさんだのは、セルゲイ医師の上司と思しき女性。
女性医師(上司)「最近は新しい機械が導入され妊婦の検査も詳しく行われるようになったので、事故前より多くの病気が見つかるだけで、別に放射線は関係ないんですよ。」
ナレーター:放射線は関係ない。そう繰り返す女性医師の言葉に、たまりかねたようにセルゲイ医師は、
セルゲイ医師:「この病院には州全体の危険な患者たちが集中するとはいえ、正常な赤ちゃんは全体の2%しか生まれません。」
ナレーター:正常な赤ちゃんが2%しか生まれない。危険な母子が集まる病院だとしても日本では考えられない数字だ。つまりそれが放射線の影響ということなのか。
セルゲイ医師:「私の主観では、放射線はもちろん子どもたちに大きな影響を与えています。放射線を浴びれば免疫は弱くなるんだ。」
ナレーター:それが、この国で数え切れない赤ちゃんを取り上げてきた医師の実感なのか。
セルゲイ医師:私たちは女性の子宮内に蓄積したセシウムの量を測ったことがあります。日本の信州大学との協力でした。もちろん通常よりも多いセシウムが発見されており、これから胎児への影響を詳しく調べます。」
ナレーター:セルゲイ医師が言うプロジェクトに医師として参加した長野県松本市の菅谷市長。取材した映像を見てもらうと、
菅谷市長:「あ、彼ね。よく、この先生言ってくれたなあ・・・」
ナレーター:菅谷氏がセルゲイ医師を心配するにはわけがある。
菅谷市長:「ベラルーシで原発を作るんですね。ルカシェンコ大統領は原発を作るのであれば、できるだけ原発の悪口を言わないようにと箝口令を敷いて・・」
ナレーター:確かに独裁者と言われるルカシェンコ大統領は原発の建設を急いでいた。セルゲイ医師は、そんな中、危険をおして語ってくれたのか。
取材班:「何で皆、ベラルーシで障害があることを隠そうとしている?」
セルゲイ医師:「それがこの国のシステムだからさ。僕には聞かないで欲しい。」
ナレーター:帰り際、一人の(同病院の)女性医師がこんな言葉をかけてくれた。
(同病院の)女性医師:「バンダジェフスキー氏を訪ねて下さい。彼なら真実を話してくれます。」
ナレーター:バンダジェフスキー。その名前には聞き覚えがある。突然電話で取材拒否を告げた女性医師が「彼なら話せる」といった夫の名だ。急遽私たちはウクライナ、キエフにもどった。この街に目指す人物がいる。
(イヴァンキヴ病院)
ユーリー・バンダジェフスキー博士。かつてゴメリ医科大学の学長をつとめた程の人物だが、
バンダジェフスキー博士:「今の私は国外追放の身です。」
ナレーター:彼は1999年汚職容疑で逮捕された。政治的、意図的な冤罪だとして海外の人権団体が猛烈に抗議、5年の服役の後、海外で研究活動を続けている。
その逮捕の直前に発表されたのが、汚染地で亡くなった人の臓器を取り出し、セシウムの量を調べた、世界でも唯一のこのデータだ。
黒は大人、灰色は子ども。様々な臓器に溜まったセシウムの量の中で、注目は1番の心臓。特に子供から600bqを超える高濃度のセシウムが検出されている。
さらにこのグラフは
臓器にセシウムの量が多ければおおいほど、心電図が正常な子が少なくなるのを示している。
臓器が74Bqから100Bq汚染されると、心電図が正常な子どもは1割程度しかいない。
バンダジェフスキー博士:「驚かせたくはないのですが、すでに日本の子どもの心臓から、20~30Bq見つかっています。これからも、まだまだ増えるでしょう。