子どもの甲状腺がん50人 疑い39人 リンパ節転移が多数

子どもたちが何人甲状腺がんになっても「被曝の影響は考えにくい」で済ませてしまう福島県と国。そして、そのコメントをそのまま報道するマスメディア

甲状腺がんと福島原発事故の関係を認めるのに何年かかるのだろうか?

チェルノブイリ原発事故の後、IAEA(国際原子力機関)などが原発事故と甲状腺がんの因果関係を認めたのは事故から10年後だった。それと同じことが福島原発事故でも繰り返されている。

安倍首相は、オリンピック誘致のプレゼンで福島原発事故の影響について質問されたとき、「健康問題については、今までも現在も将来も全く問題ないと約束する」と信じられないことを世界にむけて公言した。

安倍首相「健康問題については、今までも現在も将来も問題ないと約束する」

しかし現実は、放射能汚染地の子どもたちに病気が急増している

心疾患死亡に関する人口統計において、福島県の心疾患死亡率が全国1位(原発事故前年の8位から1位)になっている。

福島と周辺県の心疾患死亡率が増加

     2010年度  2011年度  増加率   
福島   197.6   226.0   14.4%  
宮城   141.3   160.0   13.2%  
茨城   150.1   165.9   10.5%  
岩手   202.6   219.3    8.2%  

全国平均 149.7  154.4    3.1% 

*2011年度は、2011年4月~2012年3月 

心疾患死亡率 2011年と2012年度の比較
(秋田県が公開したデータ)

また、心疾患につながる心電図の異常が放射能汚染地の子どもに増えている。

児童、生徒の心電図異常増加…茨城
(2013年1月4日 読売新聞)から抜粋

 茨城県取手市の市立小中学校の学校検診で、心電図に異常がみられる児童、生徒の数が、昨年度から増加していることが、生活クラブ生協取手支部など市内3団体の調査でわかった。検査は小中学校の1年生に実施し、毎年度5月に1600~1700人が受診。精密検査が必要とされた子供は、2010年度までは最高で1・79%だったのが、11年度は2・38%12年度は5・26%になった。

 また、精密検査で疾患や異常が見つかった子供は、10年度までは最高0・71%だったが、11年度は1・28%12年度は1・45%だった。ただし、12年度は「要精密検査」とされながらも、公表時点で受診していない子供が3分の1以上おり、3団体は「受診者が増えれば数値が上がる可能性がある」とみている。

そして、子どもたちの甲状腺がんが激増している。

チェルノブイリも福島も、事故の翌年から小児甲状腺ガンが増加

(2012年9月11日) 1人が甲状腺がんと判明 
(2013年2月14日) 2人増え、3人が甲状腺がん+「がんの疑い」は7人
(2013年6月05日) 9人増え12人が甲状腺がん+「がんの疑い」は15人
(2013年8月20日) 6人増え18人が甲状腺がん+「がんの疑い」は25人
(2013年11月12日)8人増え26人が甲状腺がん+「がんの疑い」は32人
(2014年02年07日)7人増え33人が甲状腺がん+「がんの疑い」41人
(2014年05月19日)17人増え50人が甲状腺がん+「がんの疑い」39人

通常、子どもの甲状腺がんは100万人に1~2人 
 福島県の子どもの甲状腺がんは約36万人で50~89人
 つまり福島では、100万人に140人~250人(通常の100倍以上)

福島県立医大の鈴木真一教授は、マスコミに対して毎回のように「チェルノブイリ原発事故では最短で4年後に発症が増加している」から福島県の甲状腺がんは、原発の影響ではないと発言し、マスコミもその言葉をそのまま記事にしているが、ベラルーシの統計では事故の翌年から毎年増えている

ベラルーシの甲状腺がん増加データ(86?2000)

77年から97年 ベラルーシの子どもの甲状腺がんの数
(「原発危機を考える」より)


18歳以下1人が甲状腺がん 福島健康調査8万人分析
放射線の影響は否定

(2012/09/11 共同通信)から抜粋

 福島県立医大の鈴木真一教授は「チェルノブイリでも甲状腺がんは(発生まで)最短4年。福島では広島、長崎のような外部被ばくや、チェルノブイリのような内部被ばくも起きていない」と述べ、放射線の影響を否定した。

発足当初から「秘密会」などを開いて信頼を失った福島県の「県民健康管理調査」検討委員会は、子どもたちに甲状腺ガンが見つかり始めたときから一貫して、「被ばくの影響は考えられない」と原発事故の影響を否定し続けている

福島健康調査で秘密会 県、見解すり合わせ 会合シナリオ作る
 (毎日新聞 2012年10月3日)

「秘密会」に対する批判を浴びて、検討委の座長を辞任した山下俊一教授に代わって甲状腺がん調査の中心人物となった鈴木真一教授は、「他県に比べ異常な数値は出ていないのか」という問いに対し「他県も同じような割合だ」と答えている

しかし、実際の統計はそうではない。
2006年の統計で、甲状腺がんと診断された20歳未満の人は【全国で46人】 
一方、2013年2月発表から2014年2月発表までの1年間で【福島県で32人】も見つかっている。(全国の70% 福島県の人口は全国の1.6%)
もしも本当に「他県も同じ割合」だったら、全国の20歳未満の甲状腺がんは46人ではなく2000人(2000×0.016=32人)になる。


「福島の小児甲状腺がん多発は統計的有意」津田敏秀・岡山大学教授
(2013年7月3日 My News Japan)から抜粋

福島県避難区域の子どもたちへの甲状腺検査で38,114人中10人の甲状腺がん(3人確定7人疑い)が見つかった。「疑い」は「10%の偽陽性=確定率9割」とされ、計9.3人となる。日本での小児甲状腺がんの発生率は年間100万人中1人で、単純比較で262倍。潜伏期間7年(今回の調査で7年間分のがんを見つけた)としても37.48倍だ。疫学エキスパートの津田敏秀・岡山大学教授は、これら様々な分析を行った上で「がんの潜伏期を考慮しても顕著な多発が起きている」「原因が被曝でないとすれば、原因不明の多発が起きている」とし、極端に甘い条件を当てはめない限り、統計的有意差は消えない、と結論付けた。

津田敏秀教授「小児甲状腺がんと被ばく 因果関係を否定できず」


すでにチェルノブイリ以上のペースで子どもの甲状腺がんが増加し続けているが、もしも安倍首相が、「公言した約束」を守るために、2020年の東京オリンピックが終わるまで因果関係を認めず、「福島県健康調査は不十分」と指摘している国連報告書を無視したり、被ばく対策が不十分なままに事態が推移したとき、健康被害はどれほど拡大するだろうか?

福島県の「県民健康調査」検討委員会が5月19日に開かれ、甲状腺がんであることが「確定」した子どもは前回(2月)の33人から17人も増えて50人になり、「がんの疑い」39人を合わせると「悪性ないし悪性疑いは89人」になった。

福島県民健康調査 甲状腺がん 確定50人疑い39人

それでも検討委の星北斗座長は、チェルノブイリ原発事故では事故から4~5年後に子どもの甲状腺がんが急増したというデータを基に「現時点では放射線の影響は考えにくい」と、これまでの見解を繰り返した。

それでは何が原因で、多数の小児甲状腺がんが見つかっているのか――検討委や政府は、スクリーニング効果(症状が現れていないのに多数を検査したからたくさんのガンが見つかった)と言っている。 それも増えた理由の一つであることは否定しないが、それだけでは説明がつかないほど異常な増え方をしている。

特に心配なことは、チェルノブイリと同様に甲状腺がんがリンパ節に転移している子どもが多いことだ。このことは、チェルノブイリ原発事故で汚染されたベラルーシのデータにもはっきりと現れている。

ベラルーシでのリンパ節への転移グラフ
(菅谷昭(医師、長野県松本市長)著 『原発事故と甲状腺がん』より)

ベラルーシでは、リンパ節への転移が14歳以下の子どもの3分の2に現れており、肺への転移も6人に1人の高率で現れている。(私がベラルーシで出会ったナターシャさんは、2人の子どもをガンで亡くしているが、息子さんは甲状腺がんが肺に転移して亡くなっている


福島、がんの転移数公表求める 子どもの甲状腺検査で
(2014年6月10日 東京新聞)から抜粋

東京電力福島第1原発事故の放射線による影響を調べている福島県は10日、子どもの甲状腺検査に関する評価部会を福島市で開いた。甲状腺がんの子どもが50人に上ることに関し、出席した専門家は過剰治療ではないかと指摘、検査を進める福島県立医大に対し、がんの転移があった人数などのデータを出すよう求めた。

 甲状腺検査は、震災時18歳以下の約37万人が対象。これまでにがんと診断が確定した子どもは50人、がんの疑いは39人に上る。


リンパ節転移が多数 福島県の甲状腺がん
 (2014年6月10日 ourplanetTV)から抜粋

(福島原発事故による)健康影響を調べている福島県民健康調査の検討委員会で10日、甲状腺がんに関する専門部会が開催され、スクリーニング検査によって、多数の子どもが甲状腺手術を受けていることについて、前回に引き続き過剰診療につながっているかどうかで激論となった。議論の過程で、手術している子どもに、リンパ節転移をはじめとして深刻なケースが多数あることが明らかになった。
 
手術を実施している福島県立医大の鈴木真一教授は、「過剰診療という言葉を使われたが、とらなくても良いものはとっていない。手術しているケースは過剰治療ではない」と主張。「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」として、放置できるものではないと説明した。
 
渋谷教授が「リンパ節転移は何件あるのか」と追及すると、鈴木教授は「取らなくてよいがんを取っているわけではない」と繰り返しつつも、「リンパ節転移の数は、ここでは公表しない」と答えた。
 
こうした議論を受けて、日本学術会議の春日文子副会長は、現在、保健診療となっている2次検査以降のデータについても、プライバシーに配慮した上で公表すべきであると主張。また1次データの保存は必須であると述べた。
 
これについて、広島県赤十字病院の西美和医師も「部会として希望する」と同意。また、渋谷教授もデータベースを共有する必要があるとした。座長の清水教授もその必要性を認めたため、次回以降、手術の内容に関するデータが同部会に公表される方向だ。

 

問題なのは、甲状腺がんとその転移や心臓病だけではない。様々な病気が放射能汚染地で増えている。チェルノブイリ原発事故から26年後を取材したNHKでも詳しく説明している。

チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告
「第2回 ウクライナは訴える」
(NHK ETV特集)

2011年4月、チェルノブイリ原発事故25周年の会議で、ウクライナ政府は、汚染地帯の住民に深刻な健康被害が生じていることを明らかにし世界に衝撃を与えた

チェルノブイリ原発が立地するウクライナでは、強制避難区域の外側、年間被ばく線量が5ミリシーベルト以下とされる汚染地帯に、事故以来26年間、500万人ともいわれる人々が住み続けている。

公表された「Safety for the future未来のための安全」と題されたウクライナ政府報告書には、そうした汚染地帯でこれまで国際機関が放射線の影響を認めてこなかった心臓疾患や膠(こう)原病など、さまざまな病気が多発していると書かれている。

特に心筋梗塞や狭心症など心臓や血管の病気が増加していると指摘。子供たちの健康悪化も深刻で2008年のデータでは事故後に生まれた子供たちの78%が慢性疾患を持っていたという。報告書は事故以来蓄積された住民のデータをもとに、汚染地帯での健康悪化が放射線の影響だと主張、国際社会に支援を求めている。

また、チェルノブイリ原発事故から28年後を取材した独立系メディアourplanet-TVの映像報告「チェルノブイリ・28年目の子どもたち(2014年4月25日公開)も低線量長期被ばくの影響を詳しく伝えている。

東北や関東には、「チェルノブイリ法」で定められた年間0.5~1ミリシーベルトの「放射線監視地域」と、1~5ミリシーベルトの「移住(避難)の権利がある地域」に相当する汚染地域がたくさんある。そして、チェルノブイリ法では、そこに住むことが禁じられている年5ミリシーベルト以上の汚染地域に、今も多くの人々が暮らし続けている。

クリアな関東汚染地図・小出講演

小出裕章氏(京大原子炉実験所)「この青のところは、少なくても6万ベクレルを超えて汚れている。その周りのくすんだ緑のところだって、3万ベクレルから6万ベクレル汚れている。大地がみんな汚れている。メチャクチャな汚染だと私は思います。

福島県の東半分、
宮城県の南部と北部、
茨城県の北部と南部、
栃木県・群馬県の北半分、
千葉県の北部、埼玉県・東京都の一部、
あるいは新潟県の一部であるとか、岩手県の一部

そんなところまでが放射線の管理区域にしなければいけない、というほどの汚染を受けているのです。何度も言いますが、放射線管理区域というのは、私のような特殊な人間が特殊な仕事をする時に限って入ってよいという場所なのです。 普通の人は入ってはいけないし、子どもなんていることは、到底許されないという場所がこんなに広がっているということです」(全文はコチラ

小出さん・放射線管理区域・日本地図

こうした年5.2ミリシーベルト以上の「日本の放射線管理区域」よりも汚染レベルが低い(0.5~5ミリシーベルト)ウクライナのコロステン地区にある第12学校(小中学校)では、チェルノブイリ原発事故後、体育の授業を健康診断の結果に応じて4つのグループに分けるようになった。

645人の生徒のうち健康な子どもが参加する基本グループは157人(24%)、配慮が必要な子どもが参加するグループは385人(60%)、慢性的な疾患を持つ特別グループの子は90人(14%)、障害などがあり、体育を免除されている子どもは13人(2%)。体育の時間に突然死する子どもが増えたため、2年前から保健省が心肺機能を測定している。

チェルノブイリ原発事故で汚染されたウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3つの共和国では、事故から5年後に「チェルノブイリ法」が制定された。

チェルノブイリ法」では、年間被ばく線量が0.5ミリシーベルト(土壌汚染が37kベクレル/m2)以上の地域で、医療政策を含む防護対策が行われる。1ミリシーベルト以上であれば、避難の権利があり、5ミリシーベルト以上の地域は、移住の義務がある

チェルノブイリ法の避難基準

日本でも2011年10月に5ミリシーベルト以上の地域は、避難(移住)させようとしたことがあったが、賠償額の増加を恐れて断念したままになっている。

福島の帰還基準、避難者と賠償額の増加を恐れて「年5ミリ」とせず

原発事故で避難した住民が自宅に戻ることができる基準を「年20ミリシーベルト以下」から「年5ミリシーベルト以下」にする案を政府が検討したが、避難者が増えることを懸念して見送っていた。

「多くの医者と話をする中でも5ミリシーベルトの上と下で感触が違う」と5ミリ案を検討。チェルノブイリ事故では、5年後に5ミリの基準で住民を移住させた。年換算で、5.2ミリ超の地域は 放射線管理区域に指定され、原発労働者が同量の被曝で白血病の労災認定をされたこともある。ところが、5ミリ案は実行されなかった。「20ミリ案は甘く、1ミリ案は 県民が全面撤退になるため、5ミリ案を検討したが、避難者が増えるとの議論があり、固まらなかった」 「賠償額の増加も見送りの背景にある」(2013年5月25日 朝日新聞)から要約

記事全文

こうして日本には、年間5ミリシーベルト以上でも避難させる法律がなく、1~5ミリシーベルトのエリアにも避難の権利がないまま放置されている。そして、心臓病が増えても子どもたちの甲状腺がんが激増しても「放射能の影響とは考えられない」で済ましている

もしも、安倍首相や政府が今後も「健康問題については、今までも現在も将来も全く問題ない」という態度を取り続けた場合、最大の犠牲者が子どもたちであることは間違いないだろう。

原発を輸出するため、原発を再稼動させるため、原発事故の被害を小さく見せたいため、被害者への補償額を少なくするため、「復興」のため、オリンピック開催のため・・・被害を直視せず、子どもたちの健康や生命を軽視し続けている

安倍首相や政府が憲法の解釈を変えたり、改憲してまで「自衛」しようとしている「国」とは、何なのか。最も大切な「子どものいのち」すら守らない「国防」に何の意味があるのか。

最後に、ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士の言葉をかみ締めたい。
チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは市民の声で実現されました。核事故の歴史は関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束して事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも、早急な防護基準の見直しが必要です
地球の子ども新聞 2012年11月号)

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