【原発の不都合な真実】原発は温暖化対策に役立たない
この世界には、はるかに有効な二酸化炭素の排出削減政策がたくさんある
(2011/08/11 共同通信)
日本の原子力推進派の主張にはさまざまな事実誤認がある。その一つは「原子力発電の推進が地球温暖化対策に欠かせない」という主張だ。1997年、気候変動枠組み条約の第3回締約国会議で採択された京都議定書で、日本は2008〜12年までの平均で温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減するという義務を負った。その直後に通商産業省(当時)が国の政策として打ち出したのが「原発20基の増設」という目標だった。
民主党が打ち出した「2020年までに1990年比で25%削減」という目標達成を視野に入れて昨年6月にまとめられたエネルギー基本計画にも「2020年までに9基、30年までに計14基の原発を新増設する」との文言が盛り込まれた。地球温暖化問題が深刻化し、温室効果ガスの排出削減の必要性が叫ばれるようになって以来、原子力は日本の温暖化対策の中で中心的な位置を与えられ、これが「国策」として原子力を推し進める重要な根拠とされた。
2000年以降、東北電力女川原発3号機、東通原発1号機など新規の原発が運転を開始し、電力供給に占める原子力の比率も徐々に高まったのだが、グラフからも分かるように日本の二酸化炭素排出量の増加には歯止めがかからなかった。逆にこの間、排出量を大きく減らしているのは、ドイツ、デンマーク、スウェーデンなどで、いずれも原発の新増設などに頼らずに、温暖化対策を進めている国である。
グラフにある8カ国の中で、原発建設を強力に進めている唯一の国である日本の排出量だけが目立って増えていることが分かる。このことは、原発頼みの日本の温暖化対策が完全に失敗していることを示している。逆に言えば、この世界には原発に頼ることよりも、はるかに有効な二酸化炭素の排出削減政策がたくさんあるということだ。
排出量を大幅に減らしている3カ国に共通している政策は、二酸化炭素の排出量に応じて課税する炭素税やエネルギー税の導入、強力な再生可能エネルギー導入支援政策、厳しい省エネの義務づけといったエネルギーの需要と供給、両面からの多彩な政策である。日本ではこのところ普及が停滞しているコージェネレーション(熱電併給)などの「熱」利用の効率化のために強力な規制を導入している点も共通している。3カ国とも自然エネルギーの電力の固定価格制度を導入していて、大規模水力を含めた自然エネルギーが電力に占める比率はドイツが18%、デンマークが29%、スウェーデンに至っては56%という高さである。
3カ国ともグラフから分かるように二酸化炭素の排出量は減らしているが、この間にきちんと経済成長を続けている。過去20年間、ほとんど経済成長をしていないのに、電力消費量と二酸化炭素の排出量だけが急増している日本の状況は明らかに異常である。
つまり、原発の新増設を進めるよりも、規制を強化して省エネを進め、風力や太陽光、バイオマス発電などの自然エネルギーを進め、原発では温排水として単に海に捨てているだけの廃熱を有効利用する方が、はるかに有効な温暖化対策になるのだ。
自然エネルギーの拡大や熱の有効利用のためには、電力や熱の消費地に近い場所で、小規模分散型の発電設備で電気を作り、その時に出る熱も有効に利用するということが必要になる。このような小規模分散型のエネルギー総合供給システムの方が、大規模集中型の発電システムに比べてはるかに効率的な上、コストも安い。
例えば、ドイツの電気料金は家庭用の場合は、炭素税などのために日本より10%ほど高いが、産業用電力は日本の3分の2という安さである。省エネが進めば需要家は、電気料金やエネルギーコストの削減によって長期的に利得があるのだが、原発の建設は省エネの動機づけとはなり得ない。しかも、今回の東京電力福島第1原発の事故の結果、明らかになったように、電力の安定供給という点からも、小規模分散型のシステムの方が、大規模集中型に勝っているのである。
自然エネルギーの拡大が、原子力の拡大よりも効率的な二酸化炭素排出削減対策であることは今年の5月に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した特別報告書の中でも指摘されている。
大規模集中型の原子力発電を集中的に立地することに頼ってきた日本の誤ったエネルギー政策と温暖化対策の中で、小規模分散型の効率的なエネルギーの総合供給システムは顧みられず、原発建設に多大なコストを投じたために、エネルギーの需要と供給のシステムを改革するのに必要な「機会費用」も奪われた。この結果、日本は、自然エネルギーの開発や省エネの推進で他の先進国に大きく遅れを取った。世界で急速に拡大している自然エネルギー関連ビジネスでの日本企業の立ち遅れは深刻だ。原発依存の日本の二酸化炭素排出削減政策の弊害は大きい。(共同通信編集委員 井田徹治)
・
◆【核のごみ対策】 原発再稼働の条件に 日本学術会議が国に提言へ 「将来世代に無責任」
(2015年2月15日 共同通信)
学術の立場から国に政策提言など行う日本学術会議( 大西隆 (おおにし・たかし) 会長)が、原発から出る「核のごみ」対策を政府と電力会社が明確化することを原発再稼働の条件にすべきだとする政策提言案をまとめたことが14日、分かった。17日に同会議の検討委員会で議論し、3月にも正式に 公表する予定で、世論形成や国の政策に一定の影響を与えそうだ 。
学術会議は2012年にも「核のごみ」政策の抜本的見直しを提言しており、あらためて政府に改善を促す異例の対応。 高レベル放射性廃棄物 の処分問題に進展がないまま再稼働を進める国の姿勢を「将来世代に対する無責任」と批判しており、新増設も容認できないと強調している。
政策提言案は「国、電力会社、科学者に対する国民の信頼は東京電力福島第1原発事故で崩壊した状態で(核のごみの)最終処分地の決定は困難」と指摘。信頼回復や国民の合意形成、科学的知見を深めるため、地上の乾式貯蔵施設で原則50年間「暫定保管」することを提案した。次の世代に迷惑をかけないため、保管開始後30年をめどに処分地の決定が重要としている。
さらに負担の公平性の観点から「暫定保管の施設は原発立地以外での建設が望ましい」とし、各電力会社が責任を持って管内に最低1カ所、施設を確保する計画の作成を再稼働の条件として求めている。
また、合意形成のために市民も参加して議論を深める「核のごみ問題国民会議」を設置する必要性を強調。再稼働で生じる放射性廃棄物の抑制や上限設定など「総量管理」についても議論すべきだとしている。
国は現在、放射性廃棄物を地下深くに埋める「地層処分」を前提に「科学的な有望地」を提示した後、複数の候補地に調査受け入れを要請する方針だが、受け入れに前向きな自治体が見つかる見通しは立っていない。
(共同通信)
・
◆原発廃炉問題:日本は自由化後に試練 収入不安定化リスク
(2015年2月14日 毎日新聞)から抜粋
シェール革命の恩恵を受ける米国で原発の廃炉が続いているが、電力販売の完全自由化を控える日本でも、自由化後の原発をどうするかは重要な課題だ。原発は建設開始から発電までに10年程度かかる上、建設などの初期投資は5000億円規模に上る。長期間にわたって安定した料金収入を得られないと、電力会社の経営基盤が揺らぎかねない。電力自由化で価格競争が進むと、事業リスクの大きい原発が敬遠され、手掛ける電力会社が限られるとの見方もある。【中井正裕】
現在は電力会社が原発に巨額の投資をしても、電気料金で回収できる。原発を含む事業コストに一定の利益を上乗せして電気料金を決める「総括原価方式」という規制で守られているからだ。しかし、2016年に電力小売りが自由化され、20年をめどに総括原価方式が廃止されると、料金で回収できる保証はなくなる。
一方で原発は、事故やトラブルで長期停止したり、規制強化で安全対策費用が膨らんだりするリスクも抱える。金融機関が融資を尻込みすれば、原発からの撤退を検討する電力会社が出てくる可能性もある。
このため、経済産業省は昨年、電力自由化後の原発政策として、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)に似た制度を原発に導入する案を示した。
原発で発電する電力の販売価格をあらかじめ決めておき、実際に電力市場で取引される価格がそれを下回った場合、差額分を電気料金に上乗せして利用者から回収する仕組みだ。英国が13年に導入した制度をモデルにしている。
ただ、「原発版FIT」の価格が高すぎると、企業や家庭の反発を招くのは必至だ。英国の買い取り価格は1キロワット時当たり16.65円(1ポンド=180円換算)で、日本政府が11年に試算した原発の発電コスト「8.9円以上」を大幅に上回る。石炭や液化天然ガス(LNG)火力より割高になる計算だ。反原発派だけでなく、産業界でも「原発稼働のために電気代が上昇すれば本末転倒」との警戒感が根強い。このため政府内では、原発建設コストの最大8割を政府が債務保証する米国の制度を導入することも検討されている。
政府は原発や再生エネなど電源ごとの発電比率を示す電源構成(エネルギーミックス)を今夏までに策定する方針で、原発依存度を15〜25%とする方向だ。中長期的に一定の原発依存度を維持するため、老朽原発を廃炉にする代わりに、敷地内での建て替え(リプレース)を容認する可能性が高い。
ただ、その裏付けとなるはずの原発推進策の具体化は、「誰がどのぐらい原発のコストを支払うか」の難題に関わるため、検討は後回しにされている。