人間は多様な生き物と自然の恵みのおかげで生きている 毎日新聞
(写真)自然食品のセレクトショップとしてオープンしたおかげさま市場
◇人々の思いをつないでいく「エコマーケット」に
◇「おかげさま市場」国際生物多様性の日に本格オープン
国連が定める「国際生物多様性の日」の5月22日、東京都国分寺市の「カフェスロー」の隣に「おかげさま市場」が本格オープンしました。大手の流通ルートに乗らない食材を主に集めた、いわば自然食品のセレクトショップ。カフェスローの空間も合わせて地域の人々が集う「エコマーケット」にしようという試みです。【文と写真・明珍美紀】
(写真)おかげさま市場のスタッフら。店頭には有機栽培の野菜が並ぶ。
「私たちは、微生物や動植物など多様な生き物と、太陽や水などの自然の恵みのおかげで生きている。おかげさま市場という名前には、そんな意味を込めている」と共同代表の吉岡淳さん(62)は説明します。
東京の郊外、JR国分寺駅南口から徒歩約5分。約35平方メートルのショップには、野菜や果物の生鮮品や豆腐、納豆、乳製品など約200種の食材などが並びます。
お米では、“伝説”の米「さわのはな」があります。山形県で1960年に誕生した銘柄で、冷めても粘り気があって食味もいいお米ですが、「収量が少ない」などの理由で生産が減少。そこで農家の有志が原種の栽培に乗り出し、90年代末に復活しました。店では新庄市の農家が育てる無農薬、無化学肥料の「さわのはな」(玄米、3キロで2346円)を置いています。
北海道中札内村の「想いやりファーム」で生産される「想いやり生乳」(720ミリリットルで1050円)も目玉商品の一つ。搾ったままの自然な牛乳で、牧場で牛が食べるのは無農薬、無肥料の自家産の牧草です。飲んでみるとすっきりとした味わいでした。
大分県湯布院町の「由布院・うらけん牧場」のチーズやヨーグルトなどもあり、「いずれも効率優先、激しい価格競争の流れに惑わされず、その地域に根ざしている。まずはこうした食べものの存在を知ってもらいたい」と吉岡さんは言葉に力を込めます。
(写真)トークを行なう中村隆市さん(右)、辻信一さん(中央)、島村菜津さん
母体となるカフェスローは、スローライフを目指す有志で結成した環境文化NGO「ナマケモノ倶楽部」の活動拠点として01年春、東京都府中市に開店しました。同NGOは、環境活動家のアンニャ・ライトさん(42)らが共同代表となり、世話人には吉岡さんや明治学院大国際学部教授の辻信一さん(57)、福岡県でフェアトレード(公正貿易)事業を行う「ウインドファーム」代表の中村隆市さん(54)らがいます。
地域の人々が交流する「コミュニティーカフェ」を目指して運営していたところ、建物がマンションに建て替えられることになり、国分寺市に移転。新カフェスローが08年6月にスタートしました。もとは工場の廃屋を改装し、作業のときは誰でも参加できるワークショップ形式にして、わらや珪藻土(けいそうど)など自然素材の内装を施しました。
(写真)島村さんがセレクトした浦部農園の古代米や道南伝統食品協同組合(北海道)の「焼き昆布」など
おかげさま市場も同様にわらを使ったエコ内装で、廃材を再利用した棚を設置。また、今回、取りそろえた商品には、群馬県藤岡市にある浦部農園の古代米などノンフィクション作家の島村菜津さんが選んだものや、中村さんが校長を務める「スロービジネススクール」(SBS)の生徒らが起業し、開発や販売を手がける食材も。熊本県水俣市の甘夏ミカンの花を原材料にした化粧水「ネロリ花水」もあり、甘夏の生産者は、水俣病被害の語り部の杉本雄さんです。妻の栄子さん(故人)と長年、無農薬栽培に取り組んできました。
(写真)敷地内にはカフェスローのほかパン工房などがある。おかげさま市場が加わり、全体が「エコマーケット」の雰囲気に
カフェスローにはギャラリーが併設され、同じ敷地には、天然酵母パン工房の「アチパン」や、NPO法人「自然育児友の会」の事務局もあります。
「その土地にはそれぞれの気候や風土、特性を生かした食材をつくり出す力がある。これからはグローバルからローカルへと意識を変えることが必要」と辻さん。人々の思いをつないでいくのが、カフェであり市場です。
◇問い合わせ先
●「おかげさま市場」東京都国分寺市東元町2の20の10 電話042・312・4414 火曜休み。