『毎日フォーラム 日本の選択』(毎日新聞) 「しあわせの経済」世界フォーラム

『毎日フォーラム 日本の選択』(2018年12月 毎日新聞) 
「しあわせの経済」世界フォーラム

東京で開催 広がるローカリゼーション運動
「グローバルからローカルへ」を合言葉に、各国の環境活動家や思想家らが地球の未来について話し合う「『しあわせの経済』世界フォーラム」が11月、東京都港区の明治学院大学で開かれた。食やエネルギーの自給など地域の中で循環経済を構築し、持続可能な社会をつくろうという市民主体のローカリゼーション運動の一環だ。

「世界どこでも際立っている危機的状況は気候変動です」「私たちが直面する数多くの危機の根っこが、経済システムにあることは明らかです」―。

フォーラムの冒頭、主催団体の一つで英国のNGO(非政府組織)「ローカル・フューチャーズ」代表のヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん(72)のメッセージが紹介され、環境と経済に大きな問題点があることが指摘された。

 スウェーデン生まれのホッジさんは、言語学者としてインドのラダック地方を訪れ、自給持続的な暮らしを営む人々の姿から、「心豊かに生きることを学んだ」という。1970年代半ばからラダックの伝統文化や環境を保全するプロジェクトに取り組み、著書「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」は世界約40カ国で翻訳出版された。ドキュメンタリー映画「幸せの経済学」の監督を務め、ローカリゼーション運動の先頭に立っている。

 最初の登壇者は、英国のReconomy(レコノミー)プロジェクトの提唱者、ジェイ・トンプトさん(58)。レコノミーは造語で、ローカル経済の再生を目指した活動だ。米国出身のトンプトさんは、地域の力を生かしたまちづくりを目指す「トランジション」運動発祥の地、英南西部のトットネスに2011年に移り住んだ。住民によるワーキンググループの一つとして、同プロジェクトを始動した。

 まずは地域の経済状況について、食、エネルギー、住宅、医療健康の四つの分野について調べたところ、「ほとんどがロンドンか、海外資本のものを消費していた」。学校のカフェテリアの食材を地場産に切り替えるよう自治体に働きかけるなど行動を起こした。地元での起業を目指す人々のための拠点を設け、サポートする仕組みをつくった。

 「だれもが地域で生き生きと働けるようになれば、強いローカル経済が生まれる」と指摘した。
 「彼は確実に変化を起こしてくれる」。一方、メキシコから来日した生態学者、パトリシア・モゲルさん(62)は、新大統領のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール氏への期待を口にした。同氏は、元メキシコ市長で、「国家再生運動」(Morena)の党首。選挙戦では、汚職や治安悪化への市民の不満などが得票に結びついた。

 「メキシコでも1980年代以降、新自由主義の波が押し寄せた。通信、鉱山、石油などの民営化が進み、貧富の差が増大した。市民主体の政治を取り戻したい」

 祖父と父が先住民族というモゲルさんは、貧困地域の先住民族らが設立した「トセパン協同組合」の人々と交流を重ねる。トセパンは「共に働き、話し合い、考える」の意。「先住民族が生活する場所は、生物多様性の豊かな地域。彼らは農薬を使わず、樹木との混植でコーヒー豆を栽培する森林農法を手がけている」

 トセパンには、22地域の計約3万5000世帯の組合員が加盟する。生態系を守ろうと鉱山開発に反対するリーダーが弾圧されるなど、先住民族は苦難の道を歩んできた。「私たちは、先住民族の知恵から学び、自然と共生する社会をつくっていかなければならない」と訴えた。

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