放射線による内部被ばくについて

放射能対策として参考になると思うので、転載します。

===============転送転載歓迎========

放射線による内部被ばくについて:津田敏秀・岡山大教授

BY TANAKA ON 2011年3月21日
記事の引用・転載(二次使用)は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
※あくまでコメント時の状況に基づいています。ご注意下さい。

津田敏秀(つだ・としひで)教授 
岡山大学大学院環境学研究科(疫学、環境疫学、臨床疫学等)

※津田教授は、お忙しい中で沢山の解説を書いて下さいました。
全てを一度に掲載すると長くなりますので、前提となる議論部分をは下記に公開しました。
先にこちらをお読み頂くことをお勧めします:
「リスクコミュニケーションの前提議論:津田敏秀・岡山大教授」

※なお、津田先生も急ぎ書き上げて下さったため、ご本人の推敲の結果、この稿は後ほど再度編集する可能性もございます。御了承下さい。

Q.「内部被ばく」とは何ですか?

被爆には外部被曝と内部被曝の2種類があります。外部被曝は放射線源(放射性物質)が体の外にある時で、代表例は医学診断の際のレントゲン検査です。

内部被曝は、何らかの理由で放射線源が体内に取り込まれた時に起こるものです。環境汚染物質の体内への取り込みは、主に口から食べ物と入る(「経口曝露」と言います)、口・鼻から吸い込む(「経気道曝露」と言います)、皮膚から入る(「経皮曝露」と言います)に分類できます。ただし皮膚からの取り込みは正常な粘膜からでも生じえるとは思いますが、皮膚粘膜が傷ついている場合に大きくなります。

経口曝露と経気道曝露は、通常の日常生活で起こります。経気道曝露は保護具を付けるとか部屋に出来るだけこもるとかの方法もありますが逃げないとなかなか防げません。しかし経口曝露は食品衛生法によりある程度守られ、情報が入れば口に入れないことも出来ます。

体内に入った放射性物質は、化学的性質により、体内の特定の組織に結合することがあり、局所的に被曝量が大きくなります。代表例は、放射性のヨウ素131が甲状腺に取り込まれることです。

放射性物質が空から振ってきそうな時、花粉症対策のように部屋に入る前に払い落とすと言われているのは、外部被曝を少なくする以外に、外部被曝が内部被曝に転じるのをできるだけ防ぐという意味もあります。

あわせて読みたい

上記、Wikipediaは良く書かれていると思います(SMC注:2011年3月20日時点。
Wikipediaは随時変更される可能性があるので注意)。

電離放射線障害防止規則で定められた値(曝露時間も考慮してくれています)も書き込まれています(テレビなどではこの重要な規則がほとんど出てこず、CTスキャン1回分 胃の透視1回分とか胸のレントゲン写真1回分というようなものばかりです。医療での被爆は国際放射線防護委員会ICRPの勧告でも別扱いであり比較の対照としてあまり持ってくるべきではないでしょう)。

ただ、電離放射線障害防止規則は労働者向けですので、これを一般人口に適用するのは高すぎるという批判があるかも知れません。

ICRPの勧告の方は、労働者(職業性曝露)だけでなく一般公衆に対しても書かれています。また、電離放射線作業をする労働者は、内部被曝よりも外部被曝が主だと思いますが、原発事故の場合は内部被爆の方が問題となりますので、その点でも批判が来るかも知れません。

電離放射線障害防止規則https://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47
S47F04101000041.html
(特に、第四条から第六条、「放射線業務従事者の被ばく限度」を参照)

Q.
いま「ただちに影響がない」とされている放射線量でも、放出された放射性物質で汚染された水や食べ物を摂取したら、内部被ばくするのではないかと思います。大丈夫なのでしょうか?

はい、内部被曝します。しかし、内部被曝により影響があるかどうか(大丈夫かどうか)は、放射性物質の量だけでなく、放射性物質の種類(種類によって半減期が違います)、同じように放射性物質の化学的な性質にも影響されます。

あるいは取り込まれた場所の放射線への感受性(放射線から受ける影響の大きさ)によると思います。人体の中で一番早く影響が出そうなのは、甲状腺と思われます。特に若年層に影響が出ます。

Q.報道されているのは放射線量ばかりです。しかし例え放射線量は低くても、少量でも放射性物質を吸い込めば、内部被ばくしてしまうのではないでしょうか?

はいそうです。内部被曝します。後は、上記の質問と同じです。放射性物質の種類の情報が流れていませんね。測定されているはずですので、この放射性物質別の情報が欲しいですね。

Q.福島では連日150μSv/hなどという数字が報道されています。これですと、数時間で一般人の年間許容量とされている1mSvを超えてしまうのではないでしょうか。たとえばこの数値は、がんなどのリスクをどの程度高めるのでしょうか。

150μSvは0.15mSvですね。従って、150μSvが24時間続き、これが1年間続いたとして、屋外にいてフルに被爆したと仮定して、年間1.314Svの被爆です。そしてICRP2007年勧告で計算することができます。0.15×24×365×0.055(/Sv)÷1000=0.072です。7.2%程度だけリスクの増加があることになります。しかし、150μSvはその日の最高値のはずで、スパイク状に高まった値と思います。

そうすると150μSvが24時間続くという仮定は相当高めということになります。
要するに、これまでの被曝量の累積量(積分値)を示してもらう必要があります。

ただ、もし150μSvが24時間続き、これが14日(2週間)続くだけでも、50.4mSvとなり、労働安全衛生法電離放射線障害防止規則で定めた基準である年間50mSvを超えてしまいます。また妊娠可能な女性労働者の3ヶ月5mSvも超えます(妊婦にはもっと厳しい)。ましてやICRP2007に定められた公衆被爆年間1mSvは軽く超えてしまいます。今回の状況は即座には解決しそうになく、状況により余裕はそれほどないと思います。

Q.内部被ばくすると、がんなどの病気になる確率はどのようなものでしょうか?
これまでの疫学研究の成果を教えて下さい。

私が多発性骨髄腫で調べた時には内部被曝と思われる研究論文もありました。
ICRP2007年のデータでも、多くは外部被曝の健康影響での話です。内部被曝は放射線労働者の場合など普通はあまりしません。ただ放射線労働者の場合でも、人のデータでは外部被曝と内部被曝を厳密に分けるのは難しいと思います(JCOの事故などでは外部被曝のみと言えるでしょうが)。

内部被曝が多くなるのはチェルノブイリ事故(要するに原発事故)や昔の医療被曝などのデータなどがあります。海外の住宅では、住宅に使われている土から発生するラドンによる内部被曝が問題となっています。日本の原爆でも内部被曝はあったと思います。

内部被曝の時に、外部被曝のデータからどのように換算するか、あるいはどう考えるのかについて私は詳しくは知りません。ただ、内部被曝の方が影響を大きく考えるようですし、半減期が日単位と短くてもヨウ素131のようにベータ線の放出が多いと影響は大きいようです。

ところで、理論的にはじき出された確率が、そのまま発生するかどうかは別問題です。誤差が入ります。また、その発生したがんが実際に観察可能かどうかはまた別問題です。少ないと観察可能ではありません。さらにまた観察可能ながんの多発があっても、日本政府や地方行政や日本の研究者がこの多発を観察しようとするのかどうかというのも別の問題です。観察可能でも、適切な方法で観察しようとしなければ観察できません。

これまで様々な発がん問題で、日本政府(政治家はしようと思っても官僚の方はしようとしません)は決して観察しようとしませんでした。原爆問題で観察されているのはアメリカ政府が放射線影響研究所というのを作ったからです。

観察しようとしないのは、観察する方法が分からないのか、観察したくないのか、単に仕事が増えるのがいやなのか、いずれかは分かりません。法律は、食中毒事件は調査が義務づけられていますが(食品衛生)、この場合は、義務づけられていませんので行政がイヤだと言えば、調査されません。いわゆる法の穴ですね。

Q.
このままの状態が続けば、あるいはさらに状況が悪くなれば、将来、関東一円ではがんになる人が増えるなどの長期的な影響が予想されますが、そうした人々の健康を国が補償していくことはできるのでしょうか?(がんになっても、因果関係が認められないのではないでしょうか)

どの程度発症するかは放射線量によります。観察可能な線量になるかどうか(わずかな量では影響は測れません)、あるいは観察しようとするかどうかです。以上の条件が全てクリアーされた時にようやく因果関係が推定可能になります。

このような、国が実際観察をしようとする(できる)レベルというは相当な被曝量です。例えば100mSv以上の単位で相当数の方が被爆するような状況でしょう。そんなときには中心地では急性障害で亡くなる人も出ているでしょう。

ただ、これまで国は実際に観察が行われた多くの事例(例えば尼崎のアスベスト)で、推定可能ではっきりと因果関係が認められる場合でも因果関係を認めません。このようなことを踏まえて、因果関係が認められて補償問題を議論できるようになると思われますか?

上記の幾つかの条件はどう見てもクリアーしなさそうですので、人々の健康を国が補償するという話には至らないでしょう。

SMC注:既に、単位の読み違えなどでパニックになられている方もいるようです。情報は冷静に利用して下さい。

<追記>
現在、ネットでも話題になっているようですが、スウェーデン国立スペース物理研究所の山内正敏先生が、「放射能漏れに対する個人対策」と題して、以下のURLに判断の目安を分かりやすく示しておられます。改訂もこまめに行われているようです。
https://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html

私は、放射線被曝によるがんの影響の程度を自分で電卓に計算するために、曝露の指標としての各地の放射能レベルの観察値に関しては積分値が必要と、前提の議論とここで求めておりました。この煩雑さを、山内先生はすぱっと整理して、赤信号・黄信号として分かりやすく示しておられます。個人対策として非常に役に立つと思いますので、上記リンクをご覧になって是非参考にしてください。

要約しますと、測定から避難まで半日かかると見積もり、状況が刻々と悪化する時:
(1)居住地近くで1000マイクロSv/時(=1ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない=赤信号。
(2)居住地近くで100マイクロSv/時(=0.1ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い=黄信号。
(3)妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで300マイクロSv/時(=0.3ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない=赤信号。

(4)妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで30マイクロSv/時(=0.03ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い=黄信号。

(2)や(4)の1割以下(居住地近くでの値が、普通の人で10マイクロSv/時、妊娠初期の人で3マイクロSv/時)なら安心して良い

さらに、居住地近くでの測定値がないときに、原発から風下にいる住民(地表風向きに対して上から見て時計回り90度、反時計回り30度の扇形の範囲内の住民)が、原発での測定値に基づいて判断する目安も書いてありますので、参考にしてください。

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