日本のメディアは原発事故を故意に過小評価している?

日本の現状をよく言い当てていると思う2つの記事を紹介します。

ひとつは、海外の見方
<日本のメディアは原発事故を故意に過小評価している>

「新しく計測された放射能の数値をくりかえし報じ、政府による基準値との比較はおこなうが、その数値の意味づけや評価は先送りする。そのかわり、日本のテレビを観ていると、専門家なる人たちが意見を求められる。この人たちのほとんどは大学教授で、カメラの前で明確な回答を避ける術を心得ているらしい。」

もう一つは、テレビで「安全だ」と言ってる専門家に自重を求める専門家

「福島市には、幼児や妊婦も生活しておられます。また、1時間だけの被曝量を言っても、その人たちは24時間ずっと生活をしているのです。たとえ屋内にいても換気をすればあまり差はありません。放射線障害防止規則による妊婦の被曝量の限界は毎時約0.5マイクロシーベルトですから、私達専門家は福島県の東部の多くの市町村において、妊婦等の避難を勧告する立場にあるのではないでしょうか。」

 大学教授や医師など専門家と政府は、放射線の影響を最も大きく受ける胎児や子どもたちの「いのちを守ること」を何よりも優先してほしい。


2011-03-28 Spielen Japans Medien die Atomkrise herunter?
日本のメディアは原発事故を故意に過小評価している?

Zeit Online, 26.3.2011 – 09:43 Uhr

ツァイト・オンライン 2011年3月26日 9:43

東京に暮らす人々は、まともな情報が自分たちに届いておらず、メディアや国の情報機関は状況分析を避けているのではないか、と感じている。

東京の繁華街――1000万人あまりが暮らすこの大都市では、まだ多くの人が、いつもどおりの日常生活を続けている。実際には、福島の上空にどれだけの煙があがっているのか? 煙にはどの程度の放射線が含まれているのか? 事故のあった原発にいる作業員たちの状況はどの程度まで深刻なのか? こうした問いへの答えは、今のところまず日本のメディアから世界に伝えられている。だが、日本のメディアは信頼できるのか? 原発事故を客観的に伝えているのだろうか?

国営[訳注:原文のまま]テレビ局であるNHKと、日本の独立通信社である共同通信は、いずれも大きな組織であり、ニュース供給を先導する役割をになっているが、福島についても一番多くの情報を提供している。「NHKと共同通信の情報はそれなりに役立ちますよ。綿密に調べてあるし、英語版サイトにもかなり詳しく訳されています。ただ、分析は自分でやらないといけない」と、パリのエネルギー問題専門家マイケル・シュナイダー[Mycle Schneider]氏は述べる。

NHKと共同通信は、[分析抜きの]ニュースの形でしか報道しないことが多い。新しく計測された放射能の数値をくりかえし報じ、政府による基準値との比較はおこなうが、その数値の意味づけや評価は先送りする。そのかわり、日本のテレビを観ていると、専門家なる人たちが意見を求められる。この人たちのほとんどは大学教授で、カメラの前で明確な回答を避ける術を心得ているらしい。特に、福島の周辺から東京に至る地域では、多くの市民がこのことに苛立ちを示している。「政府が自分のもっている情報を出さないのは、政府なりの理由があるかもしれません。でも、メディアは公共のものでしょう」と、東京の服飾企業のオーナー、エノモト・ヨシアキ氏は述べる。

エノモト氏が苛立っているのは、福島の事故以来、NHKを観たり、日本の四大紙を読んだりすると、ジャーナリストたちが状況について自分の判断を避けようとしているのが感じられる点だ。「大きなパニックをみんなが恐れているという感じがします。だから、誰も本当のことを言わないんです」とエノモト氏は言う。

福島に関する国内の報道の自由は、すでに先週の金曜日[訳注:3月18日]にその限界を示していた。大手の朝日新聞社が出している週刊誌AERAは、「放射能がくる」というタイトルで発売された[訳注:発売日は3月19日]。東京に住む人々の目から見れば、たしかに間違っていない謳い文句だ。現に、東京では今日[3月26日]も水道水の放射能汚染に悩まされている。だが、このAERAのタイトルは、日本のメディアの自己理解からすると、あまりにパニックを煽っていると思われた。各方面から批判が殺到し、結局、AERA編集部は公的に謝罪する羽目になった。

この点で、日本のメディアは、原発事故後の東京を覆っている重苦しい静寂を映し出している。いまだに公共の場で騒動が起こる兆しはまったくない。事故が発生してから毎日、発電所を経営する東京電力の東京本社前でデモに参加しているのは、ごく少数の原発反対運動家だけだ。だが、それに応じて、東京に住む誰もが感じている不安が公共の場で露わになる機会もほとんどない。情報に通じている人々の多くは、国外のメディアやウェブサイトを参照している。東京では、シュピーゲル誌オンライン版ないしウィーンの気象学・地球力学中央研究所(ZAMG)による、放射性物質が福島から飛散していく様子のシミュレーションが特に注目を集めている。

オーストリアの専門家たち[ZAMG]は、福島における放射能排出量を、チェルノブイリと対比して、ヨウ素 131については10~20%、セシウム 137については、20~60%と見ている。これまで日本のメディアでこのような推定値が公表されたことはない。気象庁は、測定装置が震災で損傷した、と弁解している。このため、公的なインターネット情報サービスである「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)も長いこと停止していた。本来、SPEEDIは、原子力安全関係機関が放射能災害に際して市民に情報を提供するためのサービスだった。だが、SPEEDIが測定値を初めて公表したのは、今週の水曜日[3月23日]になってからだった。ウィーンの気象学者たちのほうが早かったというのは、あまりいい兆候ではない。

日本のメディアや情報機関がここまで慎重になってくると、福島の事故の重大さをこうしたメディアや情報機関がまともに判断できるのだろうか、と海外のメディアは自問せざるをえない。こうしたジレンマを心得ているといわんばかりに、ニューヨーク・タイムズ紙は、退職したアメリカの原子力技術者の発言を引用した。この技術者は、福島の原子炉内に[注入された海水によって]塩が蓄積している危険について警告している。こうした警告も、本来なら、日本から発せられてしかるべきだったろう。


放射線の専門家に自重を求める

テレビ出られて福島原発の放射線について「安全だ」と言っておられる専門家の方に自重を求めたいと思います。

わたくしたち原子力の専門家は、原子力や放射線の正しい利用を進めるために、国際的な勧告や放射線障害防止に関する法律を厳しく守ることを進めてきました。

決してレントゲンや CT スキャン等だけを参考にして安全性を議論してきたのではありません。また、1年間の被曝量で規制値を決めても、それは1年間ずっと続く場合だけではなく、規制値を超える場合には、危険があると考えて良いということだったのです。

委員会では、半減期はもとより、元素の種類による身体への影響等極めて詳細で厳密な議論を経て決めてきたのです。

確かに国際的な基準になっている空間の線量率が1年に1マイクロシーベルトという数値、WHO が定める食品の放射性物質の量など、日本の委員会では厳しすぎるという意見があったことは確かです。

しかしわたくしたちはそのような議論を経て、現在の基準を作ってきたのです。

特に私が問題だと思うのは、3ヶ月に1.3ミリシーベルトを超える場所は「管理区域」として設定し、そこでは放射線で被ばくする量を管理したり、健康診断をしたりするということをわたくしたちは厳密に守ってきました。

福島市においては瞬間的な線量率が1時間に20マイクロシーベルと程度まであがり、現在でも毎時10マイクロシーベルトのレベルにあります。この線量率は、文科省の測定方法を見ると外部被ばくだけであって、規則に定める外部被曝と内部被曝の合計ではないと考えられます。

今後、内部被曝などを考えると、毎時数マイクロシーベルトの状態が2、3年は継続すると考えられます。

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一方、福島市には、幼児や妊婦も生活しておられます。また、1時間だけの被曝量を言っても、その人たちは24時間ずっと生活をしているのです。たとえ屋内にいても換気をすればあまり差はありません。

放射線障害防止規則による妊婦の被曝量の限界は毎時約0.5マイクロシーベルトですから、私達専門家は福島県の東部の多くの市町村において、妊婦等の避難を勧告する立場にあるのではないでしょうか。

現在ではむしろ政府より放射線の専門家の方が「安全だ」ということを強調しているように見えますが、むしろ放射線の専門家は国際勧告や法律に基づいて、管理区域に設定すべきところは管理区域に設定すべきといい、妊婦の基準を超えるところでは移動を勧めるのが筋ではないかと思います。

その上で、政府や自治体がどのように判断するかというのは放射線の専門家の考えるところではないとわたくしは思います。

政治家やメディアでは「国民を安心させなければいけない」と言っていますが、現実に法律で定められた規制値を超えている状態を安全といい、それで安心していいというよりもむしろ、現実をそのまま伝えて判断を社会に任せるべきと思います。

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また我々は学問的立場で考えていますので、各々の専門家に各々の考え方があることは十分に知っています。

わたくし自身が国際勧告のレベルは少し厳しいと考えている人間ですが、しかし、放射線防護に関する日本の法律も50年を経ています。その間、十分に検討を尽くされてきたのです。わたくしたちは原発問題と社会問題とは切り離して、厳密に放射線と人体への影響を考えて発言していかなければいけないと思います。

特に核分裂生成物に汚染された土地は、長寿命半減期の元素によって線量率は直ちに下がらないと考えられます。このような場所に長く生活しなければならない子供たちのことも考えて発言をお願いしたいと思います。

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むしろわたくしたちは、福島原発の事故がもたらす新しいこと、例えば東京のようなコンクリートとアスファルトで固まったところにどのくらいの残留放射線が残るかとか、福島第一、3号機のようにプルトニウムを燃料として用いている原子炉の放射性物質の影響等を至急検討する必要があると考えています。

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2011年3月26日のあるテレビの番組を見ていましたら、今まで「安全だ」と断言していた人が「私の言っている「安全」というのは東京だけだ」と最後にご発言になったのに強い違和感を覚えました。

東京が人口も多く、重要なことはわかりますが、最も危険なのは福島県とその周辺であり、安全だと発言されるには福島県の人のことを考えなければならないと思うからです。

わたくしの経験では、原子力や放射線を扱っている方々は決して不誠実な人ではありませんでした。むしろ会議等を行っている時にわたくしは、皆さんが十分に考え放射線の身体に対する影響を少しでも減らそうと努力されていると思っていました。

その我々の専門家の雰囲気をぜひ思い出していただきたいと思っています。

(平成23年3月26日 午前9時 執筆)

武田邦彦

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