原発を推進してきた組織は、政府をはじめ東京電力も保安院も原子力安全委員会も原発事故の深刻さを小さく小さく見せようとしてきた。4月12日に保安院が原発事故のレベルを最悪の「レベル7」と発表したときも、これまで放出された放射性物質の量について、保安院は37万兆ベクレル、原子力安全委員会は63万兆ベクレルと推定し、チェルノブイリの推定520万兆ベクレルの1割程度だとして「チェルノブイリとは相当異なる」と保安院は説明した。
そもそも、この「37万兆」と「63万兆」が2倍近く違うことが大問題であり、これまでの「実績」からみて両方が過小評価の可能性が高い。オーストリア気象当局は、事故後3~4日の間に放出された放射性物質セシウム137の量は、チェルノブイリの原発事故の放出量の20~50%に相当するとの試算を明らかにしている。
また、その後に判明したのは、原子力安全委員会が4月5日以後の放出量を1日24兆ベクレル以下と見積もっていたが、実際には1日あたり154兆ベクレルに達していた。つまり、実際の放出量は6倍以上も多かったのだ。
そして、基礎データを一番把握している東京電力の「放出量がチェルノブイリに匹敵する、もしくは超えるかもしれない懸念を持っている」という発言を重視しなければならない。なぜなら、賠償責任を負う東電が、不確実で「不利な予想」を発言することはないからだ。
このような事故全体の大きな状況把握を抜きにして、避難基準やエリアを決めることはできない。文部科学省が、幼児も含めた子どもたちの避難基準を大人と同じ「20ミリシーベルト」に決めたが、これまでの基準1ミリシーベルトの20倍であり、国内外の激しい批判を浴びている。
ノーベル賞を受賞している国際的な医師の団体「社会的責任を果たすための医師団」は、文部科学省が子どもの1年間の許容被ばく線量の目安を「20ミリシーベルト」に設定したことに衝撃を受け、「子供の場合、がんになるリスクが成人よりも2倍から3倍高くなる」と許容される被ばく線量の基準を引き下げるよう求めている。
米国科学アカデミーによれば、安全な放射能の線量というものはなく、過去数十年にわたる研究から、放射線はどんなに少ない線量でも、個々人の発癌リスクを高めることがはっきりと示されている。
日本で危機が続く中、人に発癌の危険が生じるのは最低100ミリシーベルト被曝したときだという報道が様々なメディアでますます多くなされるようになっているが、100 ミリシーベルト の線量を受けたときの発癌リスクは100人に1人、10 ミリシーベルトでは1000人に1人、そして1 ミリシーベルトでも1万人に1人だとノーベル賞受賞の国際的な医師団は警告している。
(中部大学の武田邦彦教授は、規制値をこのように整理している)
今、原発事故に何の責任もない子どもたちが、大人の身勝手な都合で決められた避難基準によって人生を奪われる可能性が高まっている。
東京電力の鼓紀男副社長が30日、村内全域が計画的避難区域に指定された飯舘村と一部地域が指定を受けた川俣町で住民説明会を開き、住民に謝罪した。4月22日の指定以来、幹部が現地を訪れ、謝罪するのは初めて。これまでの避難と異なり、避難開始までの期間に住民がいかに生活基盤を確保するかが重要となる中、参加者からの質問は「いつ、どのように補償を開始するのか」といった補償問題に集中したが、東電側からの明確な答えはなく、避難開始への不安を残す結果となった。
「私が将来結婚したとき、被ばくして子どもが産めなくなったら補償してくれるのですか」。人口約6100人全てが避難対象となる飯舘村で行われた説明会。原発事故から1カ月半が経過してようやく謝罪に訪れた東電側に対し、住民は怒りをぶつけ、将来の不安を悲痛な叫びとして訴えた。
出席した村民約1300人が見守る中、同村飯樋の高校1年生渡辺奈央さん(15)は、将来の被ばくリスクについて質問した。鼓副社長は「とても重い質問。影響が出ないようにしたい」と答えると、「危ないからもっと早く避難すべきと言ってほしかった」と対応の遅さを指摘した。
(2011年5月1日 福島民友ニュース)
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子どもの屋外許容線量、緩い基準に厳しい批判 (中国新聞)
福島第1原発事故で、放射線が検出された学校について、文部科学省が屋外活動制限の可否を判断するのに「年20ミリシーベルト」と、一般人の年間許容限度の20倍という高さの被ばく線量を目安としたことに、激しい批判が噴出、内閣官房参与の学者の抗議の辞任にも発展した。菅直人首相は基準を妥当とした国の原子力安全委員会の見解を根拠に正当性を主張したが、民主党内からも撤回を求める声が上がり、政権にとっての「大きな爆弾」(党関係者)となる可能性も出てきた。
▽学者生命
「年20ミリシーベルト近い被ばくは業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは受け入れがたく、強く抗議し見直しを求める。参与の形で容認したと言われれば学者としての生命は終わりだ」―。29日、記者会見した小佐古敏荘こさこ・としそう・東大大学院教授はあふれる涙をこらえながら、こう語った。
同教授が問題視するのは文科省が19日、福島県の小中学校などでの屋外活動を制限する放射線量として「年間の積算放射線量20ミリシーベルト」との目安を基に「屋外で毎時3・8マイクロシーベルト」と決めたことだ。
民主党関係者によると文科省は、厳しい基準を当てはめた場合、学校の休校や疎開が必要になることを指摘。「疎開先の学校でのいじめや放射線に対する不安など、疎開や休校で子どもたちが受けるストレスが懸念される」と説明したという。
▽わずか2時間
基準値の裏付けとなるのが、これを妥当とした原子力安全委の見解だ。30日の衆院予算委員会で菅首相は「安全委の助言を得ながら判断した。場当たり的ではない」と反論。高木義明文科相も「子どもの心理的なことも、安全委の助言も踏まえ取りまとめた」と述べた。
だがその直後に、安全委員会が助言を求められてから2時間後に「政府の基準案は妥当」と回答していたことが判明。政権側の「お墨付き」は、その妥当性が厳しく問われる事態になった。
ある民主党議員は「文科省の課長補佐が決めたことで、決め方自体がおかしい。安全委も機能しなかった」と批判。原口一博前総務相も短文投稿サイト「ツイッター」で、基準見直しの必要性を主張するなど、党内の批判も強まる一方だ。
▽進まぬ対策
市川龍資いちかわ・りゅうし・放射線医学総合研究所元副所長が「できる限り現場の放射線量を下げる努力をすることが求められる。学校それぞれの事情に応じて除染や場所の移転など合理的な対応を取った上で、基準を決めるべきだ」と指摘するように、専門家の中には放射性物質を取り除くことの重要性を指摘する声が強い。
だが、政府は25日の段階でも「除染については考えていない」(文科省学校健康教育課)と危機感が薄く、30日になってようやく「(除染など)可能なことはできるだけやりたい」(枝野幸男官房長官)、「(校庭などの)土を持っていく場所など課題があるが、しっかり取り組むよう指示している」(菅首相)と前向きの姿勢を見せた。
しかし、同じ日に記者会見した文科省の坪井裕つぼい・ひろし審議官は「(土の除去を含め)線量率が下がる取り組みはやっていきたい。ただ具体的な支援についてはまだ検討していない」とコメント。混乱が大きくなるばかりで、具体的な除染の方策は見当たらない。
原子力資料情報室の沢井正子さわい・まさこさんは「年20ミリシーベルトに設定した根拠と理由が示されていないし、子どもにどういう影響が出るかの説明もない。そういうところで子どもを過ごさせるというのか」と憤っている。