ドイツは国内17基の原発を2022年までに全て停止させる「脱原発」政策を打ち出した。メルケル首相は昨年9月、既存原発の稼働期間を延長する計画を決めたが、福島の事故後、政策を急転換させた。
「福島原発の手の付けようのない状態を見て、批判覚悟で判断したようだ。大きな政策転換は危機の直後が適している。日本は大変な時期だが、危機を政策転換のチャンスとして生かさなければ、被災者の方にも失礼になる」
「最終的に国民の声が政策に反映された」
長期的視野で脱原発へ 独の専門家に聞く (西日本新聞)
2011年6月5日 00:39 カテゴリー:アジア・世界
福島第1原発事故をきっかけにエネルギー政策をめぐる議論が世界的に高まる中、ドイツは国内17基の原発を2022年までに全て停止させる「脱原発」政策を打ち出した。自然エネルギーへの転換は可能なのか。ドイツのエネルギー政策諮問機関「倫理委員会」委員で、ベルリン自由大学環境政策研究センター長、ミランダ・シュラーズ教授に聞いた。
●メルケル首相は昨年9月、既存原発の稼働期間を延長する計画を決めたが、福島の事故後、政策を急転換させた。
「福島原発の手の付けようのない状態を見て、批判覚悟で判断したようだ。大きな政策転換は危機の直後が適している。日本は大変な時期だが、危機を政策転換のチャンスとして生かさなければ、被災者の方にも失礼になる」
●首相に「10年以内の全廃が可能」と提言した倫理委員会ではどんな議論がなされたか。
「委員は反原発派と原発容認派がほぼ半々だが『いつかは原発を廃止する』ということでは一致していた。消費者団体のメンバーも入っており、最終的に国民の声が政策に反映された」
●経済界の反発や原発を立地する地域の雇用の問題はどうするのか。
「電力会社は損失分を補償すれば強くは言わない。原発がある場所には、天然ガスの発電所を造る計画も持ち上がっており、雇用継続や設備の有効利用につながる」
●自然エネルギーの普及には高圧送電線の整備が必要。コストが電気料金に反映されるのでは。
「(1世帯当たりの)電気料金の上乗せは日本円で年間1万~3万円という試算がある。ただ、家電のエネルギー効率の改善などで家庭の電気使用量は減っており、電気の単価が上がったとしても、支払い料金はそこまで上がらないのではないか」
●5月の主要国(G8)首脳会議(サミット)で菅直人首相は自然エネルギーの割合を20年代に20%まで高めると発表したが、首相交代になりそうだ。
「日本の潜在力は高いが、それを生かす強いリーダーシップが欠け、政治も不安定だ。政権が代わったとしても引き継がれるような長期的なビジョンが必要だ」
■ミランダ・シュラーズ・ベルリン自由大学環境政策研究センター長
1963年、米国ニューヨーク州生まれ。ミシガン大学で博士号を取得。専門は比較政治学。2007年に研究拠点をドイツに移し、ドイツ環境省の環境問題専門家委員会委員、欧州環境・持続可能性評議会会長も務める。高校時代は茨城県水戸市にも留学し「日本はセカンドホーム(第二の故郷)」と語る。
=2011/06/05付 西日本新聞朝刊=