放射線に揺れる教育現場  

FNNニュース(5月26日放送)から書き起こし(抜粋)

子どもたちの「安全」は 放射線に揺れる教育現場

福島第1原発の事故以降、子どもたちの姿が消えた福島の学校のグラウンド。
政府が暫定的に決めた放射線量は、子どもたちにとって本当に安全と言えるのか、揺れる保護者や教育現場の今を取材しました。

3月14日、福島第1原発の3号機が水素爆発し、翌15日午後、およそ60km離れた福島市に異変が起きた。0.05マイクロシーベルト/hだった放射線量が、一気に20マイクロシーベルト/hを超えた。

5月25日現在、福島県の測定値は、1マイクロシーベルト/h前後を推移している。
福島市在住の上野一詔(かずのり)さん(37)は、今、自宅マンション前の放射線量が、公表されている数値を大きく上回っていることに不安を感じていた。
上野さんは「7.5(マイクロシーベルト)前後ぐらいですね、このへんは。7.5マイクロシーベルト…」と話した。

平常時(0.05マイクロシーベルト/h)の数十倍から百倍という放射線量の中での生活。将来、子どもたちに被ばくの影響が出るかもしれない。
上野さんは、福島市内で生活を続けるべきか苦悩していた。

上野さんは、「今でも、そんなに外で遊ばせてる子はいないと思いますね。せいぜい30分、1時間。それ以上は怖いですね」、「みんな悩んでると思うんですよね、やっぱり。福島を離れて…。でも、相当なエネルギーが必要ですよね、離れるのには」と話した。

福島市だけで、一時的な転校、いわゆる「疎開」した小学生は、23日時点で、179人になった。小学2年生の上野愛奈(あいな)ちゃん(7)は、被ばくを避けて、休日でも室内で過ごすことが多い。通っている小学校は、放射線量が高いため、校庭の使用自粛が続いている。5月に予定されていた運動会は、中止となった。

鈴木 寛文部科学副大臣は4月19日、「校庭等の線量が、3.8マイクロシーベルト/hというのが、1つの目安になっております」と発表した。4月19日、文部科学省は、福島の子どもについて、年間の被ばく上限を暫定的に「20ミリシーベルト」に定め、これをもとに、校庭を使用する放射線の基準値を3.8マイクロシーベルト/hと通知した。

しかし、福島県内の小学校では、3.8マイクロシーベルト/hを下回っても、大半が校庭の使用自粛を継続している。教育現場が、文科省の基準値を信用していないのだ。

郡山市は、原子力安全委員会の元委員で中部大学の武田邦彦教授のアドバイスを受けて、いち早く、校庭の被ばく対策を開始し、基準値も、独自に1.5マイクロシーベルト/hに設定した。

郡山市の原 正夫市長は「(被ばくの影響が)実際どうだったんだろうってことは、20年、30年たってみないと、わからないわけですね。ですから今、われわれが判断できることは、今までより放射線量の影響を少なくするということが基本で、やってきたわけですから。その基本を崩さないということだと思うんですね」と述べた。

郡山市立薫小学校の校庭は、文科省の定める数値を上回る4マイクロシーベルト/hだったが、表面から5cmを削ったところ、0.5マイクロシーベルト/hに下がったという。
問題は、汚染された土の処理で、文科省は、校庭の上の層と下の層を入れ替える案と、敷地にシートを敷いて埋める案を示している。

一方、郡山市は、校庭の隅に汚染土を山積みに保管している。
その理由について、原市長は「東電さんにお引き取りいただくように、お願いをしています。しかしまだ、東電さんから返事は返ってこないんですけども」と話した。
東京電力が対応を明らかにしていないこともあり、汚染された土が置かれた校庭の使用は、再開できずにいた。

小学生の保護者は「郡山市の対応は、すごく早くて、すごく助かったなという気はしますけれども。やっぱり、あそこに土があるので、それは不安っていう部分はありますね」と話した。また、保育園児の保護者は「結局、その土をどこかにやっていただかないと、今後心配ですし。撤去したからといって、外に出て遊べるっていうわけでもないので」と話した。

23日、福島市の上野一詔さんは、文科省の前にいた。
上野さんは「国に、福島の親たちの気持ちをぶつけていきたいと思います」と話した。
上野さんが、初めて市民運動に参加した理由は、福島の子どもの被ばく上限を年間20ミリシーベルトから、本来の1ミリシーベルトに戻すことを、文科省に求めるためだった。

文科省の科学技術・学術政策局の渡辺 格(いたる)次長が、「健康上、問題があると考えられるのは、100マイクロシーベルトを超えると…」と話すと、市民運動の参加者からは怒号が上がった。

福島県の保護者は「撤回してください、本当に。できるだけ、1ミリシーベルトに近づけると約束してください」と要求した。文科省の担当官僚を相手に、交渉は2時間余り続いたが、議論は最後まですれ違ったままだった。

上野さんは「がっかりしました。(文科省には)子どもの命より大切なものってあるんだなと思って。かなり悔しいですね。見殺しですね。福島の人たちは…」と話した。

子どもたちの未来を守るために、今、何をすべきか。上野さんの苦悩は続く。

(05/26 01:31)

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