経産大臣の「原発再起動」声明は撤回すべきだ 日弁連会長

日弁連会長は、次のような理由から声明を撤回すべきだと表明。

第1に、未だ原発事故は収束していない。事故の原因・経過の調査はその緒についたばかりであり、事故の全体像及び詳細は未だ不明な点が多い。第2に、全国の原発の安全確保策の見直し策は、これから検討される段階であり、安全確保対策は未だ確立されていない。

原発で発生した長時間の全電源喪失という事態は、これまでの安全設計上は考慮不要とされていたが、原子力安全委員会の班目委員長は「すぐさま改訂しなきゃいけない」と述べている。

事故原因の解明も未だできておらず、この指針改訂に基づく安全性の確認もなされていない段階で、経済産業大臣が原発の再起動を求めることは、今回の原発事故の深刻な被害を顧みない、甚だしい安全軽視の姿勢であるといわざるをえない。

<以下、全文>

経済産業大臣の「原子力発電所の再起動について」に対する日弁連会長声明

去る6月18日、経済産業大臣は「原子力発電所の再起動について」と題する声明を発表し、福島第一原子力発電所の事故を踏まえて各電気事業者が「津波による全交流電源喪失を想定した緊急安全対策の実施により、炉心損傷等の発生防止に必要な安全性を確保していることを確認し」、また、「シビアアクシデントへの対応に関する措置が適切に実施されていることを確認した」として、各地の停止中の原子力発電所の一部について再起動を求めた。

しかしながら、この声明は、以下の理由から撤回すべきである。

第1に、未だ福島第一原子力発電所の事故は収束していない。
すでに炉心が溶融し、圧力容器から漏れ出しており(「メルトスルー」)、今後どのように事故が変遷していくか全く予断を許さない。事故の原因・経過の調査はその緒についたばかりであり、事故の全体像及び詳細は未だ不明な点が多い。

そもそも今回の事故原因が津波だけに起因するものか、地震そのものに起因する機器損傷が影響を与えているのかという最も基本的な事実関係についてさえ未だ現地調査ができないために解明されていない。にもかかわらず、上記声明は、津波と電源対策の強化だけで安全性が確保されたとしており客観的な事実に反している。

第2に、原子力安全委員会は、6月16日に、安全確保策の抜本的な見直しを図る必要があるとして、安全設計審査指針、耐震設計審査指針、防災指針の見直しを始めるとした。全国の原子力発電所の安全確保策の見直し策は、これから検討される段階であり、安全確保対策は未だ確立されていない。福島第一原子力発電所で発生した長時間の全交流電源喪失という事態は、これまでの安全設計上は考慮不要とされていたが、原子力安全委員会の班目委員長は「すぐさま改訂しなきゃいけないものと思っています」と述べている。上記のとおり今回の事故原因の解明も未だできておらず、この指針改訂に基づく安全性の確認もなされていない段階で、経済産業大臣が原子力発電所の再起動を求めることは、今回の原発事故の深刻な被害を顧みない、甚だしい安全軽視の姿勢であるといわざるをえない。

この点、伊方原発最高裁判決(1992年10月29日)は、原発の安全審査の「具体的審査基準に不合理な点がある」場合には、原子炉の設置・運転が違法となる旨述べており、この最高裁判決からしても、安全審査基準の見直しをすることなく国が運転再開を認めることは許されない。

この声明に対しては、原発立地自治体の知事がこぞって反対又は疑問を呈しているが、地域住民の生命と安全に責任を有する者として当然の反応であるというべきである。また、最近のある世論調査では、国民の8割が原発の廃炉推進の意向を示している。このような知事の意見や世論に逆行してまで、原発再起動を強行すべきではない。

よって、経済産業大臣の声明は、直ちに撤回すべきである。

2011年(平成23年)6月23日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次